平安末~鎌倉前期の宮廷政治家。正二位内大臣にまで進み,土御門(久我)内大臣と号す。村上源氏久我雅通の長子。母は美福門院(または八条院)女房,典薬助藤原行兼の娘。はじめ花山院忠雅の娘を妻としたが,仁安・嘉応(1166-71)ころ平教盛の娘をめとり,全盛期の平氏の後援をたのんで政界に進出。また高倉天皇の近臣として重きをなしたが,平氏の西走(1183)後は後鳥羽天皇の乳母高倉範子を室に迎えるなどして政治的立場の更新をはかり,後白河法皇近臣の列に加わった。才幹人にすぐれ,1185年(文治1)源頼朝の申請により議奏公卿に選任,建久初年には頼朝の長女大姫の入内(じゆだい)工作を依頼されるなど,関東の信任をも得た。法皇の死後も,法皇の寵姫だった丹後局高階栄子と結託して勢力の温存に努め,95年(建久6)範子の連れ子在子(承明門院)が後鳥羽天皇の第1皇子為仁を出産すると,通親はこの皇子を養育することになった。翌年,長年の政敵九条兼実一派を廟堂から追放(建久7年の政変),98年には為仁の践祚を実現(土御門天皇),後鳥羽院庁の別当にも任じて政治の実権を握った。その権勢は世に〈源博陸(みなもとのはくりく)〉(関白の意味)と称されたほどで,99年(正治1)にも頼朝の死による動揺期をとらえ,京都政界における残余の親幕派勢力を一掃したが,晩年は後鳥羽上皇の政治的成長によって,その掣肘(せいちゆう)を受けることも多かった。和歌文章にすぐれ,著書に《高倉院厳島御幸記》《高倉院升遐記(しようかき)》がある。
執筆者:杉橋 隆夫
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鎌倉初期の公卿(くぎょう)。源雅通(まさみち)の子。土御門(つちみかど)を称した。六波羅(ろくはら)時代に、平氏との間に婚姻を通じて政治家としての地歩を築き、また高倉(たかくら)天皇の近臣として重んぜられた。しかし平氏の都落ちに際しては、これを離れて後白河(ごしらかわ)院のもとにとどまり、その近臣としてしだいに勢力を得た。また新興の関東政権とも連携して宮廷での地歩確保に努め、関白(かんぱく)九条兼実(かねざね)の執政と対立した。1196年(建久7)近衛(このえ)家を擁して九条家を失脚させ、事実上政権を独占する勢いを示した。やがて後鳥羽(ごとば)天皇が上皇として院政をみるや、院の意を迎えて、いよいよその権勢を固めた。院の別荘水無瀬殿(みなせどの)は通親の造営するところである。またその養女在子を院の後宮(こうきゅう)に入れ、その皇子が即位する(土御門天皇)に及び、通親は外戚(がいせき)として威を振るい、父祖を超えて内大臣となり、鎌倉時代の土御門家繁栄の基がここに築かれた。彼は和歌・文章に巧みで、『高倉院升遐記(しょうかき)』『高倉院御幸記』の和文の著があり、後鳥羽院の近臣源家長(いえなが)の『家長日記』にはとくに歌人として高く評価されている。
[多賀宗隼]
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…践祚の後も後白河法皇が院政を行ったが,92年(建久3)法皇の没後は,法皇と対立していた関白九条兼実が実権を握った。源通親ら法皇の旧側近はこれと対立し,96年通親は策謀によって兼実を失脚させ政権を握った。98年後鳥羽天皇は通親の外孫にあたる皇子為仁(土御門天皇)に譲位,上皇として院政をはじめ,1221年(承久3)まで,土御門・順徳・仲恭天皇の3代にわたり院政を行った。…
…はじめ平時子と同腹の能円(のうえん)に嫁し,在子(のちの承明門院)をもうける。1180年(治承4)後鳥羽天皇が誕生するや妹とともに乳母に上がったが,夫や平氏一門の西走に同行せず,やがて在子を伴って源通親に再嫁した。これが通親の権勢伸長に益するところ多大だったが,妹の辣腕ぶりにくらべて範子自身は温順な性質であったらしく,格別の政治的活動は知られていない。…
…92年3月,後白河法皇は死にさいして,長講堂とその所領を寵姫丹後局所生の宣陽門院覲子内親王にゆずった。宣陽門院はここに移住し,源通親を院別当に任命したが,その所領に目をつけて恩賞にあずかろうとして追従する貴族たちが多かった。とくに別当通親は,この膨大な長講堂領の管理責任者だったので,その富は摂関家をしのいだといわれる。…
※「源通親」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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