海上労働(読み)かいじょうろうどう

改訂新版 世界大百科事典 「海上労働」の意味・わかりやすい解説

海上労働 (かいじょうろうどう)

海上における船員の労働。海上という常に危険を伴う場所で長期間に及ぶ船中の共同生活を営む海上労働の特質から,日本では船員について船員法船員保険法,船員職業安定法等の特別法が整備され,これらの立法は,運輸省によって海運港湾船舶行政と一体として運用されている。海上労働に対しては,船員は労働,生活,危険への対応にあたっておのおの不可欠の役割を担う,いわば運命共同体を構成するため,種々の公法的な取締規定が置かれている。それらは,船長の強力な職務権限,船員定数の規制と雇入契約の公認,船員手帳制度,船内規律保持義務と懲戒,外国の港に停泊中および人命・船舶に危険が及ぶ場合の争議行為の禁止等である。しかし,船員は共同体の一員であると同時に労働者であることから,労働契約関係の明確化と労働条件の適正化のための法的措置がとられている。船員法は,船員の生存確保のための船主の食料支給義務,船員の無定量の労働を防ぐための船内労働時間制,および十分な休養と家庭生活のための有給休暇について定めるほか,ほぼ労働基準法に相当する事項について船員の労働条件の基準を定めている。労働基準法は,総則罰則とをのぞき船員には適用されない。船員(船長を含む)は,乗船のつど,船主との雇入契約によって一定期間,特定の船舶に乗り組むことになるが,遠洋航海を営む大手の海運会社との関係では,船員の身分の安定と海上労働力確保のため,長期の雇用契約を結ぶのが慣行となっている。雇用契約の当事者で乗船をしていない船員は予備船員と呼ばれるが,船員の有給休暇制度はこの雇用契約に基づく予備船員制度に裏打ちされている。船員は海上労働の特質上早期引退を余儀なくされることがあるため,老齢年金の支給要件が緩和され,被保険者期間15年で支給開始年齢55歳となっている。

 船員の労働組合である全日本海員組合(海員略称)は,戦前から横断的労働協約を結んだ実績をもち,企業別組合が支配的な日本にあってほとんど唯一の横断的労働組合組織として,海上労働における労使関係と労働条件の決定にきわめて大きな影響力を行使している。船員中央労働委員会,船員地方労働委員会は,船員にかかわる不当労働行為の救済等を通じて労使紛争の解決にあたるほか,最低賃金の決定および職業安定関係事項について審議する。
港湾労働 →船員
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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