山の表面を覆う土壌部分だけではなく、その下にある岩盤ごと崩れる現象。表層土は0・5~2メートル程度あるとされるが、深層崩壊は深さ数十メートルから崩れる場合もあり、規模が大きい。大量の雨水が岩盤のひび割れにたまると、水圧が高くなり、岩盤の強度は低下する。大雨や雪解け、地震などで崩れやすくなる。高速で崩れ落ちた大量の土砂が下流の住宅を押し流したり、河川をせき止めて洪水を引き起こしたりする。
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斜面崩壊のうち、斜面深層の地盤から大規模に崩壊する現象。崩壊量が大規模なものは、斜面表層の土壌、風化物、崩積土が滑るだけでなく、その下にある岩盤の深い位置に滑り面が形成され、そこから上の部分がすべて崩壊するため、深層崩壊とよばれる。
斜面崩壊には、表層崩壊shallow landslideと深層崩壊がある。砂防研究者の間では、表層崩壊とは地表からの深さ0.5~2メートル程度の崩壊をさし、深層崩壊は深さ2メートル以上のものをさすとされている。しかし、地すべり・土木・地質などの研究者の間では、少なくとも5メートル以上の深い部分から発生したものが深層崩壊とされることが多く、各分野の研究者間で、崩壊の深さに関して統一された明確な定義があるわけではない。深層崩壊は、場合によっては数十メートル以上の深さから上の斜面が崩壊するため、崩壊土砂量は100万立方メートルを超える大規模なものとなることも珍しくない。そのため深層崩壊は、従来は大規模崩壊large landslideとよばれることが多かった。
崩壊を起こす力(営力)は重力であるが、その直接的なきっかけとなるのは、豪雨であったり、地震動であったりする。斜面に存在する岩石は、つねに風化の影響を受け、重力の影響などで不安定になって割れ目が多く形成されている。そこに大量の雨が降り地下の割れ目などに十分水がたまると、浮力が働き岩石を支える力が低下し一気に崩落することになる。崩壊量が大きい場合、斜面の下に集落などがあれば、大きな人的・物的被害が発生する。
[村田明広]
1889年(明治22)の十津川災害(とつかわさいがい)では、奈良県の十津川村を中心に、台風による豪雨が原因となり、20か所以上で深層崩壊が発生した。このときの24時間雨量は1000ミリメートル以上に達したと推定されている。崩壊した土砂は十津川(とつがわ)やその支流に流れ込み、川をせき止めて天然ダム(地すべりダム、土砂ダム)を形成した。ほとんどの天然ダムは早い時期に決壊して、下流に深刻な土石流災害や洪水災害をもたらしたが、現在に至るまで残っているものもある。この十津川村はじめ奈良県や和歌山県など紀伊半島では、2011年(平成23)にも台風12号による豪雨で深層崩壊が発生し、いくつかの天然ダムが形成された。1889年時に崩壊した斜面が、2011年に再度崩壊した例もあれば、新たに崩壊したところもある。2011年に形成された一部の天然ダムは決壊せずに残っている。将来、新たに発生する豪雨が天然ダムを越流しても決壊を招かないように、あらかじめ、水流で侵食されないように補強した水路を建設したり、越流した場合に警報が発せられるシステムがつくられている。
地震動がきっかけで深層崩壊が発生した例として、1984年(昭和59)の長野県西部地震による御嶽崩れ(おんたけくずれ)があり、3400万立方メートルの崩壊が生じた。御嶽山は活火山であり、火山の一部が崩壊したため山体崩壊ともよばれる。地震で発生した同様の例として、1792年(寛政4)に雲仙(うんぜん)火山の眉山(まゆやま)で山体崩壊が発生し、このとき、崩れた土砂が有明海に突入して津波を引き起こし、約1万5000名の死者を出す惨事となった。
[村田明広]
深層崩壊は、地震時に火山で多く発生するほか、西南日本外帯の中部地方、紀伊半島、四国、九州の四万十帯(しまんとたい)や秩父(ちちぶ)帯で豪雨をきっかけとして多く発生してきた。これらの地帯には、中生代~新生代の付加堆積(たいせき)物が分布しており、泥岩基質に砂岩、緑色岩、チャートなどのブロックが含まれるメランジュとよばれる地質体が多く含まれている。これらの地質体が斜面に存在するときに、風化や岩盤クリープなどの影響で深部まで割れ目が形成されていることが、深層崩壊発生の素因の一つと考えられる。ただし、付加体以外の地質体でも深層崩壊が起こることは知られている。雨量との関係で深層崩壊の危険性を論じたり、深層崩壊と岩盤の地質構造との関係が調査されたり、地形をレーザープロファイラとよばれる航空機搭載のレーザーを使った高精度の測量(航空レーザー測量)により精度よく調査して、深層崩壊の可能性がある斜面を事前に推定する研究などが進められている。
[村田明広]
(2019-10-16)
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