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農業気象 のうぎょうきしょうagricultural meteorology

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

農業気象
のうぎょうきしょう
agricultural meteorology

農作物の生育,収量,病虫害,農耕地の環境などの農業に関連した気象で,応用気象学(応用気象)の一部門。農作物は気温,降水,日射など気象に大きく影響されることから,その関係を求めることによって,播種,移植,収種の適期が決められたり,収種高が予想されたりする。また,気象条件から農作物の栽培適否が決められる。農業災害の多くは気象が直接原因となっているため,災害と気象の関係を明らかにすることにより,災害の発生やその程度を予想したり,微気象や局地気象を種々の人工的手段によって改良し,災害をなくすことも重要な課題である。(→気象学

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百科事典マイペディアの解説

農業気象【のうぎょうきしょう】

農業と気象が関連する問題の総称。これを研究する学問的側面(農業気象学)と応用気象の一分野としての事業的側面がある。前者では土壌と気象,生物季節作柄と気象,農地の微気象などが研究対象とされる。

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世界大百科事典 第2版の解説

のうぎょうきしょう【農業気象 agricultural meterology】

農業と気象との関連する問題の総称。両者の関係を研究する応用気象学の一分野が農業気象学である。日本では東北地方の冷害予想の研究が明治中期から始まり,これがその後の長期予報の研究と,作物収量と気象との関係を調べる作物気象の研究へ発展した。こうして1942年に日本農業気象学会が発足し今日にいたっている。この間に農作物や耕地の微気象を物理的に解明する分野が農業気象学の主流となり,水温上昇による水稲冷害の防止対策,霜害風害の防止対策などに大きな成果が得られた。

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

農業気象
のうぎょうきしょう

農業にとくに関係のある気象の分野をいう。
 農産物の生産は気象の変動に左右されることが大きいので、昔から農作物の豊作を祈って、いろいろな祈願の行事が行われた。また昔は太陰暦を主としていたので、暦のなかに農耕の季節の目安として、七十二候(しちじゅうにこう)や雑節(ざっせつ)を置いた。これらの行事や季節のなかに、農業気象の初期のかかわりを求めることができる。
 明治時代になって、日本の農業気象の対象として、夏作物の耕作が始まる前に、その夏の天候を予測しようとする長期予報の分野が取り上げられた。これは明治年間に東北地方に頻発した冷害を防ぐことを意図したものである。今日行われている気象の長期予報は、このときに始まる。また、当時輸出産業の花形であったチャ(茶)の栽培に大きな害を及ぼす晩霜害の予想なども、農業気象上の重要な対象となった。その後、長期予報などは気象の分野に移行し、農作物の生産に直接関係のある分野が、農業気象の対象として発展していった。[安藤隆夫・饒村 曜]

農業気象の分野

農業気候は農業にとくに関連する気候の分野をさすが、一般に農業気象のなかに含まれる。またとくに森林に関連する気象の分野があり、森林気象とか林業気象とかよばれているが、これも農業気象のなかに含める。
 日本の農業気象学では、昭和10年代までは、農作物、とくにイネの豊凶と気象との関係が研究された。北日本では夏の気温が高ければ収量はあがり、低ければ平年作以下となる。平均的にみると、東北地方では、7、8月の平均気温が1℃高くなると、10アール当りにして37.5キログラム(玄米)の収量が増加する。西日本では気温よりもむしろ雨量の影響が大きいが、北日本の気温ほどにははっきりした関係が現れない。日本の雨量は、沖縄県などを除いては、灌漑(かんがい)施設の整備などと相まって、それほど大きな干魃(かんばつ)がおこるほどに不足することは少なく、むしろ大雨による洪水などの害のほうが大きい。昔から「日照りに不作なし」といわれるのは、局地的にはともかく、全体的にみれば雨はむしろ少なめの年のほうが米はよくとれたことをさしたもので、日本の雨量と米の収量との関係をよく表しているものといえる。
 農作物の収量と気象との関係は密接であるので、気象の変化から作物の豊凶を予測することができる。これを「気象による農作物の豊凶予測」という。また、未開の土地を開く場合に、その土地の気候状態から、どんな種類の農作物がその土地に適するかを推定することにも、この関係は利用される。日本で一番古い気象官署は、1872年8月26日(明治5年7月23日)にできた開拓使函館気候測量所(現在の函館海洋気象台)である。また、1879年(明治12)までに全国にできた8か所の気象官署のうち4か所が、明治時代になって多くの入植者が開拓を進めた北海道にある。以上のように農作物の収量と気象との関係を調査する分野を作物気象学という。
 農耕地の限られた局地的な気象を対象とする分野を農地微気象という。1940年代にドイツのガイガーRudolf Oskar Robert Williams Geiger(1894―1981)などによって始められた分野で、日本でも水田や果樹園などを対象に広く研究が行われ、防災上の効果をあげた。また、ビニルの被覆栽培などで、温室内を人工的に加熱したり、炭酸ガスを補供したりして、その中で園芸作物を栽培する施設園芸が発展するに伴って、その人工気象の調節や施設の設計などに、微気象の研究成果が広く利用されるようになった。[安藤隆夫・饒村 曜]

災害防除の研究

農作物の豊凶は気象に左右されることが多いことはまた、農作物が気象による災害を受けやすいことを示している。気象の変動は、すぐに農業気象災害となって現れる。夏季の気温の低下は北日本の農作物の冷害となるし、夏季の高温少雨は西日本の干害となる。そのほか、霜害、風水害、雪害、寒害などいずれも気象条件の異常がその原因である。したがって、農業気象災害の防除は、農業気象にとって不可欠の分野である。第二次世界大戦後、食糧とくに米の増産が叫ばれ、イネの冷害対策が進められたが、苗代を障子紙などでカバーして、苗の早期栽培を図り、冷害を回避する方法が開発され、イネの品種改良とともに、冷害の防除に大きな役割を果たした。その後ビニルの開発とともに、野菜園芸などにもこの被覆栽培が応用され、日本の農業に新時代をもたらした。これは、農業気象災害防除の研究が生んだ大きな成果であった。
 今日の日本は、その食糧農産物の大半を海外に依存しており、2010年(平成22)の時点での食料自給率は、供給熱量自給率(カロリーベースの自給率)では39%、生産額ベースの自給率では69%である(農林水産省資料)。なお、カロリーベースの自給率(カロリーベース総合食料自給率)とは、その食料に含まれるカロリーを用いて計算した自給率の値であり、生産額ベースの自給率(生産額ベース総合食料自給率)とは、その食料の価格を用いて計算した自給率の値である。したがって海外の農産物の豊凶とその流通は、日本の食糧事情に大きな影響をもたらすことになる。今後世界的な規模での農作物の豊凶予想という作物気象学の分野が、農業気象の一つの新しい分野となることが予想される。[安藤隆夫・饒村 曜]
『内嶋善兵衛著『四季の農業気象台』(1990・農林統計協会) ▽坪井八十二編『農業気象学』(1990・養賢堂) ▽真木太一・鈴木義則・鴨田福也・早川誠而・泊功編著『農業気象災害と対策』(1991・養賢堂) ▽日本農業気象学会編『新しい農業気象・環境の科学』(1994・養賢堂) ▽岩切敏著『農業気象 新版』(1999・全国農業改良普及協会) ▽西尾道徳・古在豊樹・奥八郎・中筋房夫・沖陽子著『作物の生育と環境』(2000・農山漁村文化協会) ▽内嶋善兵衛著『農業と気象 地球温暖化のなかで』(2000・鉱脈社) ▽饒村曜著『海洋気象台と神戸コレクション――歴史を生き抜いた海洋観測資料』(2010・成山堂書店)』

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