改訂新版 世界大百科事典 「法の統一」の意味・わかりやすい解説
法の統一 (ほうのとういつ)
法の統一は,1804年のフランス民法,96年のドイツ民法のように,近代国家の成立に伴う国内法の統一作業,あるいは連邦国であるアメリカ合衆国の州法統一委員国民会議の1952年の統一商法典Uniform Commercial Code(UCC)作成に代表される作業,あるいはアメリカ法曹協会の法人法委員会の1946年の模範会社法Model Business Corporation Actの作成に見られる国内レベルにおける法統一作業にも重大な成果が見られるが,法の統一がいっそう重要性をもつのは国際的統一である。
近代国家の成立とともに,法は国家の法と理解するのが通常となり,キリスト教国の間で存在するとされた普通法の思想は色あせたものとなったが,他方,各国の国内法が整備されるにつれ,19世紀末より20世紀初めにかけ,再び各国間に普遍的性格をもつ,共通法実現のための法統一運動が生じた。法の統一は,1950年11月のヨーロッパ人権保護条約や70年12月のハイジャック防止条約のように公法に関するもの,あるいは私法の分野で,20世紀初めのスカンジナビア諸国の婚姻法や養子法の統一作業や,73年の国際遺言の方式に関するワシントン条約のように身分法に関するものもあるが,とくに法統一の必要が強調されるのは,国際取引に関する領域である。
国際取引法の統一
国際取引法統一のための立法技術としては次のようなものがある。(1)1930,31年のジュネーブ条約のように,締約国の国内関係にも適用される手形法,小切手法の内容を統一することにより,国際決済の法的安定をはかる方法,(2)1964年のハーグ国際動産売買統一法条約のように,国際契約に適用される売買法を統一する方法,(3)売買法自体の統一が当面困難な場合に,各国民商法の適用基準を定める国際私法の統一をはかり,各国裁判所の判決の一致を導くことにより,法的安定をはかる方法(例えば1955年の有体動産の国際的売買契約の準拠法に関するハーグ条約や,80年のEEC契約準拠法条約)などがある。とくに私法統一を目的とする国際団体としては,1926年国際連盟の補助機関としてローマに創設された私法統一国際協会International Institute for the Unification of Private Law(UNIDROIT)があり,前述の64年のハーグ〈国際動産売買統一法条約〉および〈国際動産売買契約の成立に関する統一法条約〉の2条約の成立に寄与した。この2条約は,取引法統一作業のうち最も成功した先例の一つとされ,後述の80年の国連による国際売買法統一作業にも実質的に寄与したが,同協会はその後も国際取引法の編纂作業に成果を挙げている。1964年のハーグ条約は,72年に5ヵ国の批准により発効したが,批准国の大部分は西ヨーロッパの資本主義国であった。一方,アメリカ合衆国は,1963年12月の立法により,私法統一国際協会ならびに後述のハーグ国際私法会議への参加の道をひらき,統一運動への意欲を示している。
また国連も66年12月17日の決議により,取引法統一を目的とした国連国際商取引法委員会U.N.Commission on International Trade Law(UNCITRAL)を設置した。同委員会は,74年6月〈国際物品(動産)売買に関する時効条約〉のニューヨークにおける採択という成果を得た後,前述の1964年のハーグ条約の,主として西ヨーロッパ自由主義経済圏の国のみが参加したことから生じた,用語の不明確性および抽象性を除くため,ハーグ2条約を基礎とし,かつ両者を一体化した,〈国際物品(動産)売買契約に関する条約案〉を78年6月16日に完成,承認したが,80年3月10日のウィーン外交会議で採択を見るに至った。同委員会は,そのほか,海上物品運送,商事仲裁,国際流通証券についても,発展途上国の要望,東西貿易の拡大などを念頭に置きながら,法統一の成果を挙げている。
海事法の分野では,国際法学会International Law Associationや国際法協会Institut de Droit Internationalの貢献のほか,とくに海事私法統一を目的として1897年設立された万国海法会Comité Maritime Internationalは,1924年船荷証券条約など数多くの統一条約案を作成している。しかし第2次大戦後の海運に関する国際環境の変化により,近年は,48年条約に基づく国連専門機関である政府間海事協議機関(IMCO),のちに82年国際海事機関(IMO)に改組された組織の活動が盛んである。
国際私法については,1893年第1回会議を開いたハーグ国際私法会議の役割が大きく,日本でも,遺言の方式の準拠法条約(1964)や子に対する扶養義務の準拠法条約(1975)が批准されている。
→国際私法 →国際商法
執筆者:岡本 善八
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報