改訂新版 世界大百科事典 「玉手御前」の意味・わかりやすい解説
玉手御前 (たまてごぜん)
人形浄瑠璃《摂州合邦辻(せつしゆうがつぽうがつじ)》の主人公。河内の国主の後妻で,嫡子俊徳丸に恋慕し,かなわぬと毒酒をすすめて癩病にしてしまった玉手御前は,不義を怒った父に刺されて死ぬ間際に,実は妾腹の兄の陰謀から俊徳丸を守るための策であったことを語り,みずからの生血を飲ませて俊徳丸の病をなおす。玉手の人物像には,説経《信徳丸》の乙姫や《愛護若(あいごのわか)》の雲井の前のイメージが重なっている。継母の呪いを受けて業病にかかった信徳丸を献身と庇護の愛によってよみがえらせた乙姫の巫女的な力と,愛護の若に継母でありながら激しく恋慕し,死後大蛇となってその思いをとげた雲井の前の執念とが,玉手のなかに生かされて,矛盾しながらも,きわどく統一された女性像として形象されている。
執筆者:岩崎 武夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報