湖沼汚濁(読み)こしょうおだく

改訂新版 世界大百科事典 「湖沼汚濁」の意味・わかりやすい解説

湖沼汚濁 (こしょうおだく)

湖沼の周辺で都市化が進み,産業活動や開発工事が盛んになるにつれ,湖沼の汚濁が進んでいる。その中で最も代表的な例が富栄養化による湖沼の汚濁である。植物プランクトンの栄養源となる窒素やリンを含む都市下水,工業廃水,農業・畜産業排水などが湖に大量に流入すると植物プランクトンの発生が急激に増加する。その結果,透明度は著しく低下するので,深いところまで光が届かなくなり,このため,シャジクモ,エビモ,クロモなどの沈水植物は減少し,代わりにヒシ,ガガブタ,アサザなどの浮葉植物が繁茂する。また,底に沈んだ植物プランクトンの死骸は分解過程で酸素を消費するので,湖底付近の酸素量はしだいに減少し,ここでは酸素の少なくないところを好むイトミミズユスリカ幼虫ヒメタニシなどが多くなる。しかし,この状態が長く続くと,やがて,メタンガス,硫化水素ガスが発生して悪臭を放つとともに生物のすめない死の湖に近づく。富栄養化が進むと,人間生活にも悪影響を及ぼす。水の色が緑色となり,湖の美観がそこなわれるばかりでなく,養殖魚の斃死(へいし)などが起こったりするが,さらに,浄水場におけるろ過障害やカビ臭の発生がみられ,また塩素処理によって発癌性物質であるトリハロメタンが生成されたりするなど,飲水に与える影響も大きい。外国の湖では,毒性プランクトンの発生によって,水生動物,家畜,人間などに被害が起こっている例もある。

 富栄養化による汚濁以外に工業から流入してくる多量の有機物質によって水中の化学的酸素要求量(COD)や生物化学的酸素要求量(BOD)が高くなったり,湖底のへどろ化を起こしたりした例も知られている。また,工業廃水中の化学物質,重金属,家庭下水からの合成洗剤,農業排水からの農薬など水質汚染の原因となるものも流れてくる。これも広い意味では水の汚濁に入れられるが,これらの有害物質による汚染は水中で検出することができないほど微量であっても,生物濃縮機構によって,生物体内には多量の有害物質が蓄積されることもあるので危険である。

 湖沼の汚濁を防止するためには工業廃水の規制強化やクローズドシステム化,家庭排水の合成洗剤規制,下水の適正な三次処理などが必要であり,また,化学肥料,農薬の適正使用,有機農法への転換,天敵による害虫防除の活用,家畜糞尿の土地還元など総合的な対策がとられなければならない。さらに,汚濁源ともなり,同時に自然の浄化機能を低下させる湖岸の改変,埋立て,湖周道路の建設,河川のコンクリート化,山林の乱伐など,自然環境の破壊につながる開発を慎み,自然環境の保全に努めなければならない。
湖沼
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日本では1984年7月,湖沼の水質の保全を図ることを目的として〈湖沼水質保全特別措置法〉(略称,湖沼法)が公布された。本法は,湖沼の水質保全の基本方針を定めることを国に義務づけているほか,指定湖沼およびその周辺の指定地域(ともに内閣総理大臣が指定)の制度を置き,水質の保全について,指定地域における排出水の規制基準の設定など特別の措置を定めている。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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