産地直結(読み)さんちちょっけつ

改訂新版 世界大百科事典 「産地直結」の意味・わかりやすい解説

産地直結 (さんちちょっけつ)

産地直結(略して産直ということが多い)の概念定義は必ずしも統一されていない。(1)卸売市場を経由せず,また〈せり〉取引を原則としない流通方式,あるいは(2)商人資本の手を経由しない流通形態,などの定義もあるが,これだけでは物的流通の形態面に重きをおきすぎた定義のきらいがある。後述のように,生産者主体と消費者主体の食料をめぐる品質安全性価格資本の流通市場支配に対する不満から,それに対抗するために成立したものである。その限りでは,生産と消費の両主体の食糧をめぐる共通認識がベースになって農産物の売買行為が成立し,両主体の創造的な生産・流通・消費が開発され統一的に展開される形態にほかならない。両主体の理念が統一的に結ばれることが産直の基本的な概念である。単なる物的流通の合理化をめざすスーパー・チェーンなどの産地取引は産地直送(これも産直と略す)であり,これとは明確に区別して理解すべきである。

産直の成立した背景には次のような基本的な問題があった。(1)食料の品質・安全性に対する不安,(2)食料品の価格上昇に対抗した生活防衛,(3)食糧の輸入拡大と国内自給率の低下に対する不安,(4)流通経路の複雑さと資本の市場支配に対する不安,などである。1960年代に入って各地に芽生えた産直活動多く牛乳を対象としたものであった。それは大手乳業メーカーの集乳から末端の専売店での戸別配達に至る独占的な流通支配と相次ぐ大幅値上げに対抗するものとして生成した。さらに,〈有害食品〉の氾濫はんらん)に対抗する運動として農産物の産直対象品目が広がった。森永ヒ素ミルク中毒事件,日本酒のサリチル酸添加問題,カネミ油症事件,チクロ入り食品など,相次ぐ有害食品の多発に対して,消費者も生産者も自衛手段をとらざるをえなかった。

産直による農産物流通がどこで,どのように実践されているか,いくつかの個別事例は紹介されているが,統計的には明確でない。産直の当面している問題点は,(1)需給のバランスをどう解決するか,(2)価格をどのようにして決めるか,(3)品質・安全性をどこまで追求するか,(4)農産物の加工手段をどう位置づければよいか,(5)産直の相互の組織的活動のあり方をどう方向づければよいか,などである。産直は現代の食糧をめぐる多くの矛盾に対抗する〈食糧運動〉であり,卸売市場流通にとって代わる流通形態ではなく,そこに限界をもちながらも対抗力として存立する流通方式である。
消費者運動
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「産地直結」の意味・わかりやすい解説

産地直結
さんちちょっけつ

産直とも略称される。生産者の小グループと消費者団体が需給計画を示し合い,それに基づいて契約を結んで行う取引形態。農家が団地で朝市を開いて野菜や果実を直売したのが始りで,次の3つの形態がある。 (1) 消費者団体がある特産品について主産地と直結する。 (2) 消費者団体が多品目の生鮮食料品を近隣の農業協同組合と契約取引をする。 (3) 農協の集配センターを通じて農民団体と消費者団体とが直結する。また本来の産直の定義からははずれるが,トラック運送業者が品目を限って農漁協と消費者を結ぶ産直便サービスを実施している。

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世界大百科事典(旧版)内の産地直結の言及

【野菜】より

…野菜の場合,農家手取り価格は小売価格のおよそ半分で,流通コストの小売価格に占める割合が大きい。この高い流通コストに注目し,近年,集配センターや産地直結取引など卸売市場を経由しない流通経路が選択されてきている。一般にバイパス流通と呼ばれ,予約相対取引により,生産者,消費者相互に流通コストを分け合おうとするものである。…

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