窒素肥料の一つ。カルシウムシアナミドCaCN2と炭素との混合物からなる。鉱物質資源から乾式法で製造される窒素肥料として特色がある。1900年前後の数年間にドイツのフランク父子Adolf Frank,Albert F.およびカロNikodem Caroにより,製法の発見と肥料への提案がなされ,06年からイタリアで生産が開始された。日本では08年に熊本県水俣で日本窒素肥料が工場を建設して生産を開始し,10年より市販をはじめた。日本には原料となる石灰石が豊富にあるなどの理由で生産は急増した。しかし,55年の50万tの生産以後は,原料となるカーバイド(炭化カルシウム)がビニル生産に利用されるようになったことや,尿素や塩安の生産が増大したことにより減産した。
有効成分あたりの価格が,硫安,塩安,尿素の約2倍にもなるのが問題だが,肥効に特徴があり,除草効果や硝酸化成抑制効果もあるため,現在でも数万tは利用されている。
硫安と同様の肥効を示すが,含有されるジシアンジアミドの作用で土壌中の微生物の働きが抑制され,分解,硝酸化成も抑制されて肥効が遅れてあらわれる。また含有されるシアナミドの有害作用で,除草効果や病害虫防除効果もあり,そのために利用されることもある。ふつうは元肥として用い,土壌に施用し,10日ほどしてシアナミドの分解が完了してから,作物の播種(はしゆ)や移植を行う。しかし畑では種子から5~6cm離して施肥すれば,播種と施肥を同時に行ってもよい。水田では土壌全層によく混合してから湛水(たんすい)する。特殊な利用法として,センチュウの防除のために施用したり,雑草のノビエの種子を秋に石灰窒素をまいて休眠を打破して発芽させ,冬季に枯死させて防除するのに用いたり,クワの胴枯病の防除などに用いられる。
石灰窒素は刺激性,腐食性があり,湿った皮膚につくと炎症を起こす。吸入すると気道粘膜がただれ,めまいや頭痛が起こる。吸入後飲酒すると症状がより激しくなるので注意を要する。
執筆者:茅野 充男
石灰石とコークスから炭化カルシウムCaC2をつくり,その粉末に窒化炉の中で1000~1100℃で窒素N2を吸収させる反応により得られる。
CaC2+N2─→CaCN2+C(β-黒鉛)+(73~75)kcal
窒化炉にはフランク=カロ式,N(日窒)式,D(電化)式などがあり,後2者は日本独自の開発になる。発熱反応なので,反応開始時に適当な熱量を与えれば,あとは連続的に窒化反応が進む。反応速度促進剤としてフッ化カルシウム(蛍石)CaF2を添加する。製品は黒色微粉末で,飛散しやすいため,粘結剤を加えて粒状石灰窒素をつくることも行われる。20~25%の窒素を含有し,肥料公定規格ではシアナミド性N≧19%を保証する。水蒸気で分解すると,アンモニアが発生する。
CaCN2+H2O─→CaCO3+NH3
合成アンモニア工業の確立以前は,この方法でNH3を経て硫酸アンモニウム(硫安)(NH4)2SO4を製造し,変成硫安と称して販売使用された。
水でシアナミド分を抽出し,これからジシアンジアミド,グアニル尿素,グアニジンなどの石灰窒素誘導体製品を製造することができる。
執筆者:金澤 孝文
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
カルシウムシアナミドCaCN2を主成分とする暗灰色の粉末または小粒の窒素系の肥料で、カーバイド(炭化カルシウム)臭があり、吸湿性をもつ。窒化炉でカーバイドと窒素とを反応させて製造する。石灰窒素は種々の点で他の肥料にはみられない以下のような特徴がある。
(1)アルカリ性で、カルシウム含量はだいたい炭酸カルシウムと等しく、土壌の酸性を中和する効果がある。
(2)窒素肥料としての肥効は硫安と同等(窒素19%以上)で基肥として使用する。主成分のシアナミドおよびジシアンジアミドの生物に対する毒性により微生物の活動が抑制されて肥効が多少遅延する。
(3)この毒性を生かして土壌中の病虫害(ザリガニ、線虫、ナス立枯病やキャベツ腐敗病の病原菌など)や雑草の防除にも使われる。しかし、種子に接触すれば発芽を阻害し、葉にかかれば枯れるので、注意が必要である。また人体にも有害なので、散布時には皮膚に触れたり吸入しないよう心がけなくてはならない。
[小山雄生]
『日本石灰窒素工業会編・刊『石灰窒素100年技術の歩み』(2001)』
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
カルシウムシアナミドCaCN2の俗称.有機性窒素をもつ窒素肥料の一つ.カルシウムシアナミドを主体とし,ほかに炭素などを含む混合物.N 20~23%.成分はCaCN261%,CaO 20%,C 13%,SiO22%,Al2O32%,CaC22%,そのほかである.見掛け密度1.0~1.2 g cm-3.A. FrankとN. Caroが発見した(1895年)もっとも古い化学肥料.肥効は主成分が土壌中で分解し,窒素がNH3の形になることによる.粉末炭化カルシウムと窒素との高温反応(950~1200 ℃)でできる.
CaC2 + N2 CaCN2 + C + 285 kJ
反応開始温度は800 ℃ 程度で,反応熱を窒化炉から逃がさないようにすると反応が一部で起こり,以降は自燃する.可逆反応であり,一定の窒素分圧で平衡温度以上では逆反応が起こり,シアナミドが分解する.窒化炉から取り出した石灰窒素は黒色の塊で,粉砕して製品とする.肥料,農薬のほか,ジシアンジアミド系誘導体,チオ尿素系誘導体,シアン化物などの合成原料として用いられる.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…シアナミドNH2-CNのカルシウム塩とみなすこともできる物質で,工業的にはカルシウムカーバイドCaC2を電気炉中で窒素を通じながら1000℃付近に熱して製造される。 CaC2+N2―→CaCN2+Cこの反応の生成物は炭素(黒鉛)が混合しているので灰黒色を呈し,石灰窒素と呼ばれる。これから冷水でカルシウムシアナミドを抽出することができる。…
※「石灰窒素」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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