(読み)キリ

デジタル大辞泉 「霧」の意味・読み・例文・類語

きり【霧】

《動詞「き(霧)る」の連用形から》
地表や海面付近で大気中の水蒸気が凝結し、無数の微小な水滴となって浮遊する現象。古くは四季を通じていったが、平安時代以降、秋のものをさし、春に立つものをかすみとよび分けた。気象観測では、視程1キロ未満のものをいい、これ以上のものをもやとよぶ。 秋》「―しばし旧里に似たるけしき有り/几董
液体を細かい水滴にして空中に飛ばしたもの。「を吹いてアイロンをかける」
[補説]書名別項。→
[下接語]雲霧黒い霧(ぎり)秋霧朝霧薄霧川霧初秋はつあき山霧夕霧夜霧
[類語]ガススモッグ光化学スモッグ朝靄夕靄夕煙雲霧朝霧夕霧夜霧狭霧海霧かいむ海霧うみぎり煙霧濃霧

む【霧】[漢字項目]

常用漢字] [音](呉) [訓]きり
〈ム〉
きり。「霧笛霧氷雲霧煙霧水霧夕霧せきむ濃霧五里霧中
きりのように集まり、または消えるさま。「霧集/雲散霧消
きりのように散らばる水滴。「噴霧器
〈きり(ぎり)〉「霧雨きりさめ朝霧夕霧夜霧
[難読]狭霧さぎり

きり【霧】[書名]

河井酔茗の詩集。明治43年(1910)刊。それまでの定型詩から口語自由詩へと型を変えた記念碑的作品。
《原題、〈スペインNieblaウナムーノの小説。1914年刊。「ニボーラ」という新語をあてて、これまでの写実主義的な小説(ノベーラ)とは異なる小説形態を編み出そうとした。

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精選版 日本国語大辞典 「霧」の意味・読み・例文・類語

きり【霧】

  1. 〘 名詞 〙 ( 動詞「きる(霧)」の連用形の名詞化 )
  2. 空気中の水蒸気が凝結して細かい水滴となり、地表近くの大気中に煙のようになっている自然現象。気象用語としては、水平視程約一キロメートル以遠の視界を妨げている状態とされる。古くは四季を通じて用いたが、平安時代以降は春立つものを霞(かすみ)、秋立つものを霧という伝統的季節美の概念が成立した。現代、気象用語としては季節にかかわりなく用いられている。《 季語・秋 》
    1. [初出の実例]「春山の霧に惑へる鶯もわれにまさりて物思はめやも」(出典:万葉集(8C後)一〇・一八九二)
  3. 人の吐く息。また、を息に見立てた語。嘆息の場合に用いることが多い。
    1. [初出の実例]「やまとの 一本薄 うなかぶし 汝が泣かさまく 朝雨の 疑理(キリ)に立たむぞ」(出典:古事記(712)上・歌謡)
  4. 水や液体などを霧のように細かくして空気中に飛ばしたもの。多く「霧を吹く」の形で用いられる。
    1. [初出の実例]「口にて霧(キリ)をふきかけつつ皺を伸して」(出典:人情本・閑情末摘花(1839‐41)初)

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「霧」の意味・わかりやすい解説


きり

地表付近で大気中に多数の微水滴が浮かんでいて、視界を悪くする現象。気象観測では視程が1キロメートル未満になった場合を霧とよび、1キロメートル以上の場合には霧とはよばずにもや(靄)とよぶ。また工業地域などで微水滴ばかりでなく、煙の粒子が混じっている場合にはスモッグとよぶことがある。丘の上から平地の霧を見下ろす場合、自分は丘の上にいるので霧の視程はわからない。このような場合にも広い意味で霧という。シベリアや北海道の冬などには微水滴ではなく氷晶の霧ができる。この霧を氷霧(こおりぎり)とよぶ。この場合も視程は1キロメートル未満である。もし1キロメートル以上であれば細氷とよぶ。

[大田正次]

霧と雲の違い

霧も雲もその中身は微水滴であるから同じものであるといえる。ただ便宜上地面に接しているものを霧、空に浮かんでいるものを雲とよんでいる。それでは、山頂にかかっているのは霧か雲かという疑問がおこる。この場合、山の地肌に接しているので山頂に立っている者にとっては霧である。一方、山麓(さんろく)から上を見たときには山頂は雲に覆われているとみるのが自然であろう。すなわち、中にいる者には霧、外にいる者にとっては雲である。

 霧と雲とはでき方がかなり異なる。霧は普通地表面からの熱の出入りや水蒸気の補給などでできるが、雲は空気の塊が上昇するときに冷えてできる。このようにでき方が異なるので、霧の粒子は雲の粒子より小さいのが普通である。山にできる霧は斜面を上昇して冷えてできる場合が多いので、霧粒は比較的大きくむしろ雲粒に近い。このように中身からみると山の霧はむしろ雲に近い性質をもっているので、霧でもあり雲でもあるわけである。

[大田正次]

霧の観測

もっとも観測しやすいのは霧の濃淡である。これは霧の中の視程で表す。気象観測では霧の中の視程が200メートル未満の場合を濃霧、200~500メートルの場合を並霧、500~1000メートルを薄い霧と区分けする。山霧などでは10メートル先が見えないほど濃いことがある。霧の中の視程は、あらかじめ決めておいた目標が見えるか見えないかで決める。光の透過率や散乱率から霧の濃淡を測定する器械もいろいろ利用されている。空港の滑走路では透過率測定方法が、高速道路などでは散乱率測定方法がよく用いられている。

 霧の中身すなわち微水滴の大きさや数を測定するのはかなり熟練を要する。それらのうちもっともやさしい方法は外灯の光の周りにできる光冠の半径を簡単な手作りの角度計で測って、それから霧粒の大きさを計算で求める方法である。光源の中心から光源にもっとも近い光の輪の赤の外縁までの角度を測り、20をその角度で割ると霧粒の半径がわかる。角度が3度のときは霧粒の半径は約7マイクロメートルである。直接霧粒の大きさを測定するには、細いガラス板に機械油を薄く塗り、ガラス板を指に挟んで油面を風に向ける。飛んできた霧粒は油の中に付着する。風のないときにはガラス板のほうを早く動かす。捕獲した霧粒は顕微鏡で1粒ずつ大きさを測る。およそ50個ほどの大きさを測ってそれらを平均する。いままでに測定された例では、霧粒はおよそ半径1~50マイクロメートルの範囲にあるが、普通は約5~10マイクロメートルである。

[大田正次]

霧が発生する仕組み

地表面付近にある空気塊が冷えると、空気中に含まれている水蒸気は飽和状態に近づく。さらに冷えると、ついに飽和状態を越えようとする。空気中にはほとんどいつでも十分な数の凝結核があるので、そのようなときには凝結核を芯(しん)として微水滴ができる。これが霧である。地表面付近の空気が冷えるのは、(1)陸地の表面が夜間に熱を放射するとき、(2)暖かい空気が冷たい海面に流れてきたとき、(3)斜面を空気が上昇して断熱的に冷却するとき、の3通りがある。これらの原因で冷えてできた霧をそれぞれ放射霧、移流霧、滑昇霧とよぶ。また、これらとは別の仕組みとして、地表面付近の空気塊中に、それと接している水面から水蒸気が蒸発し、空気塊中の水蒸気がだんだん増える場合がある。このような水蒸気の補給がおこるのは、(1)冷たい空気が暖かい海面に流れてきたとき、(2)冷たい空気中に暖かい雨滴が落ちてきたとき、の2通りがある。これらの原因で水蒸気が補給されてできた霧をそれぞれ蒸気霧、前線霧とよぶ。

[大田正次]

霧の種類

霧は発生する場所、時間、空気の状態などにより次のように分けられる。

(1)放射霧 晴天で風の弱い日の夜、地表面が放射のため冷却し、地表面に接する空気がしだいに冷えて夜半から早朝にかけてできる霧。前日に雨が降って地面が湿っているときや川などの水面があるときにできやすい。盆地や谷地ではとくに発生しやすい。

(2)移流霧 湿った暖かい空気が冷たい海面上に流れてきたときにできる霧。海霧(うみぎり)とよばれる。暖流と寒流とが接しているところに発生しやすい。日本近海では根室(ねむろ)沖、釧路(くしろ)沖、三陸沖に春から夏にかけてできる霧はこれである。暖かい空気と冷たい海面付近の空気がよく混合されて霧となるので、風速が毎秒約4~5メートルと風がやや強いときにできやすい。海上で発生した海霧は海岸に流れてきて多少陸地に侵入する。

(3)滑昇霧 湿った空気が斜面に沿って上昇するときにできる霧。山地にできる霧はこの霧が多い。雲も同じ仕組みでできるので、この霧の中身(微水滴の大きさや数)は雲に近い。また外観も雲に近い。

(4)蒸気霧 冷たい湿った空気が暖かい海面に流れてきて、海面から水蒸気の補給を受けてできる霧。海面が暖かいので空気の上下混合が自発的におこり、ちょうど風呂(ふろ)の湯気が立ち昇るような状況となる。冬季に北海道の釧路沖にできる蒸気霧は陸地で冷えた空気が朝方に海上に押し出してできる。上空に逆転層ができると霧は濃くなる。秋から冬にかけて日本の各地で見られる川霧はこの一種である。冬の季節風のとき、日本海沿岸でできる霧も蒸気霧である。この場合逆転層が高いので霧は薄い。蒸気霧の発生しやすい条件は、気温が低く0℃付近以下であること、および海水温と気温との差がおよそ8℃以上あるときである。

(5)前線霧 前線付近で雨が降るとき、雨滴の温度が気温より高いときにできる霧。この場合も蒸気霧と同様、雨滴から空気に水蒸気が補給されて霧が発生する。雨滴と空気との温度差が大きいほど霧はできやすく、したがってよく発達した前線に伴っておこる。低気圧が前線を伴って日本海へ入った場合に瀬戸内や太平洋沿岸の各地で濃霧が発生することがある。前線霧は天気の悪いときの霧である。

(6)その他の霧 霧は現れる場所によっていろいろな名でよばれる。盆地霧は甲府盆地山形盆地などで見られるが、これは成因からみると放射霧と蒸気霧の混じったものである。山霧は山地で見られる霧で雲との区別はむずかしく、これは滑昇霧である。陸霧は陸地に発生する霧で放射霧であることが多い。都市霧はおもに放射霧に煙の混じったもの(スモッグ)である。地霧は地面に低くはう霧で、人の目の高さには霧はほとんどない場合をいう。霧のある時刻によって朝霧とか夜霧とかいうことばがある。放射霧は早朝にできやすいので朝霧となる。夜の霧は海霧が陸上に押し寄せてきた場合におこりやすい。

 湿霧(しつむ)、乾霧(かんむ)ということばがある。霧に囲まれたとき、皮膚や衣類がしっとりとぬれる場合がある。このような霧は湿霧である。一方、ぬれないで乾いた感じの乾霧もあるが、両者の違いは霧の中身の微水滴の大小で決まる。大きい場合は身体や地物には付着しやすく、小さい場合は付着しにくい。海霧や山霧は湿霧のことが多い。放射霧の多くは乾霧である。

[大田正次]

日本各地の霧

日本各地百数十の気象台や測候所で観測した霧日数の年平均の結果によると、1年間に霧の発生が100日を超えて観測された地点は9か所(山岳測候所を除く)、50~100日が14か所、25~50日が25か所、25日未満が102か所であった。1年のうち100日以上霧が発生するということは、平均すると3、4日に1日霧の日があるということで、日常の生活は霧に悩まされることになる。

 月ごとの霧の日数をみると、その地方の霧のできる原因がおよそわかる。1年間100日以上の霧発生の箇所のうち根室、釧路では6、7、8月の3か月に霧が多く、この約90日間におよそ60日霧が出ている。この季節にこれらの地方で出る霧は海霧であって、北海道や三陸沖の海上に発生した霧が陸地へ流れてきたものである。同じ100日以上の箇所である軽井沢では各月ともほぼ10日前後霧が発生する。これは山霧である。兵庫県豊岡(とよおか)や熊本県人吉(ひとよし)では9~11月に多いが、これは放射霧と川霧である。50~100日の箇所のうち山形、岐阜県高山、長野県飯田(いいだ)では、9月から12月にかけて多く、この霧は放射霧と川霧が混じったものである。都市霧としては11月から2月にかけての大阪の霧が知られる。高知県室戸(むろと)岬は5、6、7月に多い。これは海霧である。また北海道旭川(あさひかわ)では9月から2月にかけて多いが、これはおもに放射霧であろう。なお富士山山頂や滋賀県伊吹山山頂では1年間の霧日数は200日を超すが、これは山霧あるいは雲である。1年間に25~50日の箇所はやはりなにか霧発生の要因のある箇所である。オホーツク沿岸の網走(あばしり)や三陸沿岸の八戸(はちのへ)や小名浜(おなはま)の霧は5~8月に多く、これは海霧とみてよく、またやや内陸に入るが水戸の霧も海霧であろう。

[大田正次]

霧と災害

海上では海霧の中で視界を失って船舶が遭難した例は古くから多い。1955年(昭和30)5月の瀬戸内海の宇高連絡船紫雲(しうん)丸の沈没、1912年4月のイギリスの豪華客船タイタニック号の沈没はその例である。陸上では霧で視界が悪くなると高速道路が閉鎖され、空港では滑走路が閉鎖される。鉄道では列車の運転が中止されることもある。このように霧が濃くなると視程の障害をおこすので海上、陸上交通に支障が出る。海霧が内陸に侵入すると日照を妨げる。北海道東岸の海霧は6月から8月にかけて内陸へ侵入するので、農作物の生育を妨げる。海霧の侵入を防ぐために防霧林が海岸に造成される。防霧林は霧の微水滴をとらえ、また気流に乱れをおこして霧の消散を促進させるなどの作用がある。

[大田正次]

霧の人工消散

空港では滑走路上の霧が濃くなると離着陸が禁止される。このようなときに霧を人工的に消して離着陸が可能なようにすることは、航空機の運航上きわめて効果的である。モスクワストックホルムなどのような高緯度の空港では、冬季にはヨウ化銀の粉を滑走路周辺の上空にまいて霧の消散を促進し運航効率を高めている。また、ドライアイスやプロパンを散布する方法もいくつかの空港で利用されている。これら滑走路の霧の人工消散は、対象空間が狭く限定されていることおよびその経済効果が大きいことなどから、大いに実用化が進んでいる。

[大田正次]

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普及版 字通 「霧」の読み・字形・画数・意味


常用漢字 19画

(異体字)
17画

[字音] ム・ボウ
[字訓] きり・くらい

[説文解字]

[字形] 形声
正字はに作り、(ぼう)声。(くら)い意がある。〔説文〕十一下に「地气發して、天應ぜざるをと曰ふ」(段注本)とし、また籀文(ちゆうぶん)としての字を録する。〔釈名、釈天〕に「(おほ)ふなり。气、亂して、物をするなり」と(冒)の声義を以て説く。声に冥昧の義があり、冥・(夢)と声義が近い。

[訓義]
1. きり、きりたつ。
2. くらい。
3. かるくこまかい、たちこめる。

[古辞書の訓]
和名抄〕霧 利(きり)〔名義抄〕霧 キリ・クラシ・ムネオボツカナシ/ キリ・ミダル

[語系]
霧miuはmu、mong、冥myeng、miung、mngなどと声近く、みな冥不明の意がある。

[熟語]
霧雨・霧会・霧外・霧壑・霧鬟・霧気・霧暁・霧光・霧合・霧・霧散・霧集・霧聚・霧消・霧・霧・霧中・霧朝・霧・霧鬢・霧雰・霧裏・霧露
[下接語]
埃霧・雨霧・鬱霧・雲霧・煙霧・花霧・海霧・開霧・寒霧・暁霧・金霧・軽霧・黄霧・昏霧・坐霧・彩霧・細霧・州霧・秋霧・宿霧・翔霧・深霧・塵霧・水霧・垂霧・凄霧・晴霧・霽霧・夕霧・尺霧・大霧・朝霧・吐霧・毒霧・濃霧・白霧・晩霧・飛霧・微霧・氷霧・氛霧・噴霧・抱霧・密霧・野霧・遊霧・妖霧・沓霧

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改訂新版 世界大百科事典 「霧」の意味・わかりやすい解説

霧 (きり)
fog

霧は地面付近に生じた雲で,空中に浮かんだ無数の微小な水滴(霧粒)からなる。微小水滴は光を散乱,吸収するので,霧の中では見通しが悪くなり,時には数m先が見えなくなることもある。薄い霧では500m~1km先が見えるが,気象観測では見通せる距離(視程)が1km以上の場合はもや(靄)と呼んで霧と区別している。目の高さの水平視程は1km以下であるが,天空がかすかにでも見えるくらいのものを〈低い霧〉,目の高さの水平視程はよくても地面に近いところに霧のある場合を〈地霧〉と呼んでいる。また,霧やもやに似た現象に霞(かすみ)がある。霞は気象観測上の用語ではなく,煙や雲がたなびいたり,霧やもやなどのため遠景がぼやけて見えることを一般に霞と呼んでいる。なお,歳時記では霧は秋の季語とされており,春の霧を霞と呼び,夜の霞は朧(おぼろ)と呼んでいる。

霧粒は直径数μm~数十μmの大きさで,1cm3の空気中に数個~数百個含まれている。また,単位体積中に霧粒として存在している水の量を霧水量(きりみずりよう)といい,海霧で1m3当り0.1~2g,放射霧で0.01~1g程度である。霧水量が多いときほど一般に視程は低下し,0.1g/m3のときの視程は数百mの程度であるが,0.5g/m3で100m,2g/m3で数十mとなる。ただし霧水量が同じでも,霧粒が小さくて数が多いときの方が視程は悪い。

 霧粒は空気中の水蒸気が凝結核を中心にして凝結してできる。このとき空気の湿度は飽和状態に近いが,必ずしも100%にはなっていない。一般に大気中には多くの凝結核があるので,十分な水蒸気があり,それが凝結するまで空気を冷却すれば霧粒ができる。空気を冷却するのは,放射冷却,断熱冷却,冷たい空気との混合,冷たい地面による冷却などによる。また,飽和状態にない冷たい空気が,その空気より暖かい水から水蒸気の補給を受けて霧粒ができる場合もある。

(1)霧の成因による分類 (a)放射霧 内陸や盆地などで晴れた風の弱い日,夜間の放射冷却で地面付近の空気が冷やされるときに生ずる霧。厚さが数十m~200mくらいであるが,太陽が昇ると気温の上昇と共に急速に晴れ上がる。(b)混合霧 暖かい水面上に冷えた空気が流れてきて,水面上の暖かい湿った空気と混合して発生する霧。(c)蒸気霧 蒸発霧ともいう。暖かい水面上に冷たい安定した空気があるとき,水面からの水蒸気の急速な蒸発によって発生する霧。(d)前線霧 前線に伴って生ずる霧で,寒気と暖気の二つの気塊が混合してできたり,暖かい雨粒が蒸発してできたりする。(e)滑昇霧 空気が山腹に沿って上昇するとき,断熱冷却によって発生する霧。(f)移流霧 水蒸気を多量に含んだ空気が低温な地域上を流れて行くとき,下から冷やされて発生する霧。その代表的なものに海霧(ガスともいわれる)がある。日本付近では6~7月ころ千島列島から北海道南東沖をへて三陸沖に達する親潮(寒流)の海域に発生するのが有名である。寒流の冷たい海面上を南からの暖かく湿った空気が吹走する間に下から冷やされて生じた海霧は北海道南東部に上陸し,このため同地域はしばしば厚さ数百mの濃い霧に包まれる。

(2)発生する場所による分類 (a)川霧 川の上や川の近くに発生する霧で,川の水面からの蒸気霧である。(b)山霧 一般には滑昇霧だが,山にかかる雲も,その中に入れば山霧である。(c)谷霧 山頂で放射冷却によって生じた冷たい重い空気が,谷に流れ下りてたまり,水蒸気が凝結して生ずる霧。(d)盆地霧 盆地内は比較的大気が安定しており,地面の放射冷却によって霧が生じたり,山腹の放射冷却による冷たい重い空気が入りこんで霧が発生する。(e)都市霧 都市内や工場周辺では煙や粉塵が多く,これが凝結核になって霧が発生しやすい。(f)沿岸霧 海岸や湖岸地域に発生する霧。地面の暖かい空気が冷たい水面へ流れる場合,水面の湿った暖かい空気が冷たい沿岸域へ流れる場合,海で発生した海霧が沿岸域へ流れ込む場合の三つの移流霧と,暖かい水面の蒸発によって水蒸気の補給を受ける蒸気霧とがある。

(3)霧粒の状態による分類 (a)湿霧 地物がぬれるほど十分に大きな水滴からできている霧。この逆を乾霧ということもある。(b)氷霧 小さな氷の結晶からなる霧。極地などの極寒地でしばしば発生する。(c)霧氷霧 霧氷を発生させるような過冷却状態にある霧。(d)過冷却霧 単に過冷却水滴からなる霧。(e)スモッグsmog 煙smokeと霧fogの混ざったもの。乾いた微細な粒子が大気中に浮遊して大気が白く濁ってみえる現象をヘーズhaze(煙霧ともいう)といい,煙とヘーズの混ざったものをスメーズsmazeという。

霧は各種交通の障害となり,また,スモッグなどは健康にもよくないので,古くから霧を人工的に消そうとする試みが行われてきた。とくに飛行場では吸湿剤を散布したり,石油を燃やしたり,ドライアイスやヨウ化銀をまいて霧粒を雨滴とする方法などで人工消霧が試みられ,成功した例もある。北海道の釧路,根室地方のように海霧が上陸してくる地域では,海岸近くに防霧林を造成し,移流してくる霧粒を捕捉して霧を薄める方法がとられている。
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百科事典マイペディア 「霧」の意味・わかりやすい解説

霧【きり】

気温と露点温度とがほとんど等しくなり,海塩,煙霧粒子などの凝結核が存在するとき,大気中の水蒸気が凝結し微小水滴となって浮遊するもの。気温が低下して露点温度に近づく原因は,夜間の放射冷却,温暖な空気が寒冷な地面や海面を通過する場合の冷却,斜面滑昇による空気膨張による冷却など(放射霧移流霧)。露点温度が上昇して気温に近づく原因は,寒冷な空気が温暖な水面を通過する場合の水面からの蒸発,雨水の蒸発など(川霧)である。霧粒の大きさは直径数μm〜数十μmで,1cm3の空気中に数個〜数百個含まれている。霧の含水量は薄いもので1m3について0.02mg,濃い霧で5gくらい。微小の氷晶,またはこれに微小水滴が混じった霧を氷霧という。気象観測では水平視程1km未満の場合を霧と定める。→もや

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「霧」の意味・わかりやすい解説


きり
fog

微少な水滴が空気中に浮遊する現象。氷晶のみからなる霧は氷霧という。霧は水平方向の視程が 1km未満のものをさし,1km以上のものをもやという。霧は発生形態によりおもに次のように分類される。(1) 蒸発霧 川や湖,海の水面が冷たい空気に覆われたときに暖かい水面から蒸発する水蒸気が冷えて発生する霧。蒸気霧ともいう。(2) 移流霧 暖かく湿った空気がそれよりも冷たい地面や海面上を移動するとき,下面から冷却されて発生する霧。海霧などがこれに含まれる。(3) 放射霧 地面及び地表付近の空気が放射冷却により冷やされて発生する霧。高気圧に覆われた風の弱い晴れた明け方に発生することが多い。日の出とともに消散する。盆地霧などがこれにあたる。(4) 前線霧 前線の両側の異なる性質の空気塊が前線付近で混ざり合い発生する霧。(5) 滑昇霧 湿った空気が山の斜面を昇るとき断熱冷却によってできる霧。

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知恵蔵 「霧」の解説

地表面付近で無数のごく小さな水滴が空気中に浮かび、目の高さの視程が1km未満の現象。1km以上の場合がもや。分類すると、放射霧(夜間の放射冷却ででき、日中気温が上がると消える)、移流霧(暖湿な空気が冷たい海上を流れる時、下層が冷やされてできる)、蒸発霧(冷たい空気が暖かい海、川、湖上にある時、水面から蒸発する水蒸気が冷やされてできる。真冬の日本海に多い)、滑昇霧(かつしょうぎり)(湿った空気が山の斜面を昇る時、断熱的に冷えてできる)、混合霧(暖湿な空気と冷たい空気の混合による)、前線霧(前線付近で寒・暖空気が混合するなど)などがある。発生地域による海霧(うみぎり)、山霧(やまぎり)、川霧(かわぎり)、盆地霧、都市霧(都市の付近で煙や粉じんが凝結核となってできる)などの分類もある。

(饒村曜 和歌山気象台長 / 宮澤清治 NHK放送用語委員会専門委員 / 2007年)

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とっさの日本語便利帳 「霧」の解説

ごく小さな水滴が空気中に浮かび、目の高さの視程(見通せる距離)が一km未満になる現象。一km以上の場合が靄(もや)。

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事典・日本の観光資源 「霧」の解説

(三重県)
伊賀のたからもの100選」指定の観光名所。

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世界大百科事典(旧版)内のの言及

【イギリス】より

…このような硬直した社会構成に対する反省は,戦後のイギリスの〈病める老大国〉化とともに,強く叫ばれるようになり,歴代の政府も教育制度の改革を通して特権的なエリート・コースの開放を企て,それなりの成果はみられるものの,〈二つの国民〉の障壁を完全に除去するまでにはいたっていない。【今井 宏】
[文化]
 イギリスというと,すぐ〈霧の国〉を連想する人が多い。もちろんイギリス全土が絶えず霧に包まれているわけではないが,確かに〈霧〉はイギリスの文化の特質を端的に示すキー・ワードと言える。…

※「霧」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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