中世の小説。《玉藻の前》《玉藻の草子》《玉藻の前物語》とも呼ばれる。著者,成立年不詳。謡曲《殺生石(せつしようせき)》などと同様,美女に化して院の命をねらった狐の伝説を題材としている。昔,鳥羽院の御所に玉藻の前という,天下に並びない美女がいた。何事にも精通し,院の寵愛も深かったが,院はやがて病気となった。それを陰陽頭(おんみようのかみ)安倍泰成(あべのやすなり)に占わせると,玉藻の前は,実は下野国那須野にすむ,齢八百,尾の二つある大狐で,院の病はそのせいであると言う。泰成に祈禱をさせると,玉藻の前は消え失せ,院の病は快方に向かった。三浦介(みうらのすけ),上総介(かずさのすけ)に那須野に逃げ戻った狐の追討が命じられ,両人は苦労の末に狐を射止めるという内容。
執筆者:上野 英二
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
水中に生える藻の古称で、特定の藻種をさす語ではない。「玉」は美称。『万葉集』に詠まれている「今日(けふ)もかも沖つ玉藻は白波の八重(やえ)折るが上(え)に乱れてあるらむ」(巻7)や「水底(みなそこ)に生(お)ふる玉藻の生ひ出(い)でずよしこのころはかくて通はむ」(巻11)などの玉藻はホンダワラをさすと考えられる。ホンダワラ類の体枝上にはたくさんの小形うきぶくろがあり、これによって玉藻の語が生まれたとも解されるが、なかには淡水域の水草と解される場合もあり、語の由来ははっきりしない。たとえば「勝鹿(かつしか)の真間(まま)の入江にうちなびく玉藻刈りけむ手児名(てこな)し思ほゆ」(巻3)の玉藻は、海草のアマモか汽水草のイトモ、エビモなどをさすと考えられる。
なお、タマモと片仮名表記する場合は淡水産緑藻植物のChaetophora elegans Agandhをさす。これは冷たい水域に産し、鮮緑色、寒天質の小塊状体となる。大きさは1センチメートル以内と小さいため、注意しないとみつけにくい。
[新崎盛敏]
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
出典 日外アソシエーツ「動植物名よみかた辞典 普及版」動植物名よみかた辞典 普及版について 情報
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