パイロ電気,またはピロ電気ともいう。熱したり冷やしたりすると結晶に電荷が現れる現象。英語ではpyroelectricityというが,接頭語のpyroは火を意味するギリシア語pyrを語源とする。
熱せられた電気石(トルマリン)が冷えると灰を吸着する現象は,かなり古くからスリランカ(セイロン)やインドで知られていたらしいが,これがセイロン磁石としてヨーロッパにもたらされたのは18世紀の初頭であった。この結晶の温度変化によって生ずる現象はヨーロッパの科学者の興味を誘い,多くの研究がなされた。その結果,19世紀中ごろまでには,結晶内の電気分極(の大きさ)が温度によって変わるために電荷が現れ,この電荷による静電誘導によって灰などの微粒子が付着することが明らかにされた。すなわち,多くの結晶では陽イオンと陰イオンが規則正しく配列しているが,これらの配列状態に対称中心がなく,かつ,対称軸と直交する鏡対称要素がない場合には,正電荷配置の重心と負電荷配置の重心とが一致しない。このため,結晶内に自発分極と呼ばれる電気分極が生ずる。したがって,この結晶を自発分極に垂直な面でこわすと,一面に正電荷が他面に負電荷が現れ,こわした直後では灰のような微粉末を吸着する。しかし,結晶が空気中に長らく放置された場合には,これらの電荷は空中に浮遊しているイオンにより中和されて検出されなくなる。結晶の温度を変えると,熱膨張により結晶が変形し,正電荷の重心と負電荷の重心との間隔が変わるため,自発分極の大きさが変わり,これが表面電荷の変化として観察される。
自発分極の向きが,外から加えられた電場により反転する結晶を強誘電体結晶と呼び,結晶内の自発分極が一方向にそろった状態を単一分域の状態という。この単一分域の強誘電体結晶の中には大きな焦電気を示すものがある。代表的な結晶として,硫酸グリシン(NH2CH2COOH)3H2SO4(略称TGS),チタン酸バリウムBaTiO3,ゲルマニウム酸鉛Pb5Ge3O11などがある。これらの結晶を薄板状に成形したものに赤外線をあてると,結晶の温度が上がり焦電気が発生する。したがって,赤外線をあてたり切ったりすると結晶の温度が上がったり下がったりするために交流的な焦電気信号が発生する。この信号の振幅は赤外線強度に比例するので,これを用いて赤外線の検出ができる。最近ではこの焦電気赤外線検出器を非常に小さくし,二次元的に配列して赤外線テレビカメラが作られている。
なお,圧電気結晶を不均一に熱すると熱的にひずみが生じ,このひずみと圧電気効果とにより〈みかけの焦電気〉が生ずることがあるが,これは焦電気とは区別されるべき現象である。
執筆者:小川 智哉
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…自発分極の値は一般に温度の関数であるから,極性結晶の温度を変化させると,自発分極の値の変化に応じて,結晶の両端に正,負の電荷が対になって現れる。この現象を焦電気効果という。極性結晶には,電場を加えたとき自発分極の向きが反転するものとしないものとがある。…
※「焦電気」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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