化学式(NH4)2CO3。1水和物(NH4)2CO3・H2Oのみが知られ,無水和物は得られていない。市販の炭酸アンモニウム(俗に炭安という)は,炭酸水素アンモニウムNH4HCO3とカルバミン酸アンモニウムNH4OOCNH2との混合物または複塩で,炭酸カルシウムと硫酸アンモニウムの混合物を加熱し,昇華物として得られる弱いアンモニア臭のある白色の塊。これを濃アンモニア水に溶かし,冷所に数日放置すると,1水和物の無色透明の光沢ある斜方晶系結晶が析出する。15℃で水100gに100g溶ける。濃アンモニア水,エチルアルコール,二硫化炭素に不溶。空気中に放置すると,常温で徐々にアンモニアを放って炭酸水素アンモニウムに変化する。加熱すると,固体は58℃,水溶液は70℃で分解して,アンモニアと二酸化炭素と水とに変化する。市販の炭酸アンモニウムは加熱により昇華する。水100gへの溶解度25g(15℃),67g(65℃)。沈殿試薬として用いるときには,市販品をアンモニア水(6mol/dm3)に溶かし,(NH4)2CO3水溶液として使用する。分析試薬,各種アンモニウム塩の原料,羊毛の洗浄剤や染色の媒染剤,医薬品(NH4HCO3・NH4OOCNH2で,胃酸過多と頭痛併発時の内服薬)として用いる。
執筆者:藤本 昌利
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
(NH4)2CO3・H2O(114.10).炭酸カルシウムと硫酸アンモニウムの混合物を加熱昇華させたものを濃アンモニア水に溶かして冷却すると,一水和物が得られる.無水物は得られていない.アンモニア臭をもつ無色の結晶.58 ℃ で分解してアンモニアと二酸化炭素と水になる.空気中でも不安定で,徐々に分解して炭酸水素アンモニウムとアンモニアと二酸化炭素になる.冷水にはよく溶けるが,熱水では分解してアンモニアと二酸化炭素と水になる.他のアンモニウム塩の製造原料,分析用試薬,ベーキングパウダー,発泡剤,医薬品(制酸剤,気付薬),接着剤(カゼインの可溶化剤)などとして用いられる.[CAS 506-87-6:(NH4)2CO3][CAS 10361-29-2:(NH4)2CO3・H2O]
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
炭酸のアンモニウム塩で、一水和物(NH4)2CO3・H2O 式量114.1のみが知られており、無水和物は得られていない。炭安とよばれる市販品は、炭酸カルシウムと硫酸アンモニウムの混合物の加熱、昇華により製造されたもので、炭酸水素アンモニウムNH4HCO3とカルバミン酸アンモニウムNH4CO2NH2の複塩あるいは混合物である(白色塊状)。これを濃アンモニア水に溶かして冷所に数日放置すると、炭酸アンモニウムの一水和物が得られる。光沢のある無色の斜方晶系微結晶。水によく溶ける(15℃の水100グラムに100グラム)が、エタノール(エチルアルコール)、二硫化炭素には溶けない。空気中に放置するとアンモニアを発生しながら徐々に炭酸水素アンモニウムに変わる。固体は58℃で、水溶液は70℃でアンモニア、水、二酸化炭素に分解する。各種アンモニウム塩の製造原料、分析用試薬となるほか、制酸剤など医薬品としても用いられる。
[鳥居泰男]
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