水俣条約(読み)ミナマタジョウヤク

デジタル大辞泉 「水俣条約」の意味・読み・例文・類語

みなまた‐じょうやく〔‐デウヤク〕【×俣条約】

《「水銀に関する水俣条約」の略称》人為的に排出される水銀やその化合物から人の健康や環境を保護することを目的とする国際条約。2013年に熊本市で署名され、2017年発効。水銀条約
[補説]有機水銀中毒による水俣病悲劇を繰り返さない、という決意を込めて、条約名に水俣の地名が冠された。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「水俣条約」の意味・わかりやすい解説

水俣条約
みなまたじょうやく

水銀による健康被害や環境汚染の防止を目的とする条約。正式名称は「水銀に関する水俣条約(Minamata Convention on Mercury)」である。その前文には水俣病を教訓とすることが記されている。2013年(平成25)10月に国連環境計画(UNEP主導の下、熊本で開催された外交会議において採択され、2017年8月16日に発効した。2019年11月時点の締約国は128か国である。

 具体的には、水銀を目的とする一次採掘の禁止、所定用途での使用、および環境上適正な保管、ならびに輸入国の事前同意を満たさない輸出の禁止、そして新規一次採掘でない、または閉鎖したカ性ソーダ製造設備由来でない旨の証明書を伴わない非締約国からの輸入の禁止が定められている。また、電池、スイッチ・リレー蛍光ランプ、石鹸(せっけん)、化粧品、農薬、殺虫剤、消毒剤、計測機器(血圧計、体温計、気圧計)など、附属書Aに含まれる水銀含有製品の製造・輸出入を2020年までに禁止すること、歯科用アマルガムの使用を削減すること、水銀を含む製品の製造・販売を抑制すること、水俣病の原因となったアセトアルデヒド製造プロセスは2018年までに、塩素、カ性ソーダ製造プロセスは2025年までに、それぞれ水銀の使用を禁止すること、塩化ビニルモノマーやポリウレタンなどの製造プロセスでの水銀の使用を削減することも義務づけられている。

 石炭火力発電所や非鉄金属精錬施設による大気への排出削減に向けて、新設施設にはBAT(利用可能な最良の技術)・BEP(環境のための最良の慣行)を実施すること、既存施設には、排出限度値、BAT・BEP、代替措置など所定の対策から選択して実施すること、水・土壌への放出についても同様の所定の対策から選択して実施すること、開発途上国に多い小規模金採掘については水銀放出の削減にあわせて可能な限り廃絶すること、が求められている。そのほか、水銀の一時保管・廃棄物・汚染地についての環境上適正な管理、資金メカニズム、能力形成・技術支援、健康リスク情報の提供なども定められている。

 日本国内では、2016年2月2日の受諾書の寄託、2017年6月23日の公布を経て、8月16日に発効した。水俣条約に対応するため、「水銀汚染防止法」(正式名称「水銀による環境の汚染の防止に関する法律」平成27年法律第42号)が制定された。また、大気汚染防止法の一部が改正され、その下の水銀の排出濃度の基準案(2016年6月)に基づいて、大気汚染防止法施行令が改正された。それによると、石炭燃焼ボイラー(発電所を含む)のうち、新規施設の排出基準は、ノルマル(0℃、1気圧に換算した排ガス量で)1立方メートルあたり8マイクログラム(μg)、ただし、小型石炭混焼ボイラーは10μgと定められた。同様に既存施設については10μg、小型ボイラーは15μgとされた。

 次に、非鉄金属(銅、鉛、亜鉛および工業金)の製造に用いられる精錬および焙焼(ばいしょう)の工程のうち、一次施設(主として鉱石を用いる施設)の排出基準について、新規施設は、対象金属または規模に応じて、15μgまたは30μg、同様に既存施設は30μgまたは50μgと定められた。二次施設(リサイクル原料等を用いる施設)についても同様に、新規施設は30μgまたは100μg、既存施設は50μgまたは400μgとされた。

 廃棄物焼却炉の排出基準については、新規施設は30μg、ただし、水銀回収にかかわる施設の場合は50μgと定められた。既存施設は50μg、水銀回収にかかわる場合は100μgとされた。他方、セメント焼成施設の排出基準については、新規施設は50μg、既存施設は80μgと定められた。

[磯崎博司 2021年10月20日]

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知恵蔵 「水俣条約」の解説

水俣条約

水銀に関する水俣条約」のページをご覧ください。

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