改訂新版 世界大百科事典 「昇進制度」の意味・わかりやすい解説
昇進制度 (しょうしんせいど)
企業などの組織体においては,所属員の活動の統合をはかり,あるいは内部の緊張対立を解消するために,明確な職位階層序列が維持されている。階層序列上のより高い職位に任命された者は,低い職位にある者に対し,より強い影響力すなわち権限を行使することが期待される。したがって,より高い職位には,その強い権限の行使にふさわしい能力・資質をもった人物を選任することが必要である。またこの高い職位への適材の任命機会が組織体のメンバーに公平に開かれており,任命が客観的基準にのっとったものであるならば,有能な意欲的な人材の昇進への強い動機づけが行われることとなる。このため昇進にあたっての人選の基準・方法を客観化し,公平性と納得性を目的とした昇進制度が確立される。
従来日本では昇進の基準としては,学歴,勤続年数などにウェイトがおかれてきた。少数の選ばれた者のみが高学歴者であった時代においては,高学歴者すなわち有能者であるという判定の基準も意味があったかもしれない。しかし高学歴化が進展した現在,この旧来の昇進基準(学歴主義,年功序列)は再考されつつある。新しい時代にふさわしい昇進基準として,能力主義が提唱されている。能力の評価のために最も広く用いられている方法は,人事評価システムであり,さらに昇進試験あるいはアセスメントを加味する例も多くなってきている。人事評価のためには,その客観性を期すために人事評価表を用意し,さらに1次・2次の評定者が評価結果を相互チェックすることが一般に行われている。また長期人材育成委員会などを設け,昇進の問題を長期的に公平・妥当な人材登用計画として進めようとする例が少なくない。昇進試験のためには,一般にペーパー・テスト形式が用いられるが,これは上記の方法の補助的機能にとどめるべきであろう。アセスメントは,模擬的状況を設定し,その状況下での各人の行動を観察し,管理職としての適性を判定する試みであるが,この評定結果も一つの補足資料として活用するのが一般的である。欧米の社会においては,日本と対比して,能力主義昇進の原則が貫かれているとされているが,しかしアメリカの大量生産工場などにおいては,産業別組合と経営との間において,厳密な先任権制度が確立されており,入社年次の古い者から昇進する慣行が守られている。この点,日本のほうが,より能力主義的昇進が行われているといってよいだろう。
なお,アメリカにおいて1964年公民権法の第7編として男女雇用平等法が制定され,採用・解雇・賃金面のみでなく,昇進についても男女差別の撤廃が追求されることになった。79年には国連において女子差別撤廃条約が成立し,日本も85年に批准,同年成立した男女雇用機会均等法は,日本の昇進制度に大きな変革をもたらすことが予想される。
執筆者:奥田 健二
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報