陸地の沈降または海水準の上昇によって海岸線が陸側へ前進すること。海侵とも書く。海進にともなって,それまでの陸地が海となり,また海はより深くなる。これとは逆に海岸線が後退し,それまでの海底が陸地として現れることを海退という。海進によってあらたに海底となった場所では,基盤や陸成層の上に海成層の堆積がはじまるが,海成層の堆積の場はしだいに陸側へ広がっていき,海成層の下底には広い範囲にわたって不整合が認められることが多い。海進によってあらたに海底となった場所に最初に堆積するのは,礫(れき),砂など海浜成,沿岸成の粗粒堆積物のことが多いが,粗粒堆積物の形成の場は海進の進行にともなってしだいに陸側へ移動し,粗粒堆積物の上位には沖合で形成されるシルト,粘土などの細粒堆積物がかさなるようになる。すなわち,一連の海進によって形成された地層は,ある場所では下位から上位へ,海浜成,沿岸成の粗粒岩相から,沖合成の細粒岩相へという順序でかさなる。海退の場合には,地層はこれと逆の順序を示す。したがって一連の海進・海退があった場合,地層は海浜・沿岸成→沖合成→沿岸・海浜成(粗粒→細粒→粗粒)と規則的に変化する1回の堆積輪廻を示すことになる。一方,地形的には,もともとの起伏や海進の規模にもよるが,海水準の相対的な上昇によって,もとの河谷,低地は入江や湾となり,もとの山脚は岬や島となって,複雑な屈曲を示すいわゆる沈水形海岸線を生ずることが多い。
海進・海退は,地質時代を通じて各地で何回も繰り返して生じた現象であり,その規模も大小さまざまである。汎世界的な大規模な海進としては,白亜紀後半(ほぼ1億年前から6500万年前にかけて)のいわゆる白亜紀海進が著名で,この時期に西ヨーロッパ~南ヨーロッパ,西アフリカ~北アフリカ,西アジア~南アジア,北アメリカ中~西部,南アメリカ西部など,各大陸のかなりの範囲が浅海におおわれた。日本では,新第三紀中新世の初期末から中期初頭(1600万~1500万年前)の海進がもっとも顕著である。この時期に,日高・北上・阿武隈山地や中部日本の山地,紀伊,四国,九州の山地などを残して,現在の日本列島の約半分(東北日本の約70%,西南日本の約30%)が海に没し,多島海を形成していた。このことは,当時の海成層が基盤を不整合におおって広く日本各地に発達していることから知られる。また,この海進に際して,暖流域が北上し,温暖性の沿岸海生生物群が北海道中部まで分布を広げたり,本州中部でもマングローブ沼沢地やサンゴ礁が形成されるなど,日本列島とその周辺ではいちじるしい気候の温暖化があった。
現在の自然環境に大きな影響を与えているのは,最終氷期最盛期(約1万8000年前)以降の海進である。世界的規模での氷床の溶融は海水量の増大による海水準の上昇をもたらし,それにともなって汎世界的な後氷期の海進が生じた。この海進は,西ヨーロッパではフランドル海進,日本では縄文海進として知られているもので,海水準の上昇は約100mに達した。日本の沖積平野の大部分は,この時期の海進によって内湾や浅海となった場所が,その後,河川の埋積作用や海水準の多少の低下などによって陸化して生じたものである。現在の東京湾の海底には,陸上で形成された河谷の跡が,新期の堆積物におおわれて伏在している。この河谷跡は,旧利根川,荒川,多摩川などのかつての延長部にあたっているが,その海底下における存在は,後氷期の海進をもっとも端的に示している。このように内湾や大陸棚の海底に,かつて陸上で形成された河谷の跡が埋没している例は,世界各地から数多く知られている。
→海水面変化
執筆者:坂本 亨
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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陸地が沈降するか、または海水準が上昇して、陸地に向かって海が侵入する現象。約6000年前の縄文前期ころには世界的な海進のピークが認められている。この海進をフランドリア海進といい、日本では縄文海進とよんでいる。海進によって陸成層の上には海成層が覆うことになる。その粒度変化をみると、下部層から礫(れき)、砂、泥の順に、上部の地層に向かって細粒化する傾向が認められる。
[豊島吉則]
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…また世界の海洋の海水量の増減による海面そのものの上下によっても海岸線は変化する。海岸線の水平的移動による海域の平面的な拡大を海進,陸域の平面的な拡大を海退とよぶ。また陸地の海面に対する相対的な上昇を離水,下降を沈水といい,それぞれにより生じた海岸線を離水海岸線,沈水海岸線という。…
※「海進」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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