熱による環境の汚染。汚染といってもその現れは水汚染や大気汚染の場合とはかなり様相が異なり,環境(気温や水温)の温度上昇,気候の変化などの形をとる。人類の住む地球上の最後の環境汚染は熱汚染とまでいわれているが,それは,どのような形態のエネルギーであっても,それが消費されると最終的には必ず使用不可能な廃熱となって,これが環境中に放出されるからである。したがって,今日のエネルギー多消費型社会にあっては,地球上のすべてのところに熱汚染源があり,熱汚染された環境が続出しているということができる。
熱汚染をその原因によってあえて分類すれば次の三つがあげられよう。一つは,地表面の変革によって,閉ざされた系としての地球表面が太陽をはじめとした宇宙空間の系から受けるエネルギーと放出するエネルギーの収支が変化することに基づくものである。人類の生活空間が拡大し,自然の山野が開かれ海や河川が埋め立てられ,都市が発展してコンクリートやアスファルトで地表面がおおわれることによる気候の変化は,ヒートアイランドを出現させたり,蒸発散率を著しく変え,砂漠化現象や異常気象の原因をつくる。また,大気汚染物質,とくに炭酸ガスの増加は,地表面から大気中への放熱を妨げ,気温を上昇させることになる(温室効果)。都心部の密集住居群にあっては,風通しの悪さに加えてコンクリートやアスファルトなどの熱容量の大きな人工構築物が夜間の冷却を妨げ,熱が何日も累積した地表面では露点温度以上の日が続き,地中温度をも異常な高温状態にして地中の生物を死滅させる。またアマゾンや東南アジアでの熱帯樹林地域では,栽培農業の育成を急ぐあまりに多くの樹林を開墾したために水分の蒸発散量が減り,その結果として,地表面の異常高温化で農業生産がまったく不可能なところも出現している。
二つめは,工場生産や都市生活の消費エネルギーの増大に基づくものである。各種工場でのプロセス用エネルギーや自動車や航空機,船舶などの交通用エネルギー消費,冷暖房や給湯,厨房でのエネルギー消費などの増大は,最近の100年間に10~20倍に増大しており,この量が最終的には廃熱として周辺環境へ捨てられているわけである。とくに日本のように狭い国土で大量のエネルギーを消費する場合にはこの影響は顕著であり,火力発電所の温排水による漁業被害や冷却塔の水蒸気もやによる航空機障害,地下鉄のトンネル内温度上昇に伴う冷房装置の不可欠化などの実害が起き始めている。ちなみに,東京都の地下鉄では,人間,電車の電動機,照明,送風機などからの熱や地下水位の低下などのため,トンネル内温度が毎年0.3℃ずつ上昇している。また,建物の冷房も,結局は室内の熱を外へくみ出す装置の仕事当量だけ周辺空気を加熱することになる。
もう一つは火災や戦災による熱汚染で,第1次世界大戦では,産業革命以後のエネルギー消費量に匹敵する熱汚染があり,第2次大戦では,第1次大戦と第2次大戦間のエネルギー消費相当分のエネルギーが放熱されたと推定されている。今日の核兵器を含む兵器の熱エネルギー換算量は石油埋蔵量以上と予測され,この使われ方いかんで,最大の熱汚染が生ずる可能性もある。
執筆者:尾島 俊雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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