政治家。広島県生まれ。京都帝国大学法学部卒業後、大蔵省に入省し、おもに税務畑を担当。1947年(昭和22)大蔵事務次官となる。1949年の総選挙で衆議院議員(広島2区)に当選し、第三次吉田茂内閣の蔵相に抜擢(ばってき)されドッジ・ラインによる財政整理にあたった。1950年3月「中小企業の一部倒産もやむをえない」、また同年12月には「貧乏人は麦を食え」と放言した。サンフランシスコ講和会議の全権委員。第四次吉田内閣の通産相であった1952年11月には国会答弁中、先の中小企業についての放言を繰り返し「ヤミなど不当投機をやった人が5人や10人倒産し、自殺するようなことがあってもやむをえない」と述べたため、第二次世界大戦後初めての閣僚不信任で辞任した。池田は佐藤栄作とともに「吉田学校の優等生」といわれ、その後も吉田派の中心として党内で勢力を伸張した。石橋湛山(たんざん)、岸信介(のぶすけ)両内閣でも蔵相、通産相を歴任。1960年の安保闘争で岸内閣が退陣すると、その後を受けて同年7月、池田内閣を組織した。「寛容と忍耐」を政治姿勢として、「所得倍増」、高度成長政策を打ち出し、国論対立の焦点となる政治問題を意識的に回避しようとした。1964年11月病気のため退陣するまで4年4か月にわたって政権を担当。後を佐藤栄作内閣に譲り、翌1965年8月13日癌(がん)のため死去した。池田の採用した高度成長政策は、一面で日本を資本主義諸国間でGNP(国民総生産)第2位の地位に押し上げたが、他面で物価の上昇、公害、農村破壊などの新たな国民生活上の問題を生み出した。
[荒 敬]
『伊藤昌哉著『池田勇人・その生と死』(1966・至誠堂)』▽『土師二三生著『人間池田勇人』(1967・講談社)』▽『塩口喜乙著『聞書池田勇人』(1975・朝日新聞社)』▽『伊藤昌哉著、細川隆元監修『日本宰相列伝21 池田勇人』(1985・時事通信社)』▽『伊藤昌哉著『池田勇人とその時代』(朝日文庫)』
戦後の官僚政治家。広島県竹原市出身。京都大学法学部卒業。1925年大蔵省に入る。47年事務次官となる。49年,広島から衆議院議員に当選,ただちに第3次吉田茂内閣の蔵相に就任,50年通産相を兼任。吉田茂直系の政治家としてGHQが示した〈経済九原則〉の具体化を推進した。池田=ロバートソン会談(1953),造船疑獄で疑惑を残したが,54年自由党幹事長に就任。55年保守合同による自由民主党の成立後,石橋湛山内閣,岸信介内閣の蔵相,のち国務相,通産相を歴任。蔵相,通産相時代,〈中小企業の一部倒産やむなし〉〈貧乏人は麦を食え〉の発言が問題にされたが,その後も,〈所得倍増〉〈農業人口の6割削減〉など経済成長主義の姿勢を一貫させた。60年安保条約反対闘争の高揚で辞職した岸信介の後を受けて首相となってからは,大平正芳,宮沢喜一らに支えられ〈低姿勢〉〈寛容と忍耐〉を唱えるなど,保守本流内閣としての柔構造を4年間,3次にわたって持続させ,日本経済が戦後復興を成し遂げ高度経済成長段階へ突入する過程を担った。
執筆者:高橋 彦博
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昭和期の政治家 首相。
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…また,新日米安全保障条約は,1月に調印され,5月には連日デモ隊が国会を包囲する騒然たる雰囲気のなかで,自由民主党によって衆議院で強行採決されて,6月には自然成立する。他方,7月には池田勇人内閣が発足し,12月に国民所得倍増計画を決定する。それらは,1950年代の〈政治の季節〉の終焉(しゆうえん)を告げ,60年代の〈経済の季節〉の到来を予告する象徴的な事件であった。…
… 冷戦構造に即応した占領政策の転換,ドッジ・ラインによる日本経済復興策の指示,講和条約締結の機運,朝鮮戦争の勃発とダレス訪日による再軍備要請の動向等への対応によって自由党と吉田内閣は絶頂期を迎える。池田勇人ら官僚出身の政治家の活躍が状況対応の巧みさを支える主要因であった。その自由党に内部分裂の兆しが見えたのは,50年を境に鳩山一郎を先頭とする追放解除組の活発な動きが開始されはじめてからである。…
※「池田勇人」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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