刑事訴訟手続を実行するために、必要とされる人および物を確保するための強制を伴う処分をいう。広義では、強制的要素を含むいっさいの処分をいう。したがって、証拠調べの性質をもつ検証、証人尋問、鑑定、通訳、翻訳も強制処分に含まれることになる。しかし、強制処分は、一般には、証拠調べの処分を除いた狭義の意味で用いられる。強制処分の主体としては、裁判所または裁判官が行う場合と捜査機関が行う場合とがある。裁判所または裁判官が行う場合としては、対人的強制処分として、召喚、勾引(こういん)、勾留がある(刑事訴訟法57条以下)。被告人に対し一定の日時に一定の場所に出頭することを命ずる出頭命令(同法68条)なども強制処分である。これに対して、対物的強制処分としては、押収、捜索、提出命令がある(同法99条)。捜査機関である司法警察職員、司法警察職員の身分で職務を行うべき者、検察官および検察事務官が行う強制処分にも、対人的強制処分として逮捕、起訴前の勾留があり(同法199条、207条など)、対物的強制処分として捜索、押収、検証などがある(同法218条など)。
強制処分は、法律に特別の定めがある場合に限られる(同法197条1項但書)。これを強制処分法定主義とよんでいる。また、捜査機関が強制処分を行うには、原則として、裁判官の令状を得て、これを行わなければならない(憲法33条、35条)。これを令状主義とよんでいる。そこで、どのような行為が強制処分となるかが問題となるが、判例は、個人の意思を制圧し、身体、住居、財産等に制約を加えて強制的に捜査目的を実現する行為など、特別な根拠規定がなければ許容することが相当でない手段をいうとしている(最高裁判所昭和51年3月16日決定)。学説では、個人の重要な利益を侵害する処分を強制処分と解する見解が有力である。なお、通信の当事者のいずれの同意も得ないで電気通信の傍受を行う処分(いわゆる通信傍受、盗聴)も強制処分とされている(刑事訴訟法222条の2)。なお、車両に使用者の承諾なくひそかにGPS端末を取り付けて位置情報を検索するいわゆるGPS捜査につき、判例は、同捜査は個人のプライバシーの侵害を可能とする機器をひそかに装着するもので、強制処分にあたるとしている(最高裁判所大法廷平成29年3月15日判決)。
[田口守一 2018年4月18日]
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