中国で古代から存在する仲買業者の総称。行は今日の商社に当たる。一般に商人を伝統的に3区分して,商(客商=貿易・外地出稼ぎ商),賈(こ)(坐賈・坐鋪(ざほ)=店舗を構える卸・小卸・小売商)と牙行に分けるが,この際,客商と坐賈の取引を周旋するのが牙行の役割である。具体的な流通過程では,貿易業者は各地の卸売市場を訪れて荷卸・集荷をするが,各卸売市場は,卸(批発)と小卸(批発,零売)に分かれ,それぞれ牙行を兼営するか,あるいは専業化した牙行を介在させた。牙行はこの意味で卸売市場の不可欠の要素である。
戦国から唐まで,牙行は牙儈(がかい),駔儈(そかい)といった。牙は互(相互),儈は会(会合)の意味といわれ,売買需給の周旋と価格決定の機能を表しており,商人の原初形態とみられる。西晋以来,重要不動産の売買を公に保証するため,官庁の指定する牙儈を介して公定の契約を作り,契約税を徴するようになり,当時の取引は県の市で行うよう統制されていたので,徴税上また大口取引上で牙儈が重視された。六朝末から隋・唐に国内商業が広がると,旅館・倉庫・荷卸・集荷の機能を果たす邸店が牙行を兼業しつつ発達し,一方,大都市では専業分化した各種・各層の牙行が現れた。
商業革命期の宋代には,大中小都市や半都市(鎮),村市に張りめぐらされた商業網の中で,牙行は商品や官庁用度品,交通手段や用役・雇用の需給調節,契約と契約税の運用,長期・短期の金融,価格決定の重要機能を果たし,都市・農村,中央・地方,国内・国外商業のリンクで不可欠の存在となった。この間,大口の銀行業,倉庫業は独立したが,仲買と倉庫を兼ねる客桟(きやくさん)ほか,穀物店=粮店(りようてん),百貨店=貨店などが仲買卸商として存続し,傘下に個別の牙行を抱えた。宋代以後,牙行を鑑札制で統制し,牙契税を徴する制度ができると,牙帖という特許証が明・清で発行され,私牙と区別された。広東の公行も互市場に発達した牙行の一形態とみられる。
→行
執筆者:斯波 義信
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
中国で商取引を仲介する仲買業者。流通組織では、貿易商つまり客商(きゃくしょう)と、土着の各種商店つまり坐賈(ざこ)と並び、三大組織要素の一つ。客商は資本力をもちながら、各地方の卸売市場の商況に疎く、卸売市場の側では外来の客商への信用授受、価格設定のため牙行を必要とした。加えて市場は政府に監督され、契約の合法化や納税のため牙行の介入が必須(ひっす)であった。戦国、漢のころは駔儈(そかい)とか駔とよび、漢が全国に「市(し)」の制を敷き、西晋(せいしん)が重要不動産や動産の取引に公許の契約と納税を義務づけたため、制度上でも重視された。商業革命期の宋(そう)から旧社会全盛の明(みん)、清(しん)にかけ、市場が複雑な分化を遂げたなかで、牙人(がじん)、牙行の名が一般化し、鑑札(牙帖(がちょう))を受けた特許仲買商に成長し、分化も進み、ギルドも編成された。
清代の公行(こうこう)もその一種であるが、牙行には行家(こうか)、客桟(きゃくさん)など、問屋、旅館、倉庫、運輸を兼業する者も多く、こうした分化の根源は唐の邸店(ていてん)、宋の房廊(ぼうろう)、停榻(ていとう)にさかのぼれる。
[斯波義信]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
牙儈(がかい),牙人(がじん)ともいう。中国の仲買業者,またそのギルド。五代,宋,明,清に発達した。牙行は店舗を構え,牙帖(がちょう)(特許状)を政府より与えられ,商取引の斡旋および代客買売,納税手続き,倉庫業,金融業を行った。
出典 山川出版社「山川 世界史小辞典 改訂新版」山川 世界史小辞典 改訂新版について 情報
出典 旺文社世界史事典 三訂版旺文社世界史事典 三訂版について 情報
…三国時代以後には商業が衰えたので商人は自己を主張することができず,南北朝を通じてこの傾向は続いたが,隋唐から宋代にかけて勢力をもりかえし,明清時代には大商人が輩出した。 中国の商人は客商,坐賈(ざこ),牙行(がこう)の3種に大別される。客商は物資を生産地から消費地に販運する商人で,大商人が多く,数十の舟車をつらね,多数の従業員を使って全国的な規模で活動した。…
※「牙行」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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