熱汚染(読み)ネツオセン(英語表記)thermal pollution

デジタル大辞泉 「熱汚染」の意味・読み・例文・類語

ねつ‐おせん〔‐ヲセン〕【熱汚染】

石炭・石油の消費の増大や原子力発電などに伴って発生する熱エネルギーが、大気中や海水中に放出され、気温や海水温を上昇させる現象。

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精選版 日本国語大辞典 「熱汚染」の意味・読み・例文・類語

ねつ‐おせん‥ヲセン【熱汚染】

  1. 〘 名詞 〙 工業用の冷却用水などが昇温して大量に河川や海域に投棄された場合に、魚介類に重大な被害を及ぼす水質の汚染。温排水公害。

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改訂新版 世界大百科事典 「熱汚染」の意味・わかりやすい解説

熱汚染 (ねつおせん)
thermal pollution

熱による環境の汚染。汚染といってもその現れは水汚染や大気汚染の場合とはかなり様相が異なり,環境(気温や水温)の温度上昇,気候の変化などの形をとる。人類の住む地球上の最後の環境汚染は熱汚染とまでいわれているが,それは,どのような形態のエネルギーであっても,それが消費されると最終的には必ず使用不可能な廃熱となって,これが環境中に放出されるからである。したがって,今日のエネルギー多消費型社会にあっては,地球上のすべてのところに熱汚染源があり,熱汚染された環境が続出しているということができる。

 熱汚染をその原因によってあえて分類すれば次の三つがあげられよう。一つは,地表面の変革によって,閉ざされた系としての地球表面が太陽をはじめとした宇宙空間の系から受けるエネルギーと放出するエネルギーの収支が変化することに基づくものである。人類の生活空間が拡大し,自然の山野が開かれ海や河川が埋め立てられ,都市が発展してコンクリートアスファルトで地表面がおおわれることによる気候の変化は,ヒートアイランドを出現させたり,蒸発散率を著しく変え,砂漠化現象や異常気象の原因をつくる。また,大気汚染物質,とくに炭酸ガスの増加は,地表面から大気中への放熱を妨げ,気温を上昇させることになる(温室効果)。都心部の密集住居群にあっては,風通しの悪さに加えてコンクリートやアスファルトなどの熱容量の大きな人工構築物が夜間の冷却を妨げ,熱が何日も累積した地表面では露点温度以上の日が続き,地中温度をも異常な高温状態にして地中の生物を死滅させる。またアマゾンや東南アジアでの熱帯樹林地域では,栽培農業の育成を急ぐあまりに多くの樹林を開墾したために水分の蒸発散量減り,その結果として,地表面の異常高温化で農業生産がまったく不可能なところも出現している。

 二つめは,工場生産や都市生活の消費エネルギーの増大に基づくものである。各種工場でのプロセス用エネルギーや自動車や航空機,船舶などの交通用エネルギー消費,冷暖房給湯厨房でのエネルギー消費などの増大は,最近の100年間に10~20倍に増大しており,この量が最終的には廃熱として周辺環境へ捨てられているわけである。とくに日本のように狭い国土で大量のエネルギーを消費する場合にはこの影響は顕著であり,火力発電所の温排水による漁業被害や冷却塔の水蒸気もやによる航空機障害,地下鉄のトンネル内温度上昇に伴う冷房装置の不可欠化などの実害が起き始めている。ちなみに,東京都の地下鉄では,人間,電車の電動機,照明,送風機などからの熱や地下水位の低下などのため,トンネル内温度が毎年0.3℃ずつ上昇している。また,建物の冷房も,結局は室内の熱を外へくみ出す装置の仕事当量だけ周辺空気を加熱することになる。

 もう一つは火災や戦災による熱汚染で,第1次世界大戦では,産業革命以後のエネルギー消費量に匹敵する熱汚染があり,第2次大戦では,第1次大戦と第2次大戦間のエネルギー消費相当分のエネルギーが放熱されたと推定されている。今日の核兵器を含む兵器の熱エネルギー換算量は石油埋蔵量以上と予測され,この使われ方いかんで,最大の熱汚染が生ずる可能性もある。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「熱汚染」の意味・わかりやすい解説

熱汚染
ねつおせん
thermal pollution

冷却,蒸留,処理水などの高温排水による環境被害。火力発電所の冷却水などは平均 7.2℃以上温度が上昇されて排出され,排出口から数 kmの広さにわたり3℃以上も海水の温度を上げるといわれる。このため海の環境を変化させ,魚介類の成育に影響を与え,特定の生物を異常増殖させることがある。高温排水に対しては水質汚濁防止法で,生活環境にかかわる規制項目としているが,具体的な基準はまだない。熱汚染は大気中への排熱によっても引起され,都市そのものが一種のヒート・アイランド化していることがわかっている。暖冷房,自動車走行など膨大なエネルギー使用により発生する排熱量が,1km2あたり数十~数百ワットとの報告もあり,一方,大気汚染物質や樹木の不足などが冷却を妨げて,都市内部が郊外に比較して3℃ほども気温が上昇しているとされる。

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