日本大百科全書(ニッポニカ) 「環境化学」の意味・わかりやすい解説
環境化学
かんきょうかがく
environmental chemistry
環境科学の一分野であり、環境に関連した化学的事象がすべて対象となる。非常に広い意味では地球化学や宇宙化学、海洋化学などをも含めることもあるが、通常はもっと人間の居住環境に関連の深いところに限定したものとみなす。環境自体に関した種々の化学的計測、解析に始まり、環境汚染の分析や計測、汚染機構の解明から汚染物質の処理、除去法などの開発、環境保全などが現在のところの主流である。さらにクリーンエネルギー、無公害プロセス、クローズドシステムの確立など関連した領域は多く、周囲の種々の学問領域、たとえば物理学、気象学、海洋学、生物学、薬学、資源工学あるいは病理学、臨床医学等にも関係してくる。そのために学際的な性格が強く、単純に定義できるものではないといわれている。
このようなことを考えると、環境化学が環境汚染防止などに果たしている役割は、世間一般には目だたないけれども、きわめて大きいものであることがわかる。汚染源物質の解明による除去法の確立とか、廃棄物の再資源化技術、あるいは有害物質の除去など、すべて環境化学の寄与なくしてはありえないのである。
環境汚染物質の多くは化学物質に帰せられることが多いが、このために逆に汚染の防止には法規制などよりも、化学的に対処することのほうがはるかに重要である。しかしながら現状では見直されないままになっていることが多い。
もっとも環境汚染、公害対策のみが環境化学の主要対象であるような理解が広く行われているが、これはあまりにも一面的、かつ近視眼的な見方である。本来は人間生活と自然環境とのかかわりを化学的に研究することこそ、とくにこれからの環境化学に期待される使命であろう。いずれにせよ人間は周辺の環境になんらかの影響を与えなくては生活してゆくことができないから、いたずらに傍観者的な無責任な言動をする者などに迷わされず、地道にその間の調和を保つことに努力している環境化学の分野には、もっと光があてられることが望ましい。
[山崎 昶]
『ムーア夫妻著、岩本振武訳『環境理解のための基礎化学』(1981・東京化学同人)』