物理気象学(読み)ぶつりきしょうがく(その他表記)physical meteorology

日本大百科全書(ニッポニカ) 「物理気象学」の意味・わかりやすい解説

物理気象学
ぶつりきしょうがく
physical meteorology

個々気象現象を物理学の対象として扱う気象学の一部門。気象光学気象音響学、気象電気学(大気電気学)、雲物理学および大気放射日射に対する研究分野が含まれる。なおここには、大気運動流体力学の立場から研究する気象力学は通例として含まれない。以上の分野の特徴点をあげると次のとおりである。

(1)気象光学 大気中の光や色の現象について研究する学問で、青空、暈(かさ)、光冠、虹(にじ)、蜃気楼(しんきろう)などの光学現象を研究の対象とする。

(2)気象音響学 大気中の音と気象との関係を研究する学問で、雷鳴のような自然界の音の研究、火山爆発のときの音の異常伝播(でんぱ)などのような音の伝わり方と気象との関係の研究などがある。公害の一つである騒音の伝わり方も研究対象の一つである。

(3)気象電気学 大気中におこる電気現象を研究する分野で、雷の研究、大気の電気伝導率、イオンなどの研究がある。

(4)雲物理学 雲の発生、雲の中で雨や雪などができる過程を研究する分野。比較的新しく1940年代から急速に発展した。水蒸気が凝結して雲や霧の水粒ができる仕組み、水粒の過冷却現象、水蒸気が昇華して氷晶ができる仕組み、水粒や氷晶が成長して雨滴や雪片、雹(ひょう)などができる仕組みなどの研究がある。人工降雨に用いられる種まき法は雲物理学の成果を実用化したものである。雲物理学は、雲粒1個1個の成長のようなミクロな過程から前線に伴う雲域の発達のようなマクロな過程を含む広大な研究領域をもち、レーダー、航空機、気象衛星などによる観測を利用するほか、電子計算機による数値モデルによる研究手法も進んでいる。このため、通常は物理気象学に含まれない気象力学との関係も深まり、物理気象学の一分野というより、気象学の一分野の観を呈している。

(5)大気放射や日射 大気放射は大気中の水蒸気、炭酸ガス、オゾンのような分子や雲のような水滴が出す赤外線、および地面、海面などの出す赤外線をいう。大気中の主成分である窒素や酸素は赤外線を放射しない。日射はいうまでもなく太陽の放射である。

 大気放射や日射の熱エネルギーは気象現象の原動力の役割をしている。全地球的にみると日射として受ける熱と大気放射として失う熱とは等しく、地球は全体として高温にもならず低温にもならない。しかし細かくみると、緯度38度あたりを境にして低緯度では日射のほうが多く、高緯度では大気放射のほうが多い。このために大気や海洋の大循環が生じて低緯度から高緯度へ熱が運ばれる。いいかえれば、日射や大気放射が原動力となって大気や海洋の運動がおこるわけである。

[大田正次・股野宏志]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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