セリ(読み)せり

日本大百科全書(ニッポニカ) 「セリ」の意味・わかりやすい解説

セリ
せり / 芹
[学] Oenanthe javanica (Blume) DC.
Oenanthe stolonifera DC.

セリ科(APG分類:セリ科)の多年草。「セリ、ナズナ、……」と詠まれ、春の七草の一つ。アジアからオセアニアにかけての水辺や湿地に野生する。日本や朝鮮半島南部、中国、ジャワでは野菜として栽培される。茎は地をはい、節から根を出して盛んに殖え、競り合って生えているようすからセリの名があるという。葉は2回羽状に裂ける。夏季にとう立ちして枝先に複散形花序を出し、白色から淡桃色の小さな5弁花をつける。果実は楕円(だえん)形の分離果で、熟すと2個に分かれ種子が落下し、水流にのって広がる。植物体には特有の香気があり、食用の歴史は古い。中国では紀元前17~前12世紀から野菜として利用され、日本でも『古事記』「神代記」(712)にソリの名で記載がある。『万葉集』巻20にはセリを詠んだ歌が2首収められている。栽培も『延喜式(えんぎしき)』(927)にすでに記載されている。

 今日では都市近郊で栽培が多く、青森から山口に至る諸県に産地がある。セリの栽培には水田栽培と畑地栽培とがある。栽培する水田はとくにセリ田とよばれ、成長するにつれて水を50センチメートルほどまで深くして茎を伸ばし軟化させる。収穫は11月中旬から3月下旬まで行われる。

[星川清親 2021年11月17日]

 2016年の全国の収穫量は1060トン。主産地宮城県396トン、茨城県241トン、大分県130トン、次いで秋田県、広島県が多い。

[編集部 2021年11月17日]

食品

春に摘むものがもっとも上質で、春の七草の筆頭にあげられている。さわやかな香りと歯ざわりが和風料理にあって、ひたし物、和(あ)え物、汁の実などにされ、すき焼きの具としても賞用されている。漬物にもされ、仙台名産とされている。根も油で炒(いた)めてから、甘く煮て食べる。朝鮮ではキムチに不可欠の材料である。セリは生葉100グラム当り、カロチン1300マイクログラム、ビタミンC19ミリグラムを含む。冬の緑色野菜として、その鮮やかな色と独特の香りが喜ばれる。煮て食べると、神経痛リウマチに効果があるともいわれる。

[星川清親 2021年11月17日]



せり

演劇舞台用語。舞台の床(ゆか)の一部を四角に切り、その部分に俳優や大道具をのせて昇降させる機構のこと。上がるのをせり上げ、せり出し、下がるのをせり下げ、せりおろしといい、とくに大きな屋体などを昇降させるものを大ぜりという。18世紀の初めに竹田からくりなどで最初に使われ、歌舞伎(かぶき)では1753年(宝暦3)並木正三(しょうざ)が自作の『けいせい天羽衣(あまのはごろも)』で三間四方のせり上げを使用したのが始まりといわれる。現代では広く一般演劇に使用。なお、花道の揚幕から七分、舞台付け際から三分の、いわゆる七三(しちさん)にあるせりをとくに「すっぽん」とよび、精霊や妖術(ようじゅつ)使いの役の登退場に使われる。この語源については、せり上がりの演者が首から出るさまがスッポンの首に似ているからなどの諸説があるが、確証はない。

[松井俊諭]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「セリ」の意味・わかりやすい解説

せり

劇場機構の一つで,舞台の床の一部を切抜き,これに出演者や舞台装置を乗せて上下させる仕掛け。「迫り」とも書く。舞台に現すことを「せり上げ」「せり出し」,舞台から消すことを「せり下げ」「せりおろし」と呼び,すべて大道具方が操作する。現在の歌舞伎劇場では,回り舞台の中央,前方にあるものを「せり」「中ぜり」,その後方の大きなものを「大ぜり」と呼ぶ。ほかに下手下座前にもあり,また花道の七三にあるものは「すっぽん」または「切穴」と呼ばれる。宝暦3 (1753) 年,並木正三により大坂道頓堀の角の芝居で行われたのが最初といわれる。

セリ(芹)
セリ
Oenanthe javanica; dropwort

セリ科の多年草。東アジアの温帯から熱帯にかけて広く分布し,日本全土の湿地や水田,流水中に生じる。横にはう白く長い地下茎で繁殖し,茎は直立し高さ 30cmぐらいになる。1回または2回羽状に分れた葉を互生する。夏の頃,枝先に複散形花序を出し,5弁の白色小花を多数つける。全草に独特の香気があり,春の七草の1つで,水田などに栽培されることもある。冬から春にかけて,伸びはじめの若い茎を摘んで食用にする。浸し物,あえ物,吸い物などにする。

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百科事典マイペディア 「セリ」の意味・わかりやすい解説

せり

舞台用語。舞台の切穴(きりあな)の部分に俳優や大道具を載せて上下させる機構。歌舞伎で発明されたもので,上げるのを〈せり上げ〉または〈せり出し〉,下げるのを〈せり下げ〉という。

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事典 日本の地域ブランド・名産品 「セリ」の解説

せり[葉茎菜類]

関東地方、茨城県の地域ブランド。
主に行方市で生産されている。春の七草の一つ。競り合うように伸びることから、この名がついたという。行方地方には質のよい地下水が豊富であるため、栽培が盛んにおこなわれている。せりには、カロチン・ビタミンCが比較的多く神経痛に効果的。葉酸や鉄分も多いため、特に女性によい。茨城県のせり生産量は、全国トップクラスを誇る。

せり[葉茎菜類]

東北地方、宮城県の地域ブランド。
主に名取市・石巻市・仙台市などで生産されている。宮城県では江戸時代初期から栽培されている。出荷量は全国トップクラス。

出典 日外アソシエーツ「事典 日本の地域ブランド・名産品」事典 日本の地域ブランド・名産品について 情報

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