日本大百科全書(ニッポニカ) 「海底地形図」の意味・わかりやすい解説
海底地形図
かいていちけいず
普通、海底地形を等深線により表現した図をいう。海底地形図は、海面がこれ以上下がらない面(基本水準面)からの深さを表す等深線で、海底を表現している。等深線は線的な測深成果(水深)を面的に拡大解釈することが多いので、データ密度を示しておく必要がある。しかし1980年代後半にはマルチビーム測深機による面的測量が可能となり、以前に比べ、より正確な海底地形図を効率的に作成できるようになった。また測深成果が数値化され、船上で自動的に等深線図を描く方法や海底の起伏を音響画像で示す技術が実用化され、海底地形図の概念も広がった。等深線図をもとに、段彩法(等深線を各深度ごとに区分し、異なった色または濃淡で彩色し立体感を示す方法)、陰影法(地形に光をあて、生じる陰影を描き、地形を立体的に表現する方法)、ハッチ法(地図上、特定の区域を他と区別するため、平行線=ハッチで描く方法)、レリーフ法(浮彫り法)、ブロック・ダイヤグラム法(方形に囲った地域を斜め上方から見下ろし、地表の起伏とブロックの断面を示す図法。しばしば断面には地質構造も描画し、地形の成り立ちと地質構造の関係をわかりやすく表す)、鳥瞰図(ちょうかんず)(地表を鳥の目で見下ろすようにして描いた図。俯瞰図(ふかんず)ともいう。海底地形図では、鳥の目ではなく鯨の目で見た海底地形図という観点から、鯨瞰図(げいかんず)とよぶ専門家もいるが一般的ではない)など各種の立体的表現をした海底地形図もある。また20世紀末には航海以外の海洋におけるさまざまな活動(海洋研究、調査、開発、海洋環境保全、津波防災、マリンレジャーなど)に必要な情報をGIS(地理情報システムGeographic Information System)を応用して盛り込んだデジタル海底地形図も登場した。
国内では海底地形図としては海上保安庁海洋情報部(旧、水路部)が刊行する「海の基本図」などが知られている。海上保安庁から刊行されたものは、海底地形図と海底地質構造図からなる沿岸の海の基本図(縮尺は5万分の1が中心)、大陸棚の海の基本図(縮尺20万分の1、50万分の1および100万分の1)、日本近海海底地形図(縮尺300万分の1)、大洋水深図(縮尺100万分の1)、その他がある。大洋水深図は、国際水路機関(IHO)の加盟国によって編集された大洋水深総図(GEBCO)の原図(縮尺100万分の1)を基として刊行されている海底地形図で、現在は100万分の1大陸棚の海の基本図が整備されるのに伴い、少しずつ廃版されつつある。その他の海底地形図として、縮尺800万分の1の浮彫り式の海底地形図も販売されている。国土地理院も水深50メートル以浅の沿岸域の海底地形図を刊行している。
[桂 忠彦]
『佐藤任弘著『海底地形学』(1969・ラテイス)』▽『川上喜代四著『海の地図――航海用海図から海底地形図まで』(1974・朝倉書店)』