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生得観念 せいとくかんねんidea innata

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

生得観念
せいとくかんねん
idea innata

生れながら人間精神に内在するとされる観念。経験によって獲得される習得観念と対立する。ただし生得的であっても生れるとすぐ観念として現実態をとるのではなく,いわば潜勢態の観念として観念形成の能力や傾向として存在し,好適な条件を得て初めて現実の観念となる。人間としての誕生以前から魂は存在すると想定するプラトンによれば,すべての観念は魂に本来的にそなわっているが,魂は肉体との結合によりそれを忘却し,認識によってそれを想起するとした。観念を生得的,外来的,人為的に3分したデカルトは,その根底において心身を截然と区別する立場から,すべての観念の本来的な精神内在を,つまり生得性を考えていた。デカルトを徹底化したマルブランシュは生得説偶因論と結合させた。経験論に立って生得説反駁をその哲学の中核としたロックを批判してライプニッツは,魂や単子はその存在の全期間を通してかかわりあうすべてのものをおのれのうちに表現しており,神ならばそれを読取って確実に未来をいいあてうるとした。またカントが経験の条件としてあげた時間,空間や諸範疇の先天的形式はそれ自体観念ではないが,観念を現実化する根底として上述のプラトンやデカルトの生得説と本質的な類縁性をもつものである。

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大辞林 第三版の解説

せいとくかんねん【生得観念】

〘哲〙 後天的な経験によってではなく、生まれながらにして先天的にもっている観念。生具観念。本有観念。 ↔ 習得観念

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

生得観念
せいとくかんねん
innate ideas英語
idea innataラテン語

本有観念ともいう。人間精神に生まれつき備わっていて、他のいっさいの認識の基礎となる観念のことで、感覚を通して得られる外来観念idea adventitia(ラテン語)、および人間精神がかってにつくりあげる構想観念idea facta vel factitia(ラテン語)に対立する。その先駆思想としては、プラトンの想起説をあげることができるが、中世スコラ哲学では一般にアリストテレスを受けて、「まず感覚のうちになかったものは知性のうちにもない」という命題が人間的認識の原理として認められていた。
 近世に入って、デカルトは思惟(しい)(自我)、神、延長の観念および同一律や因果性の原理などを生得観念として認めたために、ロックの手厳しい批判を招いた。他方、ライプニッツは合理論の立場から、前述のスコラの命題を承認しつつも、なお「知性そのものを別にして」と付け加えるのを忘れなかった。この生得観念をめぐる論争はいちおうカントの批判哲学によって止揚された、というのが哲学史の常識である。しかし近年、この論争はチョムスキーによって提起された自然言語の習得の問題として、新たな脚光を浴びている。[坂井昭宏]
『所雄章他訳『省察』(『デカルト著作集2』所収・1973・白水社) ▽ロック著、大槻春彦訳『人間知性論』全四冊(岩波文庫) ▽N・チョムスキー著、川本茂雄訳『デカルト派言語学』(1976・みすず書房)』

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