江戸中期の農政および意見書。3編15巻。1721年(享保6)成立。田中丘隅(休愚)(きゆうぐ)著。内容は77項目にわたり賦税,国用,民役,村役人論,地方役人論,治水政策,交通政策,土地政策に及ぶ大著。川崎宿の本陣,名主,問屋を兼務した丘隅が長年の体験に基づき書き上げたもので地方書(じかたしよ)ではない。執筆のねらいは民間生活の実態を為政者に再認識させようとしたもので,幕吏の農政の参考に資する点が多い。1722年師の成島道筑により町奉行大岡忠相を通じ将軍吉宗に献上され,享保改革に建言が採用された節がある。この書の一部は《国家要伝》と改名され伝えられている。文中には幕吏の不正,役人と御用商人の結託を非難し,入札請負いの悪弊,草莽(そうもう)からの人材の抜擢(ばつてき),民間の意見の採用などにつき見解を述べ,民情の把握を提案している点に大きな特色がある。また農作業に関する具体的記述もみられ,当時の技術水準をさぐる史料としても重要である。《日本経済大典》所収。
執筆者:村上 直+筑波 常治
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
江戸時代の代表的な地方書(じかたしょ)。著者は田中丘隅(きゅうぐ)(邱隅、休蔵、兵庫)。1721年(享保6)ごろの成立。三編15巻。丘隅は武蔵(むさし)国八王子平沢村(東京都あきる野市)の出身で、のち川崎宿(神奈川県)の名主田中兵庫の養子に入る。養父没後は名主を継ぎ宿財政の再建に尽力した。また、正徳(しょうとく)年間(1711~16)には江戸に遊学し、荻生徂徠(おぎゅうそらい)、成島道筑(なるしまどうちく)から経義を学んでいる。本書は、このような経歴をもつ著者が村役人の立場から、税制、治水、駅制など77項目について意見・見聞を記したものであり、師成島道筑の手を経て幕府にも献上された。「御治世の長久に随(したがい)て段々官人威勢高く、心ならず民下卑賤(ひせん)の辛苦を知る人なし」、「惣(そう)じて官者は君威に誇り」など率直かつ忌憚(きたん)のない表現が随所にみられるのも本書の特徴の一つといえよう。
なお、農政・水利などに関する著作活動、荒川・酒匂(さかわ)川・多摩(たま)川などの治水工事遂行の功により、1729年著者丘隅は、武蔵国内3万石を支配する代官に取り立てられた。瀧本(たきもと)誠一編『日本経済大典』第5巻、同編『日本経済叢書(そうしょ)』第1巻所収。
[飯島千秋]
江戸中期の意見書。上中下3編で15巻77項目。武蔵国川崎宿名主の田中丘隅(きゅうぐ)著。みずからの経験をもとに民政の事実・意見を記録,1721年(享保6)の自序がある。22年に将軍徳川吉宗に献じられ,その後才を認められて幕吏に登用された。上編は年貢・小物成(こものなり)などの賦課や田地,用水川除等普請が百姓の重圧にならないよう地方役人の心得などをのべる。中編は宿駅・伝馬・道中時の災難など,下編は外国人来朝・御用木・諸普請等についてなど,細かい点にまで論が及んでいる。当時の下級官吏の腐敗,地主の横暴,御用商人の悪弊などの指摘もみえ,近世中期の村落社会・経済・政治の状況を知る基本文献の一つ。「日本経済叢書」「日本経済大典」所収。
出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報
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出典 旺文社日本史事典 三訂版旺文社日本史事典 三訂版について 情報
…絹物の行商をして見聞を広め,東海道川崎宿の本陣田中兵庫の養子となり,名主,問屋役を兼帯した。川崎宿の復興と繁栄をもたらし,1721年(享保6)幕府の民政に対する意見を述べた《民間省要》3巻77項目を脱稿し,師の成島道筑を通じ献上した。23年川方御普請御用を命ぜられ,荒川・多摩川の治水,二ヶ領用水・大丸用水の改修工事,26年相模国酒匂川の補修を行い,文命堤を築いた。…
※「民間省要」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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