海進(読み)カイシン(英語表記)marine transgression

デジタル大辞泉 「海進」の意味・読み・例文・類語

かい‐しん【海進】

海面の上昇、あるいは陸地の沈降によって海が陸に入り込んでくること。⇔海退

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精選版 日本国語大辞典 「海進」の意味・読み・例文・類語

かい‐しん【海進】

〘名〙 陸地の沈降、海面の上昇によって、海が陸地に浸入すること。⇔海退

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改訂新版 世界大百科事典 「海進」の意味・わかりやすい解説

海進 (かいしん)
marine transgression

陸地の沈降または海水準の上昇によって海岸線が陸側へ前進すること。海侵とも書く。海進にともなって,それまでの陸地が海となり,また海はより深くなる。これとは逆に海岸線が後退し,それまでの海底が陸地として現れることを海退という。海進によってあらたに海底となった場所では,基盤や陸成層の上に海成層の堆積がはじまるが,海成層の堆積の場はしだいに陸側へ広がっていき,海成層の下底には広い範囲にわたって不整合が認められることが多い。海進によってあらたに海底となった場所に最初に堆積するのは,礫(れき),砂など海浜成,沿岸成の粗粒堆積物のことが多いが,粗粒堆積物の形成の場は海進の進行にともなってしだいに陸側へ移動し,粗粒堆積物の上位には沖合で形成されるシルト,粘土などの細粒堆積物がかさなるようになる。すなわち,一連の海進によって形成された地層は,ある場所では下位から上位へ,海浜成,沿岸成の粗粒岩相から,沖合成の細粒岩相へという順序でかさなる。海退の場合には,地層はこれと逆の順序を示す。したがって一連の海進・海退があった場合,地層は海浜・沿岸成→沖合成→沿岸・海浜成(粗粒→細粒→粗粒)と規則的に変化する1回の堆積輪廻を示すことになる。一方,地形的には,もともとの起伏や海進の規模にもよるが,海水準の相対的な上昇によって,もとの河谷,低地は入江や湾となり,もとの山脚は岬や島となって,複雑な屈曲を示すいわゆる沈水形海岸線を生ずることが多い。

 海進・海退は,地質時代を通じて各地で何回も繰り返して生じた現象であり,その規模も大小さまざまである。汎世界的な大規模な海進としては,白亜紀後半(ほぼ1億年前から6500万年前にかけて)のいわゆる白亜紀海進が著名で,この時期に西ヨーロッパ~南ヨーロッパ,西アフリカ~北アフリカ,西アジア~南アジア,北アメリカ中~西部,南アメリカ西部など,各大陸のかなりの範囲が浅海におおわれた。日本では,新第三紀中新世の初期末から中期初頭(1600万~1500万年前)の海進がもっとも顕著である。この時期に,日高北上阿武隈山地や中部日本の山地紀伊,四国,九州の山地などを残して,現在の日本列島の約半分(東北日本の約70%,西南日本の約30%)が海に没し,多島海を形成していた。このことは,当時の海成層が基盤を不整合におおって広く日本各地に発達していることから知られる。また,この海進に際して,暖流域が北上し,温暖性の沿岸海生生物群が北海道中部まで分布を広げたり,本州中部でもマングローブ沼沢地やサンゴ礁が形成されるなど,日本列島とその周辺ではいちじるしい気候の温暖化があった。

 現在の自然環境に大きな影響を与えているのは,最終氷期最盛期(約1万8000年前)以降の海進である。世界的規模での氷床溶融は海水量の増大による海水準の上昇をもたらし,それにともなって汎世界的な後氷期の海進が生じた。この海進は,西ヨーロッパではフランドル海進,日本では縄文海進として知られているもので,海水準の上昇は約100mに達した。日本の沖積平野の大部分は,この時期の海進によって内湾や浅海となった場所が,その後,河川の埋積作用や海水準の多少の低下などによって陸化して生じたものである。現在の東京湾の海底には,陸上で形成された河谷の跡が,新期の堆積物におおわれて伏在している。この河谷跡は,旧利根川,荒川,多摩川などのかつての延長部にあたっているが,その海底下における存在は,後氷期の海進をもっとも端的に示している。このように内湾や大陸棚の海底に,かつて陸上で形成された河谷の跡が埋没している例は,世界各地から数多く知られている。
海水面変化
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「海進」の意味・わかりやすい解説

海進
かいしん
marine transgression

陸地が海の侵入を受け,海岸線が陸側に移動すること。陸地の広範な沈降または海面の上昇によって起る。以前削剥地域であった地域は堆積地域となり,陸地へ侵入した海は新しい堆積物を次々と古い堆積物の上に堆積する。世界的に認められる海進は,氷期間氷期の交代による海面変動に基づくもので,間氷期に氷河の融解による海面上昇が広範囲の海進を起す。フランドル海進は北海にみられる後氷期の海進 (約 5000~6000年前) で,日本では下末吉海進が有名。これは神奈川県下末吉台地に発達する下末吉層 (上部更新統) にみられる海進で,これに対比される地層や地形面はほぼ全国的に分布する。汀線高度は 50m内外。時代はリス=ウルム間氷期とされるがなお不明。後氷期では東京付近に有楽町層を堆積した有楽町海進が有名。関東平野ではフランドル海進と同時期の有楽町層時代の海進で,現在の沖積低地のほとんど全域が海におおわれ,縄文式時代の貝塚形式環境をつくり上げた。利根川・荒川流域の貝塚分布から,縄文式時代前期に,最も奥地まで海岸線が侵入し,以後海退へと移ったことが知られている。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「海進」の意味・わかりやすい解説

海進
かいしん

陸地が沈降するか、または海水準が上昇して、陸地に向かって海が侵入する現象。約6000年前の縄文前期ころには世界的な海進のピークが認められている。この海進をフランドリア海進といい、日本では縄文海進とよんでいる。海進によって陸成層の上には海成層が覆うことになる。その粒度変化をみると、下部層から礫(れき)、砂、泥の順に、上部の地層に向かって細粒化する傾向が認められる。

[豊島吉則]

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百科事典マイペディア 「海進」の意味・わかりやすい解説

海進【かいしん】

地質時代において,陸地であった部分が海水におおわれ,陸地が縮小し海域が拡大すること。地盤の沈下や海水準の上昇などによって起こる。白亜紀の海進,第四紀の間氷期の海進などは,世界的規模で起こった。→海退

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世界大百科事典(旧版)内の海進の言及

【海岸線】より

…また世界の海洋の海水量の増減による海面そのものの上下によっても海岸線は変化する。海岸線の水平的移動による海域の平面的な拡大を海進,陸域の平面的な拡大を海退とよぶ。また陸地の海面に対する相対的な上昇を離水,下降を沈水といい,それぞれにより生じた海岸線を離水海岸線,沈水海岸線という。…

※「海進」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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