特別法廷(読み)とくべつほうてい

日本大百科全書(ニッポニカ)「特別法廷」の解説

特別法廷
とくべつほうてい

本来開かれるべき裁判所またはその支部以外の場所で開かれる法廷裁判の法廷は、裁判所または支部で開かれることになっている(裁判所法69条1項)。しかし、この例外として、最高裁判所は、必要と認めるときは、他の場所で法廷を開き、またはその指定する他の場所で下級裁判所に法廷を開かせることができる(同法69条2項)。最高裁判所が必要と認めるときとは、一般的に大災害などで裁判所の法廷が損壊したことなどにより裁判を法廷で実施できない場合のほか、たとえば当事者が長期療養を要する伝染性疾患の患者であって、裁判所に出頭を求めて審理することが不可能ないし不相当な場合など、真にやむをえない場合に限られる。

 1948年(昭和23)以降、裁判所以外の開廷場所指定のなかで非常に高い認可率であったのはハンセン病を理由とするものである。ハンセン病患者が裁判を受けた際、最高裁判所が特別法廷(療養所刑務所拘置所などにおける法廷)の設置を裁判所法69条2項の規定に基づいて許した事案が数多くみられた。また、ハンセン病患者がこのような裁判を非公開で受けた事件も多かったようであり、憲法が保障する裁判の公開(憲法82条1項)の原則に反すると指摘する識者もいる。このような状況のなかで、最高裁判所は、2016年(平成28)4月にこの問題の検証結果を「ハンセン病を理由とする開廷場所指定に関する調査報告書」として公表した。これによれば、1948年から1972年までの間にハンセン病を理由とする裁判所以外の開廷場所の指定は95件(96件の指定上申があり、その内1件は撤回)とされており、開廷場所としては、ハンセン病療養所、医療刑務支所等の刑事収容施設などが指定されていた。最高裁判所裁判官会議から専決権限を付与された事務総局は、当事者がハンセン病に罹患していることが確認できれば、科学的知見や諸事情(当事者の病状の程度や他者への伝染可能性の有無・程度、伝染予防の措置をとることが可能か否か、将来における病状の改善や伝染可能性の低下の見込みの有無等)を具体的に検討することなく、裁判所外における開廷の必要性を認定して、開廷場所の指定を行うとの定型的な運用を行っていた。この問題について、最高裁判所は、前記報告書の公表と同日に発表された最高裁判所裁判官会議談話により、ハンセン病元患者に対して、このような開廷場所の指定についての差別的な姿勢を認め、謝罪した。

[加藤哲夫 2017年1月19日]

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知恵蔵mini「特別法廷」の解説

特別法廷

日本において、裁判所外で開かれる法廷のこと。裁判所法(1947年公布)に基づく措置であり、特別法廷の設置申請があった際に最高裁判所が必要と認めた場合に限り例外的に開かれる。48~77年には113件開かれており、特にハンセン病患者が裁判を受ける際感染の恐れなどを理由とした特別法廷は、48年~72年に療養所・刑務所・拘置所などで95件開かれた。ハンセン病患者の特別裁判は事実上非公開だったことが多いとみられ、憲法が保障する「裁判の公開原則」に反し、またきちんと審議されたか疑問であるとの指摘がある。最高裁判所はこの問題を検証し、2016年3月31日には、これらの特別法廷設置手続きに不適切な点があったことを認め、元患者に謝罪する方向で検討していることが報道された。

(2016-4-1)

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デジタル大辞泉「特別法廷」の解説

とくべつ‐ほうてい〔‐ハフテイ〕【特別法廷】

やむをえない事情がある場合に、裁判所やその支部以外の場所で開かれる法廷。大災害で裁判所が損壊した場合や、当事者が長期療養を要する伝染性疾患の患者で裁判所に出頭できない場合などに、裁判所法に基づいて、最高裁判所が必要と認めた場合に開かれる。

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