鶴賀若狭掾作の新内節《明烏夢泡雪(あけがらすゆめのあわゆき)》の主人公。1772年(安永1)作。浦里は親のために吉原の山名屋に身を沈めた女性。時次郎の父は田舎におり,江戸表の地頭に年貢金200両を払うような裕福な家で,家宝に小烏の名刀を持っている。息子の時次郎は浦里になじみ,年貢金を使いこみ,方々に借金をして,浦里に会えぬようになる。それを無理して山名屋へ上がり,浦里の部屋に忍んでいたが,遣手のかやに見つかり,時次郎は表へたたき出される。浦里は禿(かむろ)のみどりとともに庭の古木に縛られ,山名屋の主人に責められる。時次郎は2人を助け,塀を越えて逃げ出す。モデルは1769年(明和6)7月の伊之助・三芳(吉)野の心中事件である。その後,富士松魯中が1857年(安政4)にその続編として《明烏後真夢(のちのまさゆめ)》を発表した(原作は為永春水・滝亭鯉丈(りゆうていりじよう)合作の人情本《明烏後正夢》)。続編では2人は時次郎の叔父が住職をしている深川の慈眼寺まで逃げ,その墓地で柳の枝にしごきをかけて心中する。しかし小烏の名刀のおかげで息をふき返し,2人は夫婦となる。禿のみどりを2人の間の子とする話もある。
→明烏
執筆者:竹内 道敬
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 日外アソシエーツ「歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典」歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典について 情報
…〈下の巻〉同中庭の雪責めで浦里がせっかんされ実子の禿(かむろ)みどりがからむ愁嘆ののち,塀を乗りこえた時次郎と共に逃れる。浦里・時次郎【藤田 洋】(2)落語。新内《明烏夢泡雪》や人情本《明烏後正夢(あけがらすのちのまさゆめ)》の発端の落語化。…
…上中下に分けられる。上は廓を抜け出た浦里・時次郎が,深川猿江大島への道行で,他流の曲節を巧みに用いた面白い曲節。中はその大島の森に近い慈眼寺に行き,寺の当住が時次郎の叔父なので,遺書と家宝の小烏丸(こがらすまる)の刀を頼み,その場で死のうとする。…
※「浦里時次郎」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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