日本大百科全書(ニッポニカ) 「ヒートアイランド」の意味・わかりやすい解説
ヒートアイランド
ひーとあいらんど
heat island
都市の中で発生する人工排熱や地表面の人工化で加熱された大気が、都市域をドーム状に覆っている状態で、都市気候の典型例。ヒートアイランド現象ともいう。ヒートアイランドは熱の島という意味で、この用語は第二次世界大戦後、都市気候の研究が進むなかで定着した。地上の気温分布が、都心から市街地周辺に向かって低温になるため、等温線の形が島の地形図の等高線に似ていることによる。都市域の上空では郊外よりも気圧が低くなるため、静穏なときには、地上では、市外から都心に向かって弱い風が吹く。上空では逆方向の風が吹き、都心から市外に向けてごく弱い風が吹いている。これらの風は一つの循環流をつくるが、これをヒートアイランド循環という。本来、都心部と郊外の気温差が大きくなるヒートアイランド現象は、風の弱い秋から冬の晴天の夜間にもっとも顕著に現れるが、1990年代以降、とくに日本では夏季の日中における猛暑や夜間における熱帯夜の増加による都市の高温化現象をさしてヒートアイランドとよぶことが多い。
ヒートアイランドの形成要因は、二つに大別される。一つは、都市に人口が集中し大量のエネルギーが消費される結果生ずる人工排熱の増加である。とくに、都心のオフィスビル街や商工業地区から排出される大量の熱に加えて、幹線道路を走行する自動車からの排気熱が重なるため、都市部の大気は郊外に比べて加熱されやすく、気温上昇の大きな要因となっている。二つ目の要因は、都市の表面構造の人工化による熱収支の変化である。コンクリートの建造物やアスファルト舗装道路で覆われた都市の地表面は、森林・草地や田畑・裸地が主体の郊外田園地帯とは、熱や放射の特性が大きく異なる。たとえば、コンクリートやアスファルトは夏季日中に日射エネルギーを吸収してその表面温度はしばしば50℃を超える。夏の炎天下で暑く感じるのは、日射に加えて高温のコンクリート面からの放射熱が加わるためである。さらに、夜間になってもそれらの表面温度は気温よりも高いため周囲の大気を加熱し続ける。これに前述の人工排熱が加わり、都市部では夜間の気温低下が大幅に抑制される。これが熱帯夜を増加させるおもな要因である。
[三上岳彦 2015年10月20日]
『尾島俊雄著『ヒートアイランド』(2002・東洋経済新報社)』▽『森山正和編『ヒートアイランドの対策と技術』(2004・学芸出版社)』▽『三上岳彦著『都市型集中豪雨はなぜ起こる?――台風でも前線でもない大雨の正体』(2008・技術評論社)』▽『甲斐憲次編著『二つの温暖化――地球温暖化とヒートアイランド』(2012・成山堂書店)』▽『藤部文昭著『都市の気候変動と異常気象――猛暑と大雨をめぐって』(2012・朝倉書店)』