改訂新版 世界大百科事典 「水素化脱硫」の意味・わかりやすい解説
水素化脱硫 (すいそかだつりゅう)
hydrodesulfurization
硫黄化合物を水素化分解して除去するプロセス,とくに石油中の硫黄分の除去のためのプロセスをいう。石油中の硫黄化合物は,石油製品の臭気や色相安定性をそこなうだけでなく,燃焼によって硫黄酸化物を発生し,大気汚染公害の原因になる。これを防ぐための脱硫法が古くから開発され,硫酸やアルカリを用いる化学処理が行われていたが,1950年代半ばころから水素化脱硫法が盛んに用いられるようになった。これは,接触改質法による安価な副生水素が利用できるようになったこと,また化学処理の場合のような精製油収率の低下や廃棄物の発生などがないこと,などのためである。石油中にはメルカプタン,スルフィド,チオフェン類,その他の硫黄化合物が存在するが,これらは次のように炭化水素と硫化水素に変換される(式中のR,R′はアルキル基)。
石油の水素化脱硫反応は,触媒としてアルミナを担体とするモリブデンやコバルトなどの酸化物を用い,反応温度300~400℃,圧力30~100気圧の条件下で実施される。一般にナフサや灯油は比較的温和な条件下で,また重油は厳しい条件下で処理される。重油の脱硫法には直接脱硫法と間接脱硫法とがある。後者は重油中のアスファルト分が触媒の活性を失わせるので,まずアスファルト分を除き,その残りを水素化脱硫したのち,アスファルトと再混合する方法である。この方法の欠点は,アスファルトの硫黄分が高いため,脱硫効果が十分でないことである。前者の直接法はアスファルトを含んだままの重油を処理するもので,触媒や反応器に特別の工夫が必要とされる。水素化脱硫によって発生する硫化水素は溶剤を用いて吸収分離され,元素硫黄に変換され,化学原料として利用される。
執筆者:冨永 博夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報