船員に対する労働保護と公法的取締りの二つの目的をもつ法律。昭和22年法律第100号。前者は、船員の労働条件について規定するいわば「海上労働基準」であり、内容としては雇入れ契約(労働契約)、給料その他の報酬、労働時間、休日、有給休暇、定員、食料の支給、衛生(医師、衛生管理者の配乗)、災害補償、就業規則などを規定する。後者は、船員労働が貴重な人命、財貨の安全輸送に深くかかわるので、その監督のための取締り規定を定めている。船長の職務権限として、海員(船長以外の乗組員)に対する指揮命令権、懲戒権、発航前検査義務、直行義務、在船義務、書類の備置義務、船内にある者に対する命令権、海員の船内紀律(規律)について規定している。これらの取締り規定の存在は本法の特徴であるが、とくに争議行為の制限に関する規定が定められていることは、陸上の労働関係法規と著しく異なる点である。
船員法の沿革は1899年(明治32)制定の旧船員法に始まるが、その後国際海上労働条約の規定を取り入れ、商法の海商編から船員に関する規定を移し、1937年(昭和12)に全面的改正を行っている。第二次世界大戦後は新憲法の精神に基づき全面的改正が行われ、新しく制定された労働法体系との整合が図られたが、海上労働の特異性から船員労働に対する規制の面がかなり残存している。62年(昭和37)には、総トン数700トン以上2000トン未満船舶の乗組員の労働時間、予備船員の解雇予告、負傷、疾病船員および産前・産後船員の解雇制限などを新たに定めることとした労働条件の改善と、異常気象などの通報、非常配置表の作成、非常の際のための操練の実施などを船長に新たに義務づけた船舶航行の安全確保のための改正が行われた。また70年には、非常の際に船長は船舶と運命をともにするものと解されていた、いわゆる「船長の最後退船義務」規定が削除された。また、83年(昭和58)には、「1978年の船員の訓練及び資格証明並びに当直の基準に関する国際条約(STCW条約)」の国内法化として「航海当直の実施」が義務づけられた。88年には、700トン未満の船舶の乗組員の労働時間が週40時間と定められた。さらに、「1995年のSTCW条約」を受けて、自国内に入港した外国船舶を監督する機関として、外国船舶監督官の新設が定められた。このように、発展途上国の船員が乗り込む便宜置籍船などの急増もあって、船員の技能水準の向上を確保するための国際条約が発効し、それに伴う船員法の改正が相次いで行われている。
[天野和治]
船員(船長,海員,予備船員)を対象とする法律で,危険な海上の船舶の運航の安全をはかるための公法的規定と,労働者としての船員のための労働基準法的規定とから成る。1899年制定の旧船員法は船長の職務権限,船員手帳,雇入契約(乗船契約)の公認,規律などを定める公法的性格のものであり,海員の食料,傷病死給付,給料,雇入れ・雇止め・送還等の労働保護的規定は,同年制定の商法の海商編のなかに置かれていた。その後1937年に船員法が改正され,海商編中の労働条件関係規定と船員最低年齢法(1923公布)とを吸収して,ほぼ現在の船員法の形式をもつに至った。当時の日本の海運界の急速な発展とILO船員関係条約の成立により,統一的な海上労働法が必要となったためである。現行の船員法は1947年に制定された。現行憲法の勤労条件の基準に関する規定(27条2項)との関係で,旧船員法になかった労働時間と有給休暇に関する規定を法律で定めること,および船員の労働条件を国際条約の水準に合わせる必要が生じたことによるものであった。これにより,1日8時間・1週56時間(3直)の船内労働時間制,および同一の船舶において1年間連続して勤務した場合の25日の有給休暇(以下,連続勤務3ヵ月ごとに5日加算)の制度が確立された。その後,1988年の法改正により,労働時間については1日8時間・1週40時間に,有給休暇については連続した勤務6ヵ月について15日(連続勤務3ヵ月ごとに5日加算)と改められた。
→海上労働
執筆者:保原 喜志夫
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…海上における船員の労働。海上という常に危険を伴う場所で長期間に及ぶ船中の共同生活を営む海上労働の特質から,日本では船員について船員法,船員保険法,船員職業安定法等の特別法が整備され,これらの立法は,運輸省によって海運・港湾・船舶行政と一体として運用されている。海上労働に対しては,船員は労働,生活,危険への対応にあたっておのおの不可欠の役割を担う,いわば運命共同体を構成するため,種々の公法的な取締規定が置かれている。…
… 海難は,巨額な財産上の損害を生ずるとともに,尊い人命の損失をも伴う。そこで国は,まず海難を事前に防止するために,海上衝突予防法,海上交通安全法,船舶安全法,船員法,船舶職員法,水先法などを制定している。そして,不幸にして,海難が発生してしまったあとの処理のため,海難の原因を明らかにすることによって,将来の海難の発生を防止することに寄与するため海難審判法に基づく海難審判制度があり,また,商法には,船舶衝突の場合の損害の帰属に関する規定と,海難救助がなされた場合の海難救助料に関する規定などがある。…
※「船員法」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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