流れ仏(読み)ナガレボトケ

デジタル大辞泉 「流れ仏」の意味・読み・例文・類語

ながれ‐ぼとけ【流れ仏】

海に漂う溺死体できしたい漁民がこれに遭遇すると大漁前兆として手厚く葬る風習がある。流れびと

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改訂新版 世界大百科事典 「流れ仏」の意味・わかりやすい解説

流れ仏 (ながれぼとけ)

船乗り漁師言葉で海の水死体のこと。ゴロウジ(長崎県),ウミボトケ(高知県)ともいう。漁師たちは難破して行方不明になることを死ぬことより不幸と考えた。流れ仏を見つけると必ずつれ帰るというのが船乗りや漁師のきまりであった。見捨てた人は不幸に見舞われるという。拾いあげるのに作法があって,だまって取舵(左玄)からあげ面舵(右玄)から下ろすという(広島県呉市の旧豊町)。高知県鵜来島では流れ仏と豊漁問答をしてのちにあげるという。流れ仏を拾えば豊漁になるという俗信は全国的なものである。拾われなかった流れ仏が拾われるまで漁の邪魔をしたという話もある。ひきあげた流れ仏はこっそりと埋葬する(長崎県宇久島)。この死体をまたエビスという。これに対し,八丈島では近親者でないと拾いに行かない。死者に〈竜宮さま〉がだきついているからという。なお,行方不明のままの死者の霊は〈亡霊火〉やミサキなどとよばれるものとなり怪異を示すという。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「流れ仏」の意味・わかりやすい解説

流れ仏
ながれぼとけ

海に流れている水死体のこと。海仏とも土左衛門(どざえもん)ともいう。海で働く人々は流れ仏をみつけると拾い上げて祭る習慣がある。とくに漁業者の間では、流れ仏に会うと漁を授かると信じられ、浦繁昌(うらはんじょう)といって喜ぶ風がある。漁の出がけにみつけたときは、「帰るまでそこで待っておれ」というと、奇妙に元の位置から動かないものだといったり、拾い上げるとき水死体に向かって「漁をさせてくれるか」と問いかけ、他の人が「させます、させます」と答えてから引き上げるものだといったりする。面舵(おもかじ)(右舷)から引き上げ、取舵(とりかじ)(左舷)から陸に降ろす。死体を乗せた船の舳先(へさき)には薦(こも)や白木綿(もめん)を巻く所もある。

[井之口章次]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「流れ仏」の意味・わかりやすい解説

流れ仏
ながれぼとけ

水死体のこと。特に漁民や沿海地方の人たちが使う言葉。日本人の伝統的な生活感情では,死を穢れとして忌み嫌う気持が強かったが,漁業においては死の忌は問題とせず,むしろ水死体に会うことを大漁と結びつけて喜ぶ慣例がある。どこからとも知れず現れた水死体を,漂着神のような感覚で受止めていたのである。流れ仏を拾い上げるときには,大漁を約束してくれるかといった問答を演じる風習が広くみられる。陸に上げた水死体は,身元のわかるものは遺族に連絡するが,わからないものは丁重に葬り,無縁仏として供養する。

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