火山の斜面に堆積(たいせき)した火山噴出物が、大雨などによって多量の水分を含み、山腹を流れ下る現象。火山地域におこる土石流のこと。ときには秒速数十メートルにも達する高速で、下流まで一気に流れ下るので流域地域が広く破壊される災害となることが多い。細かい火山灰の地層が水を通さないので、地表水が谷の部分に集まって流路の土砂を取り込み泥流となる。このため、水蒸気爆発など火山灰を多く放出する噴火中に発生することが多い。しばしば熱い熱泥流が噴火中に発生することもある。
1926年(大正15)の積雪期に発生した十勝岳(とかちだけ)の噴火では、火口丘の一部が崩れて、融雪による泥流が発生した。爆発の約25分後には泥流が20キロメートル以上も離れた上富良野(かみふらの)町の居住地を急襲し、死者144人などの惨害を出した。1985年にコロンビアのルイス火山(ネバド・デル・ルイス火山)で発生した火山噴火では、山頂部の氷河が溶け、山頂から40キロメートルも離れた麓(ふもと)の町アルメロに泥流が流れ込み、2万3000人もの死者が出た。また、火山泥流は、火山爆発で高空に上昇した水蒸気が冷却・凝結して生じた豪雨で、発生ないし助長されることもある。さらに、1783年(天明3)の浅間山(あさまやま)大噴火の鎌原(かんばら)熱雲のように、火砕流や岩屑(がんせつ)なだれが河川に流入し、泥流に変わるものもある。三宅島(みやけじま)で2000年(平成12)に発生したマグマ水蒸気爆発では、山腹に玄武岩質の細かい火山灰が厚く堆積し、その後数年にわたって大雨の際に泥流が繰り返して発生した。
[諏訪 彰・中田節也]
火山噴出物または火山体の崩壊したものが,表流水や融雪水と混じって山腹を流下する現象。噴火や水蒸気爆発など火山活動が直接の引金になるもの,火口湖やカルデラ壁の崩壊,豪雨のみによるものなど原因も多様で,流下速度や流下形態もいろいろである。大きい礫(れき)が密集したもの,大部分が泥からなるもの(狭義の泥流),その中間のものなど流下物も多様である。どの場合でも,細かい火山性砕屑物(さいせつぶつ)と水が混じり,比重・粘性の大きい混合物が間を満たし,そのため巨礫も浮かんで運ばれる。泥流堆積物は巨大な火山岩塊から微細な火山灰までのものが混じり,雑然とした状態を示す。大規模な流下の場合には,中・末端部に特有な流れ山(泥流丘)を生ずる(鳥海山麓の象潟(きさがた),北海道駒ヶ岳山麓の大沼・小沼,磐梯山北麓など)。泥流という語は日本語,英語ともに泥という字が誤解を与えやすいのでラハールとして一括した方がよいという意見もある。日本の火山斜面で,崩壊物や谷の堆積物が急速に流下し,先端部に巨礫が集中し,衝撃力の大きな特有な流れ方をするとき土石流という。これは山麓に大きな災害をもたらす。激しい爆発で山体がくずれ,岩屑なだれ(デブリアバランシュdebrisavalanche)が流下し,その下流部では水と混じり泥分の多い泥流になることもある(セント・ヘレンズ火山,磐梯山など)。このように初めから水を伴わない場合もあり,それらは大規模で被害も著しく大きい。
執筆者:茅原 一也
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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(2015-7-7)
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