セリ (芹)
water dropwort
Oenanthe javanica DC.
葉を食用にするセリ科の多年草。日本では全国いたるところの水辺に見られ,また北は中国東北地方から東南アジア一帯,さらにオーストラリア北部まで広く分布している。春から夏に長い匍匐(ほふく)枝をのばし,栄養繁殖して水湿地に大きな群落をつくる。夏には地上茎を立て,白花をつける。秋から春には根生葉を出す。葉は長い柄があり,多くは2回羽状複葉に切れ込む。春の七草の一つで《日本書紀》に〈せり〉の名がみられ,《万葉集》には〈せり摘み〉の歌があり,古くから利用されていた。品種の分化はほとんどみられない。今日利用しているものは野生系統から選抜したものである。定植は9~10月に行い,12~3月に30~40cmになったものを根ごと抜きとって収穫する。冬季は水を深くして防寒と軟白を行い,できれば水をつねに流しておくことが望ましい。日本特産野菜の一つで,その香気が好まれる。また中国でも栽培されている。若葉は椀だね,浸し物,みそ汁,酢みそあえなどに用いる。
執筆者:高橋 文次郎
セリ科Umbelliferae(=Apiaceae)
双子葉植物。約300属3000種があり,日本には約30属70種以上がみられる。ほとんどが草本で,複散形花序を作り,寒帯から亜熱帯にかけて世界中に分布する。
多くは多年草かまたは一・二年草で,地表にはうチドメグサのような小型のものから,エゾニュウのように3m以上に達するものまである。葉は互生し,多くは細かく分裂した複葉となり,葉柄の基部は広くなって茎を抱く。花は5数性であるが,子房は下位で2室となり,果実は2分果に分かれる。
精油を含み,独特の香りがあり,ウイキョウやイノンドのように果実を香味料としたり,トウキ,ミシマサイコなどのように薬用とされ,セリ,ミツバ,ニンジンなどは野菜として食用に用いられる。一方,ドクゼリやドクニンジンなどのように猛毒をもったものもある。
近縁のウコギ科は木本性の植物が多い。
執筆者:村田 源
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
セリ
せり / 芹
[学] Oenanthe javanica (Blume) DC.
Oenanthe stolonifera DC.
セリ科(APG分類:セリ科)の多年草。「セリ、ナズナ、……」と詠まれ、春の七草の一つ。アジアからオセアニアにかけての水辺や湿地に野生する。日本や朝鮮半島南部、中国、ジャワでは野菜として栽培される。茎は地をはい、節から根を出して盛んに殖え、競り合って生えているようすからセリの名があるという。葉は2回羽状に裂ける。夏季にとう立ちして枝先に複散形花序を出し、白色から淡桃色の小さな5弁花をつける。果実は楕円(だえん)形の分離果で、熟すと2個に分かれ種子が落下し、水流にのって広がる。植物体には特有の香気があり、食用の歴史は古い。中国では紀元前17~前12世紀から野菜として利用され、日本でも『古事記』「神代記」(712)にソリの名で記載がある。『万葉集』巻20にはセリを詠んだ歌が2首収められている。栽培も『延喜式(えんぎしき)』(927)にすでに記載されている。
今日では都市近郊で栽培が多く、青森から山口に至る諸県に産地がある。セリの栽培には水田栽培と畑地栽培とがある。栽培する水田はとくにセリ田とよばれ、成長するにつれて水を50センチメートルほどまで深くして茎を伸ばし軟化させる。収穫は11月中旬から3月下旬まで行われる。
[星川清親 2021年11月17日]
2016年の全国の収穫量は1060トン。主産地は宮城県396トン、茨城県241トン、大分県130トン、次いで秋田県、広島県が多い。
[編集部 2021年11月17日]
春に摘むものがもっとも上質で、春の七草の筆頭にあげられている。さわやかな香りと歯ざわりが和風料理にあって、ひたし物、和(あ)え物、汁の実などにされ、すき焼きの具としても賞用されている。漬物にもされ、仙台名産とされている。根も油で炒(いた)めてから、甘く煮て食べる。朝鮮ではキムチに不可欠の材料である。セリは生葉100グラム当り、カロチン1300マイクログラム、ビタミンC19ミリグラムを含む。冬の緑色野菜として、その鮮やかな色と独特の香りが喜ばれる。煮て食べると、神経痛やリウマチに効果があるともいわれる。
[星川清親 2021年11月17日]
せり
演劇舞台用語。舞台の床(ゆか)の一部を四角に切り、その部分に俳優や大道具をのせて昇降させる機構のこと。上がるのをせり上げ、せり出し、下がるのをせり下げ、せりおろしといい、とくに大きな屋体などを昇降させるものを大ぜりという。18世紀の初めに竹田からくりなどで最初に使われ、歌舞伎(かぶき)では1753年(宝暦3)並木正三(しょうざ)が自作の『けいせい天羽衣(あまのはごろも)』で三間四方のせり上げを使用したのが始まりといわれる。現代では広く一般演劇に使用。なお、花道の揚幕から七分、舞台付け際から三分の、いわゆる七三(しちさん)にあるせりをとくに「すっぽん」とよび、精霊や妖術(ようじゅつ)使いの役の登退場に使われる。この語源については、せり上がりの演者が首から出るさまがスッポンの首に似ているからなどの諸説があるが、確証はない。
[松井俊諭]
出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例
セリ
《栄養と働き&調理のポイント》
春の七草の代表格で、日本原産の野菜の1つです。中国やわが国では古くから栽培されていますが、薬効や栄養的な効果は野生のもののほうがすぐれています。自生のセリは日あたりのよい渓流や水辺に多く見られ、11月ころから新葉が伸びはじめて翌年の夏に白い花を咲かせます。
〈香り成分が健胃、解熱、解毒に働く〉
○栄養成分としての働き
特有の香りはミリスチン、カンフェンといった精油成分で、胃を丈夫にし、発汗・解熱、解毒などの薬効があります。
栄養的にはカロテンを多く含み、粘膜(ねんまく)や内臓の細胞を強化する働きがあります。造血作用のある葉酸(ようさん)、鉄分も含み、貧血予防や美肌に効果が期待できます。
体内のナトリウムを排泄(はいせつ)し、血圧を下げる作用で高血圧症を予防するカリウムが多いのも特徴です。
このほか、セリにはカルシウム、ビタミンCが多いのですが、栽培したものはビタミンCの含有量に劣り、香りも高くありません。
野生のものはアクが強いので、塩を入れた熱湯でゆがき、水にさらしてアクをとります。栽培されたものはゆがくだけで十分です。
細かく刻んでおかゆに入れると、香りのよい「セリがゆ」になります。
出典 小学館食の医学館について 情報
せり
劇場機構の一つで,舞台の床の一部を切抜き,これに出演者や舞台装置を乗せて上下させる仕掛け。「迫り」とも書く。舞台に現すことを「せり上げ」「せり出し」,舞台から消すことを「せり下げ」「せりおろし」と呼び,すべて大道具方が操作する。現在の歌舞伎劇場では,回り舞台の中央,前方にあるものを「せり」「中ぜり」,その後方の大きなものを「大ぜり」と呼ぶ。ほかに下手下座前にもあり,また花道の七三にあるものは「すっぽん」または「切穴」と呼ばれる。宝暦3 (1753) 年,並木正三により大坂道頓堀の角の芝居で行われたのが最初といわれる。
セリ(芹)
セリ
Oenanthe javanica; dropwort
セリ科の多年草。東アジアの温帯から熱帯にかけて広く分布し,日本全土の湿地や水田,流水中に生じる。横にはう白く長い地下茎で繁殖し,茎は直立し高さ 30cmぐらいになる。1回または2回羽状に分れた葉を互生する。夏の頃,枝先に複散形花序を出し,5弁の白色小花を多数つける。全草に独特の香気があり,春の七草の1つで,水田などに栽培されることもある。冬から春にかけて,伸びはじめの若い茎を摘んで食用にする。浸し物,あえ物,吸い物などにする。
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
せり
舞台用語。舞台の切穴(きりあな)の部分に俳優や大道具を載せて上下させる機構。歌舞伎で発明されたもので,上げるのを〈せり上げ〉または〈せり出し〉,下げるのを〈せり下げ〉という。
セリ(芹)【セリ】
セリ科の多年草。日本全土,東南アジアに広く分布し,湿地や溝の縁などにはえる。茎の基部は長くはい,白くて太い。葉はやわらかく,2回羽状複葉で,小葉にはあらい鋸歯(きょし)がある。夏,30cm内外の茎を出し,頂に小さい複散形花序をつけ,白色の小花を開く。全草にかおりがあって,若い株は食用となり,栽培もされる。春の七草の一つ。
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せり[葉茎菜類]
関東地方、茨城県の地域ブランド。
主に行方市で生産されている。春の七草の一つ。競り合うように伸びることから、この名がついたという。行方地方には質のよい地下水が豊富であるため、栽培が盛んにおこなわれている。せりには、カロチン・ビタミンCが比較的多く神経痛に効果的。葉酸や鉄分も多いため、特に女性によい。茨城県のせり生産量は、全国トップクラスを誇る。
せり[葉茎菜類]
東北地方、宮城県の地域ブランド。
主に名取市・石巻市・仙台市などで生産されている。宮城県では江戸時代初期から栽培されている。出荷量は全国トップクラス。
出典 日外アソシエーツ「事典 日本の地域ブランド・名産品」事典 日本の地域ブランド・名産品について 情報
セリ
[Oenanthe javanica].セリ目セリ科セリ属の多年草.葉,茎を食用にする.
出典 朝倉書店栄養・生化学辞典について 情報
世界大百科事典(旧版)内のセリの言及
【歌舞伎】より
…とりわけこの時期には舞台機構の面が発達した。セリ上げや[回り舞台]がくふうされ,変化に富んだ作劇や演出が可能になった。この面では,上方の名作者初世並木正三の功績が大きい。…
【とろみ】より
…魚は跳ね回ったり,ぐるぐる回ったりし,水がすり鉢形に中くぼみになることもあるので,〈まきどろみ〉〈まきいお〉〈すりばちいお〉などともいわれる。海面の状態から魚群の往来,状態を推定することはよく行われ,ほかにも〈あわ〉(イワシなどの吹き出す泡が水面に浮かぶ),〈いろ〉(白み・黒み・赤みなど魚群の集まりぐあいで水色が変化する),〈ひき〉あるいは〈しき〉(夜間,海中のヤコウチュウなど発光生物の光る様子から海中での魚群の動きを推定する),〈わき〉(魚群が表層に密集して水面が盛り上がる),〈せり〉(イワシなどの群れによって海面がざわざわ泡立つ)など,いろいろの語が漁業者に伝承されている。【清水 誠】。…
【山菜】より
…ふつう草本を主体として木本植物やシダ類の一部を含めるが,より広く菌類や藻類を包含させることもあり,山菜と呼ぶ植物の範囲は一定しない。また,アザミのように平安期には栽培されていたが,今ではまったく野草にもどってしまったものや,セリやフキのように栽培→野生→栽培という歴史をもつものもある。現在セリ,フキ,ウド,ワラビ,アシタバ,タラの芽などは栽培に移されて量産が進み,とくにワラビは促成・抑制栽培が確立されている。…
※「セリ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」