デジタル大辞泉
「行」の意味・読み・例文・類語
ぎょう〔ギヤウ〕【行】
[名]
1 文字などの、縦または横の並び。くだり。「行を改める」「か行う段」
2 仏語。
㋐《〈梵〉saṃskāraの訳》十二因縁の一。過去に身・口・意の三業によってなした善悪すべての行い。
㋑《〈梵〉saṃskṛtaの訳》因縁によって作られた、一切の無常な存在。
㋒《〈梵〉carita, caryāの訳》僧や修験者の修行。
㋓《〈梵〉gamanaの訳》住・座・臥とともに四儀の一。歩くこと。
3 哲学で、行為。実践。
4 数学で、行列または行列式で横の並び。
5 表計算ソフトやリレーショナルデータベースにおける、横一列のデータの単位。複数のデータの組み合わせをひとまとめにしたもの。ロー。⇔列。
6 「行書」の略。「楷、行、草」
7 律令制で、位官を連ねて書く際、位階が高く官職が低いときに位官の間に置いた語。⇔守。
「正三位兼―左近衛大将」〈宇津保・内侍督〉
[接尾]助数詞。文字などの縦または横の並びの数をかぞえるのに用いる。「16行目」
くだり【▽行】
《「下り」と同語源》
[名]
1 着物の縦のすじ。
「袂の―まよひ来にけり」〈万・三四五三〉
2 上から下までの一列。文章などの行。
「―のほど、端ざまに筋かひて」〈源・常夏〉
[接尾]助数詞。文章の行を数えるのに用いる。「三行半」
こう〔カウ〕【行】
[名]
1 どこかへ行くこと。旅。「行をともにする」「千里の行も一歩より起こる」
2 人のすること。おこない。ふるまい。行動。
3 楽府の一体。もとは楽曲の意。唐代以降は、長編の叙事詩的なものが多い。「琵琶行」
4 中国の隋・唐時代、営業を許された同種の商店が集中している区域。
5 中国で、唐・宋以後発達した業種別の商人組合。西洋のギルドに類似。
[接尾]旅に行くことの意を表す。「単独行」「逃避行」
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ぎょうギャウ【行】
- [ 1 ] 〘 名詞 〙
- ① 仏語。
- (イ) ( [梵語] saṃskāra の訳語。造作(ぞうさ)の意 ) 十二因縁の一つで、善悪のいっさいの行為をいう。転じて、いっさいの移り変わる存在の意にも用いる。
- [初出の実例]「煩悩生因縁者謂不正思惟。以レ此為二其因一無明為レ縁。無明為レ因行為レ縁。行為レ因識為レ縁」(出典:秘蔵宝鑰(830頃)中)
- (ロ) ( [梵語] carita の訳語。行為、実践の意 ) 悟りに到達するための修行。
- [初出の実例]「但就二第四嘆徳一開為レ四。第一正嘆徳。第二従二供養無量一以下嘆レ行。第三従二以慈修身一以下嘆レ体。第四従二名称普聞一以下嘆レ名」(出典:法華義疏(7C前)一)
- 「那智ごもりせんとしけるが、行の心みに、きこゆる滝にしばらくうたれてみんとて」(出典:平家物語(13C前)五)
- (ハ) ( [梵語] gamana の訳語 ) 住、坐、臥と共に四威儀の一つで、歩くこと。〔観経疏‐散善義〕
- ② 令制で官位を称する際、官職と位階が相当せず、位階が官職より高すぎる場合、位階と官職名の間に挿入する語。→守(しゅ)。
- [初出の実例]「凡任二内外文武官一而本位有二高下一者。若事卑為レ行。高為レ守」(出典:令義解(718)選叙)
- ③ ながくつらなること。並び。列。行列。
- [初出の実例]「一行の鴈、田に下りんとして、にはかにおどろき、行をみだして飛び去るを見たり」(出典:尋常小学読本(1887)〈文部省〉四)
- ④ 文字の縦または横の並び。くだり。〔色葉字類抄(1177‐81)〕
- ⑤ 哲学で、行為、実践をいう。⇔知。
- ⑥ 雅楽の楽器、笙(しょう)の管名。また、その管の出す音名で、高いイ音。さらに、この音を根音とした五つの音で構成された一つの和音の名をもいう。
- ⑦ 雅楽の琵琶で、第三弦の放弦音。楽譜では「行」の扁の略記である「ク」を書く。
- ⑧ 「ぎょうしょ(行書)」の略。
- [初出の実例]「真の筆は立つべき也。行の筆はひらむべき也」(出典:才葉抄(1177))
- ⑨ 数学で、行列または行列式の横の並びをいう。
- ⑩ ( 行書のように柔らかみがあるところからいう ) 神伝流泳法の一つ。
- [ 2 ] 〘 接尾語 〙 文字などの縦または横の並びの数を数えるのに用いる。
- [初出の実例]「歌を書く様。二行ならば五七五 一行 七七 一行 三行ならば五七 一行 五七 一行 七 一行」(出典:夜鶴庭訓抄(懐中抄)(1170頃))
こうカウ【行】
- [ 1 ] 〘 名詞 〙
- ① 行くこと。出かけること。旅。旅ゆくみち。たびだち。
- [初出の実例]「千里のかうは、一歩よりはじまる、といふ老子のをしへも」(出典:曾我物語(南北朝頃)四)
- 「暗夜途に迷て殆んど行(カウ)を失し」(出典:花柳春話(1878‐79)〈織田純一郎訳〉一)
- [その他の文献]〔孟子‐公孫丑・下〕
- ② 昔の中国における楽曲の名称。また、その歌詞である楽府(がふ)の題名に用いられ、のち詩題に多く用いられた。「短歌行」「琵琶行」など。〔文体明弁‐楽府〕
- ③ つらなること。また、そのもの。特に、文字などの縦または横のならび。連(つら)。列(れつ)。くだり。〔温故知新書(1484)〕
- [初出の実例]「其なりは、旅雁の飛をくれて、行をなさずして、独り雲路に迷に似たそ」(出典:中華若木詩抄(1520頃)中)
- [その他の文献]〔春秋左伝‐隠公一一年〕
- ④ おこない。ふるまい。行動。行為。
- [初出の実例]「元来仁者の行を借って、世の譏(そし)りを憚(はばか)る人也ければ」(出典:太平記(14C後)三〇)
- ⑤ 中国、隋・唐時代、都市内の商業区域に業種ごとに集められた同業商店のならびをいう。「銀行」「薬行」などと使う。
- ⑥ 中国、宋以後、都市の商人の同業組合。狭義に「牙行(がこう)」、すなわち仲買商をさすこともある。
- ⑦ 位と官とを併せ示すとき、官名に冠して、位が高く、官の低いことを表わす。ぎょう。
- [初出の実例]「従五位下、行(カウ)対馬嶋守」(出典:読本・椿説弓張月(1807‐11)残)
- ⑧ 「ぎんこう(銀行)」の略。〔最新百科社会語辞典(1932)〕
- [ 2 ] 〘 接尾語 〙
- ① 文字や列などのつらなりを数えるのに用いる。ごう。
- [初出の実例]「ふみの一かう二かう如何。カウは行也」(出典:名語記(1275)四)
- ② 銀行の数を数えるのに用いる。
- [初出の実例]「短期では富士銀行、第一勧銀、三和銀行の三行が主力で」(出典:法人資本主義の構造(1975)〈奥村宏〉三)
おこないおこなひ【行】
- 〘 名詞 〙 ( 動詞「おこなう(行)」の連用形の名詞化 )
- ① おこなうこと。行動。ふるまい。
- [初出の実例]「我が夫子(せこ)が 来べき宵なり ささがねの 蜘蛛(くも)の於虚奈比(オコナヒ)今宵著(しるし)も」(出典:日本書紀(720)允恭八年二月・歌謡)
- ② 仏道修行。勤行(ごんぎょう)。
- [初出の実例]「吉野に之(まか)りて、脩行(オコナヒ)せむ、と請したまふ」(出典:日本書紀(720)天智一〇年一〇月(北野本訓))
- ③ 特に、年頭の仏事勤行(修正月)。
- [初出の実例]「などいふほどに、おこなひのほどもすぎぬ」(出典:蜻蛉日記(974頃)下)
- ④ 神事をつとめること。
- [初出の実例]「あしたの御おこなひ、夕の御笛の音」(出典:讚岐典侍(1108頃)上)
- ⑤ 年頭または春先に行なわれる祈祷行事。近畿地方を中心にいう。もと農事祈願の神事であったが、仏教の感化を受けて修正会(しゅしょうえ)や修二会(しゅにえ)の行法に似たものがおこなわれている。寺や堂、または村人が当屋(とうや)組織でおこなう。
- ⑥ 道徳的な見地から見た人の行状。身持ち。品行。〔日葡辞書(1603‐04)〕
- [初出の実例]「表面(うはべ)の虚飾もなく行状(オコナヒ)正しきをこそ文明とも開化とも云へる事でござる」(出典:開化のはなし(1879)〈辻弘想〉上)
ごうガウ【行】
- [ 1 ] 〘 名詞 〙 縫い合わせて袈裟を作る細長い布。
- [初出の実例]「沙彌の袈裟わ、がうも条もないぞ」(出典:玉塵抄(1563)一六)
- [ 2 ] 〘 接尾語 〙 =こう(行)[ 二 ]
- [初出の実例]「チュウモン ノ ラウ ニ nigǒ(ニガウ) ニ チャクザ セラレタ」(出典:天草本平家(1592)一)
いき【行】
- 〘 名詞 〙 ( 動詞「いく(行)」の連用形の名詞化 )
- ① 行くこと。また、出て行く時。行く途中の道。
- [初出の実例]「いきに騒でへこたれる野かけ道」(出典:雑俳・川傍柳(1780‐83)五)
- ② 行く先。
- [初出の実例]「衒(かたら)れた金のいきは、詮義しぬいて御損はかけぬ」(出典:浄瑠璃・夏祭浪花鑑(1745)四)
ゆこ【行】
- 動詞「ゆく(行)」の連体形に当たる上代東国方言。
- [初出の実例]「崩岸辺(あずへ)から駒の由胡(ユコ)のす危(あや)はども人妻児ろを目(ま)ゆかせらふも」(出典:万葉集(8C後)一四・三五四一)
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普及版 字通
「行」の読み・字形・画数・意味
行
常用漢字 6画
[字音] コウ(カウ)・ギョウ(ギャウ)・アン
[字訓] ゆく・おこなう・みち
[説文解字]
[甲骨文]
[金文]
[字形] 象形
十字路の形。交叉する道をいう。〔説文〕二下に「人の趨なり」とあり、字を彳(てき)、(ちょく)の合文とするものであるが、卜文・金文の字形は十字路の形に作る。金文に先行・行道のように用いる。呪力は道路で行うことによって、他の地に機能すると考えられ、(術)・衒など呪術に関する字に、行に従うものが多い。
[訓義]
1. みち。
2. ゆく、やる、ゆくゆく。
3. おこなう、なす、もちいる。
4. たび、みちのり。
5. めぐる、ならぶ、つら、れつ。
6. まさに、まず、はじめる、なんなんとす。
7. 軍行の列、みせのならび、ところ、あたり。
8. うたの一章をうたう、歌行。
[古辞書の訓]
〔名義抄〕行 ユク・ヤル・イデマシ・アリク・アルク・サル・ニグ・イネ・サケツ・ミユキ・ミチ・フム・メグル・ツラヌ・オコナフ・ワザ・シワザ・オキツ・ナムナムトス・ツトム・タビ・アヤマル・ハナツ・ツタフ・マタ・ナガル・ナガリタル・ナケク・ヒク・サイキル・コレ・カタチ・モチイル・テダテ・ウツクシフスルコト・マツリゴト・ココロテタツ 〔字鏡集〕行 サケク・サヒキル・アリク・イデマシ・マタ・ミル・ユク・ミユキ・ナゲク・ヒク・アユム・ミチ・ツツム・ハナツ・クダル・メグル・シワザ・タマタマ・ヤル・イタル・トドム・ニグ・モチヒル・ウゴク・イネ・ヲツ・オコナフ・ツラヌ・ツタフ・オキツ・テダツ・マツリゴト・カタチ・ツトム・ナムナムトス・タビ・ナガル・フム・ワザ・スルコト・アヤマル・サル
[部首]
〔説文〕に・(衒)など十一字、〔玉〕に二十字を属する。は呪霊のある獣の形である朮(じゆつ)に従い、また(衒)の言・玄は呪儀として祝詞や呪飾を用いることを示す。部の(述)・(遂)もと声義が近い。部・彳部に、そのような道路の呪儀を示す字が多い。
[声系]
〔説文〕に行声として・衡など四字を収める。
[語系]
行・衡・heangは同声。衡の魚形の部分は服牛の形で、角の後ろに牛体を加え、衡木の意とする。は佩玉の両系に垂れる形をいう。
[熟語]
行脚▶・行宮▶・行在▶・行灯▶・行内▶・行款▶・行住▶・行商▶・行状▶・行政▶・行迹▶・行鉢▶・行衣▶・行囲▶・行為▶・行移▶・行意▶・行雨▶・行雲▶・行営▶・行役▶・行遠▶・行押▶・行瘟▶・行家▶・行貨▶・行歌▶・行介▶・行▶・行▶・行客▶・行学▶・行還▶・行簡▶・行期▶・行棋▶・行器▶・行誼▶・行義▶・行乞▶・行▶・行休▶・行業▶・行吟▶・行駆▶・行具▶・行軍▶・行芸▶・行潔▶・行検▶・行健▶・行険▶・行遣▶・行権▶・行戸▶・行賈▶・行鼓▶・行伍▶・行坐▶・行察▶・行桟▶・行止▶・行子▶・行尸▶・行肆▶・行事▶・行疾▶・行実▶・行者▶・行爵▶・行主▶・行酒▶・行樹▶・行舟▶・行酬▶・行述▶・行処▶・行所▶・行女▶・行勝▶・行障▶・行賞▶・行觴▶・行色▶・行食▶・行神▶・行進▶・行斟▶・行鍼▶・行人▶・行刃▶・行尽▶・行陣▶・行塵▶・行成▶・行清▶・行跡▶・行銭▶・行前▶・行善▶・行装▶・行僧▶・行蔵▶・行隊▶・行態▶・行第▶・行台▶・行中▶・行廚▶・行朝▶・行程▶・行綴▶・行店▶・行纏▶・行殿▶・行都▶・行塗▶・行▶・行当▶・行唐▶・行▶・行頭▶・行動▶・行童▶・行道▶・行▶・行徳▶・行遯▶・行年▶・行能▶・行▶・行馬▶・行輩▶・行枚▶・行媒▶・行販▶・行伴▶・行盤▶・行痺▶・行筆▶・行剽▶・行文▶・行聘▶・行歩▶・行舗▶・行暮▶・行▶・行迷▶・行夜▶・行遊▶・行游▶・行余▶・行用▶・行来▶・行李▶・行吏▶・行理▶・行履▶・行侶▶・行旅▶・行猟▶・行糧▶・行令▶・行列▶・行路▶・行炉▶・行賂▶・行露▶・行老▶・行廊▶・行楼▶・行漏▶・行潦▶・行論▶
[下接語]
悪行・安行・按行・移行・一行・印行・行・陰行・隠行・運行・雲行・遠行・行・往行・横行・過行・改行・偕行・蟹行・学行・刊行・貫行・寒行・敢行・慣行・緩行・雁行・願行・奇行・紀行・器行・疑行・蟻行・逆行・旧行・急行・躬行・挙行・虚行・凶行・行・強行・暁行・極行・勤行・吟行・銀行・苦行・径行・携行・血行・決行・兼行・言行・現行・孤行・鼓行・五行・公行・孝行・航行・興行・歳行・山行・至行・志行・私行・施行・執行・膝行・実行・舟行・修行・醜行・獣行・巡行・循行・順行・馴行・遵行・所行・諸行・徐行・神行・進行・水行・遂行・随行・趨行・性行・盛行・拙行・摂行・先行・専行・潜行・前行・善行・素行・行・壮行・走行・操行・即行・続行・他行・蛇行・大行・退行・代行・単行・断行・知行・直行・通行・天行・同行・徳行・篤行・独行・難行・爬行・跛行・輩行・発行・犯行・板行・版行・頒行・蛮行・輓行・非行・飛行・行・尾行・微行・百行・品行・平行・並行・併行・偏行・勉行・歩行・輔行・奉行・暴行・密行・夜行・遊行・予行・洋行・乱行・履行・力行・陸行・流行・旅行・励行・行・連行
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行 (こう)
háng
中国で商人組合をさし,また商店,商社名をも意味する語。最近では商店名は記とか号とか呼ぶ方が多い。起源は,戦国期の市で,同業商店が集まったものを列とか肆(し)とか廛(てん)とか称したのに始まるという。列・肆が集合する慣行は,秦・漢時代に先秦の市を県に再編,整理したときにもひきつがれ,各県城の一郭に官設の市を設け,商人を市籍に登記して市租を徴するかたわら,市の町並みを整えて同業商工業者を業種別に配列した。市庁の市吏はこうして商工業者を掌握し,官物の用度調達や市価の報告の便をうけ,一方商工業者は営業の保全,競合の排除と営業独占,相互扶助の実をとったのである。この統制は隋・唐まで続いたが,その間に国内商業が発展して商工業が分化をとげ,かつての列や肆は行とか市(し)と呼ばれるようになり,長安の東西の市では金行,銀行,絹行,薬行など220行があった。また各行に行老・行頭がいて行人,行戸を統率した。
唐末から宋代に起こった商業革命によって,こうした市の統制や行の性格は大いに変わった。両税法の施行と前後して,商工活動を県城レベル以上の,都市の一郭に限定して統制する原則がくずれ,都市内や近郊での営業の場所・時間が自由になったばかりか,農村におびただしく発生した半都市(鎮)や村市でも商工活動は活発になった。新興の商工業者は相互の競争を調整し,価格や品質を規制し,対官折衝や相互扶助に便をはかるため,業種別に集居し,共同の祭神を祭りつつ行(商店)や作(手工業者)と呼ばれる商工組合をつくった。両税法の下で,実質的な都市税に当たる科配(臨時の徴発),雑買(官庁用度の買上げ),行役(行の徭役)が課されると,中級以上の行は政府に登録されて当行(とうこう)ないし行戸祗応(こうこしおう)と呼ばれる御用達の対象となり,その代りに営業独占の特権を認められた。こうして自治力をつけた行は,政府の無差別な徴発に対して改革を要求し,王安石は免行役銭をはじめて,小商人も行に加入させる代りに,資産に応じて免行銭を納めさせ,用度の調達は政府の手で行うことにした。
行の運営は行頭・会首と呼ばれる役員が寡占し,対官折衝,営業独占,価格・規格の統制,祭祀,相互扶助,下級の裁判,自衛,福祉を執行した。明・清時代に商業が最盛期を迎えると,行の構成にも階層の分化が生じ,大中都市ではその地方の商圏をおさえる粮店(りようてん),貨店,当鋪(金融業),銭荘(銀行業)などの大行が,業種や出身地別の絆をこえて団結し,ギルドマーチャントをつくり,傘下に業種別,出身地別の行を収め,その下に平職人ギルド,種族別ギルド,さらに街路単位の友誼団体や宗教結社を包み込んだ。宋代にみられるような政府御用達の側面は,塩,銅,貿易において発展したが,一般の行はむしろ表面は宗教団体をよそおい,あるいは出身地別の農・商・官吏の友誼団体である会館・公所を拠点として実力を養い,自治色を一層強めた。
→ギルド →商人ギルド
執筆者:斯波 義信
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行
こう
中国で商人ギルド、また商店の業種をさす。日本の銀行という語はこれに由来する。中国ではすでに戦国(前403~前221)のころ、各地の市場地で肆(し)、次(じ)、行列(こうれつ)などの名で同業商店が軒を並べる習慣が生じた。秦(しん)・漢から唐まで国の商業統制の強い時期に、都市に置かれた市(し)で、こうした習慣をもとに魚行、肉行、衣行、金銀行などが配列され、行老、行首が選ばれ、成員の行戸(こうこ)、行人(こうじん)を統率する組織があった。唐・宋(そう)の変革期に国の統制が緩むと、自律性と競合性を増した行は、実質的にギルドに転生し、価格統制、品質管理、徒弟店員の規律、対官折衝、福祉、祭神などの活動を多彩に行うようになった。宋代では行役(こうえき)という官庁用度の納入が有力な行に課されていたが、明(みん)・清(しん)時代になると、辺地の大商業都市では少数の有力な行がギルド・マーチャントをつくり、防衛を含む市政を牛耳(ぎゅうじ)るようになった。広東(カントン)の公行(こうこう)、張家口の保正行(ほせいこう)、台南の三郊(さんこう)、湖南の十館首士、重慶の八省会館などである。
[斯波義信]
『加藤繁著『唐宋時代の商人組合「行」を論じて清代の会館に及ぶ』(『支那経済史考証 上』所収・東洋文庫)』
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行
こう
hang
中国の商人組織。漢以来,都市の商業区域である市には,同業商店ごとの並び (列,肆) があり,この同業者の並びおよび仲間組織を唐代に行と呼んだ。行頭,行老が一般の行戸,行人を代表,管理する。行は長安で 220行,洛陽で 120行あったと伝えられる。宋代に入ると市の制度がくずれ,営業場所は自由となったが,行は同業組合的機能を強くして存続,官の必要とする物資の調達まで引受けるようになった。行が同業商人のギルド組織であったのに対し,手工業者もこれにならって同職ギルドを組織するようになり,これを作といった。近世になると仲買,問屋 (→牙行 ) のことを行と呼ぶのが一般化し,免許料 (牙税) を納官して官許の牙帖を給された商人とそのグループが行になった。有力な行組織はギルドとみてよく,広東貿易の特別御用商人団「公行」もその一種。
行
ぎょう
仏教用語。 (1) サンスクリット語 saṃskāraの訳。過去の行為の結果と,新たな状態を条件づける経験。特に十二因縁の第2にあたると解されることもある。また五蘊の第4にあたる。行蘊 (ぎょううん) に同じ。また「 (諸) 条件」または「条件づけられた (存在の) 状態」の意から,すべての,つくり上げられた存在を意味する。 (2) サンスクリット語 caryāの訳。身体的,あるいは言葉による,あるいは心理的な行為をいう。また,特に求道者である菩薩の行為 (あるいは修行) をも意味する。 (3) 浄土真宗では,阿弥陀仏の救済を信じて,念仏することをいう。
行
ぎょう
「こう」ともいう。律令制上,令 (りょう) には官位相当の定めがあるが,官位が相当しない人の位署書きの場合,位が高すぎるとき,位と官の間に加える字。官位相当の場合は,「大納言正三位」などと書くが,位が高い場合には,たとえば「従二位行大納言」というように書いた。
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
行(こう)
①中国では古来法制的に,都市内の商業を商業区域(市)に限定して許し,時間,場所,営業を統制(市制)したため,市内部は同業商店別に区画され,この同業商店町を行と呼んだ。
②唐宋以降,市制が崩れると,都市内に散在する商人は,営業独占と互助の目的で商人組合を結成し,これを行と呼んだ。以後,行は商業の業種別に分化発達した。清の公行(こうこう)は一種の特許商人ギルドである。
出典 山川出版社「山川 世界史小辞典 改訂新版」山川 世界史小辞典 改訂新版について 情報
行【こう】
中国において隋唐以前,都市内での商業区域を同業商店ごとに区画した。その区画を〈行〉といい,薬行,酒行などと呼んだ。唐末以降は商業に対する国家の規制が崩壊するに及び,新たに商人たちが結成したギルド的な自主的組合をいう。これに対し手工業者組合を〈工〉または〈作〉といった。
→関連項目ギルド
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
行
こう
中国の同業者組合
中国の都市では,秦・漢代から同業商店が集まって肆 (し) ・列などと呼ばれたが,隋・唐では商業地域を市と呼んだ。市は職種別の同業組合であるいくつかの行で構成され,長安には肉行・鉄行など220行があった。宋代には市制がくずれ,行はギルド的同業組合として広汎に発展した。なお清代には幇 (ぱん) と呼ばれた。
出典 旺文社世界史事典 三訂版旺文社世界史事典 三訂版について 情報
行
ワープロソフトや表計算ソフトにおける、ページ上の横方向の並び。
出典 ASCII.jpデジタル用語辞典ASCII.jpデジタル用語辞典について 情報
世界大百科事典(旧版)内の行の言及
【官位】より
…しかし,それは厳密な官位相当制ではありえない。その成立の端緒は天武朝であり,689年(持統3)施行の飛鳥浄御原令(きよみはらりよう)では,一定幅の冠位群と一定数の官職群との対応関係が規定されていたと推測できる。つづく701年(大宝1)の大宝律令で,厳密な意味での官位相当制が確立し,養老令に引き継がれた。…
【五蘊】より
…サンスクリットでは,パンチャ・スカンダpañca‐skandhaという。生命的存在である〈有情(うじよう)〉を構成する五つの要素すなわち,色(しき),受(じゆ),想(そう),行(ぎよう),識(しき)の五つをいう。このうち[色](ルーパrūpa)には,肉体を構成する五つの感覚器官(五根)と,それら感覚器官の五つの対象(五境)と,および行為の潜在的な残気(無表色(むひようしき))とが含まれる。…
【仏教】より
…現在,(1)スリランカ,タイなどの東南アジア諸国,(2)中国,朝鮮,日本などの東アジア諸国,(3)チベット,モンゴルなどの内陸アジア諸地域,などを中心に約5億人の教徒を有するほか,アメリカやヨーロッパにも教徒や思想的共鳴者を得つつある。(1)は前3世紀に伝道されたスリランカを中心に広まった南伝仏教([南方仏教])で,パーリ語仏典を用いる上座部仏教,(2)はインド北西部から西域(中央アジア)を経て広まった[北伝仏教]で,漢訳仏典を基本とする大乗仏教,(3)は後期にネパールなどを経て伝わった大乗仏教で,チベット語訳の仏典を用いるなど,これらの諸地域の仏教は,歴史と伝統を異にし,教義や教団の形態もさまざまであるが,いずれもみな,教祖釈迦をブッダ(仏)として崇拝し,その教え(法)を聞き,禅定(ぜんじよう)などの実践修行によって悟りを得,解脱(げだつ)することを目標とする点では一致している。なお,発祥の地インドでは13世紀に教団が破壊され,ネパールなどの周辺地域を除いて消滅したが,現代に入って新仏教徒と呼ばれる宗教社会運動が起こって復活した。…
【市】より
…市は,交換の比率が需要と供給によって決定される場であるが,交換原理が卓越して,ものに限らず土地・労働力も商品化され取引されるようになり,価格決定の場としての市場体系が,社会をあるいは経済を決定するようになったのが近代西欧的な社会である。 アフリカ社会の市の人類学的研究を行ったボハナンPaul BohannanとダルトンGeorge Daltonは,売買取引の特定の場である〈市場market place〉と,需給関係によって価格が決定される〈市場交換原理principle of market exchange〉とを区別し,近代社会以外にも市場交換原理の作用する場合が見いだされることを指摘し,場としての市と市場交換原理が果たす役割に基づいて,社会を次の三つに分類した。(1)市場欠如型社会 場としての市がなく,市場交換原理も作用するとすれば個人間にあらわれるにすぎない。…
【ギルド】より
…古ゲルマン語には供犠,貢納,税を意味したゲルトgild(貨幣)の語があり,それと同語源のギルドは〈貢納・供犠団体Zahl‐ und Opfergemeinschaft〉であったと考えられる。779年のヘルスタールの勅令においてカール大帝が契約ギルドを禁止し,契約を結ぶことなしに難破や火災の際に相互扶助を行う団体のみ承認している。これはフランク族におけるギルドに関する最古の文書史料であり,ギルドが相互扶助団体であったことを示している。…
【商業】より
…漢字の〈商〉の第一義は,〈はかる〉であるが,日本語の〈あきない〉も,収穫の秋に飽き満ちた作物を互いに交換すること,すなわち交換を営むことを意味するとされている。いずれにしても,商の現象は,恵むこと,施すこと,盗むこと,奪うことではなく,己の物を他に与え,同時に他の物を己に受けて,自他ともに満足するところの取引行為を表している。商が取引行為にあるならば,商すなわち取引を業とするのが商業となる。…
【宋】より
…しかし太平になれた政府は,これに対して無為無策であったから,社会矛盾は年とともにはげしくなった。そこで1043年,范仲淹(はんちゆうえん),欧陽修らは仁宗の信任をえて行政改革を試みたが,多くの反対にあってわずか1年で挫折した。事態がいっこうに改善されないうえに,英宗朝になると,英宗の生父を礼法上いかに処遇するかをめぐって,朝廷を二分する大論議(濮議(ぼくぎ))が起こり,いたずらに政治の空白が生じた。…
【坊郭戸】より
…農村と同様,主戸・客戸に分けられ,主戸は10等級に戸等化された。屋税・地税など城郭の賦のほか,官庁の必要物資を調達する科配,王安石の新法による免行銭や助役銭を負担した。州県城郭内の商業地域に実施されていた坊制([坊])が宋に入って崩壊し,営業上の地域・時間の制約がなくなると,商工業者は同業商人組合〈[行](こう)〉や職人組合〈作〉を組織した。…
※「行」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」