大雨,強風,干ばつなどの異常な気象現象が原因となって生ずる災害をいうが,原因となる異常気象現象の種類や空間的・時間的規模およびそれによって被害を受ける対象によって種類は多岐にわたっている。
比較的激しい異常気象現象としては,強風,大雨,大雪(吹雪),降ひょう,砂あらし,黄砂などがあり,激しいというよりは持続的な異常気象現象としては,季節風,長雨,長期積雪,猛暑,干ばつ,冷夏,寒冬,暖冬などがある。これらの現象を起こす原因となり,天気図や気象衛星の雲分布などで見られるパターンには,台風,低気圧,梅雨前線,高気圧の持続,冬型気圧配置などがあり,さらにそれより小規模の局地天気図やレーダーに現れるものとしては,竜巻,発達した雷雲などがある。
異常気象現象に際して実際に気象災害が起こるかどうか,そしてそれが甚大かどうかということは,さらにそれによって起こる水や土の動きが関連する。強風が吹送する海面が広いほどその海面上の波高は高くなり,湾の形状によって高波や津波は高くなったりならなかったりする。峠や川筋,山裾などでは局部的に風が収束して強まるところがある。日本のように山が多く斜面の急なところでは,強い雨が降ると急に水位が高くなる。花コウ岩の風化地帯や火山灰地帯では山腹崩壊や土石流が発生しやすい。平野部では平常時には雨水は川に流れこむが,上流で大雨が降り堤防の中の河川水位が高くなると水はけが悪くなり,いわゆる内水災害によって広い地域が長時間水びたしになる。沖縄や瀬戸内海の島々のように高い山がなく,また地表土の通水性が良すぎるところでは,地下水の貯留がむつかしく干ばつ災害を受けやすい。以上の例で示したように,気象災害を受けやすい災害常襲地帯が局地的に分布している。
気象災害の分類に際しては,その原因となる異常気象現象によらず,災害を受ける対象によって分類することもある。例えば交通災害,航空災害,農林災害,工業災害,生活災害,建物災害,電力災害,海岸災害など細かく分ければ多くの災害に分類できる。交通災害では濃霧,積雪,吹雪,凍結などによる渋滞や,崩壊,水没などによる不通が問題となり,航空関係では上空の乱流,強風などによるものと,飛行場の視程の変化や気温の急変による浮力の変化などが問題となる。農林関係では崩壊,水没,土砂堆積など破壊的な被害と霜害(そうがい),凍害,冷害,干害など気温や降水の過不足によるものがある。工業関係でも工業用水や資材の輸送などに関連して多岐にわたる気象災害があり,一般市民の生活災害としては天気が生活に密に関係しているのはもちろん,飲料水の不足や冷暖房のための出費,農林災害や交通災害に関連した物資不足,物価上昇など幅広い異常気象との関連がある。建物災害については木造など建物自体の強風に対する抵抗力が問題であるほか,近くに高層ビルができたためのビル風や,日照不足による人災とのかかわりも多い。電力関係ではかつて主として水力に頼っていた頃には,降雨量とのきびしい関係があったが,その他電力輸送に関連して落雷,着雪などによる送電線や送電鉄塔の被害は大きな事故を呼び,また気温の異常な高低や日照の変化によって電力消費量が大きい影響を受ける。日本は海岸に沿ってほとんどの大都市や工場が存在するため,高潮によるゼロメートル地帯の浸水や防潮堤の破壊などは,都市の機能に壊滅的な被害を及ぼす可能性を持っており,一方海岸の漂砂による海岸線の後退も,重大な気象災害の一つである。近年はこれらの各種災害が複合して起こることが多くなってきた。
これらの気象災害は自然現象と人間の闘いの歴史という観点からも見直されなければならない。太古の人類は気象災害に対する抵抗力は弱かったが,広い地域に安全な場所を選んで移住することは比較的容易であった。人類が田や畑で定着して生活するようになると,狩猟生活に比べて安定した食料入手が可能となったが,山腹から平野へと生活の場を移したために水害を受けやすくなり,また干ばつ,冷害など新しい種類の農業災害を受けるようになった。流通産業の発達しなかった時代には,局地的な農業災害は周囲からの救済がむつかしいために,いたましい災害になることが多かった。近年になって農業中心でなく商業や工業が発達してくると,地域的な農業災害は軽減されるようになったが,一方,一地方の農業災害が他地域に波及するようになり,近年ではソ連(ソ連崩壊後は,ロシア連邦やウクライナ)やアメリカの農作物の収量が世界の経済に重大な影響を及ぼすようにさえなってきた。一方人口の著しい増大のために,人々は危険な地域にも住まなければならなくなり,また上述のような各種産業の発達と共に,気象災害の様相は複雑多岐にわたるようになってきた。しかしながら,かつては自然災害に無力であった人類はしだいに抵抗力を養ってきた。特に最近半世紀ほどの気象学の発展は目ざましく,地球上の気象現象を数日程度は数値計算によって予測できるようになってきた。また気象衛星や資源衛星は全地球上の気象現象だけでなく,それによる農業災害の分布までを常時監視することが可能になってきている。またテレビ,ラジオなどによる気象情報の伝達も飛躍的に進んできた。しかし人間生活の複雑化は新しい災害を呼び,しかも予報のむつかしい小規模の集中豪雨や突風による被害の予報は困難であって,防災科学の効果の増大を阻んでいる。
人間社会の変動が気象災害の様相を変えていく一方,気候も長い間には寒冷・温暖化をくりかえし,それが地球上の気象災害の質や分布を変える。このような気候変動は自然にも起こるが,人工的にも起こり得る。炭酸ガスの増加による場合のようにグローバルなものから,都市の温暖乾燥化のようなローカルなものまで,知らないまに人間が気候を変えている。
執筆者:中島 暢太郎
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気象現象の変動によっておこる災害をいう。気温の著しい低下によって、冬には凍害や寒害が、春秋には霜害がおこる。冬に気温が高いときには、暖冬害もおこる。降水量が過多になれば水害を引き起こし、冬は豪雪となって、社会に多大な害を与える。強い風は風害となって、建造物などを破壊するばかりでなく、乾風害や潮風害となって農作物に害を及ぼす。また海上の強風は大波をおこし、海難や港湾を破壊する原因となる。湿度の低下は、異常乾燥を引き起こし、火災発生の原因となる。そのほか落雷、雹(ひょう)害、濃霧による交通事故など、それぞれの気象要素の変動による害は多い。しかし個々の気象要素というよりも、総合された気象要素がその原因となっている気象災害も多く、強風と豪雨による台風災害、低温と日照不足による冷害、少雨と強い日射による干害などはその例である。また気象病のように気象がその誘因として作用する障害も多い。
大気汚染も、気象が直接の原因ではないが、海陸風の消長やオゾンなど、気象が大きく関連するので、気象災害の分野で扱うことが多い。また最近、世界的な気象の変動の結果、異常気象が大きな問題になってきている。これはアフリカの飢餓や世界の食糧や飼料の生産に大きく影響している。今後、この気候の変動の動向を、気象災害上の大きな問題として注目する必要がある。
[安藤隆夫]
『高橋浩一郎著『気象災害論』(1966・地人書館)』▽『畠山久尚編『防災科学シリーズ1 気象災害』(1966・共立出版)』▽『倉嶋厚・青木孝著『防災担当者のための天気図の読み方』(1976・東京堂出版)』▽『朝倉正著『異常気象に備える』(1981・日経新書)』▽『宮沢清治著『現代の気象テクノロジー3 防災と気象』(1982・朝倉書店)』
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