相対的過剰人口(読み)ソウタイテキカジョウジンコウ(英語表記)relative Überbevölkerung ドイツ語

デジタル大辞泉 「相対的過剰人口」の意味・読み・例文・類語

そうたいてき‐かじょうじんこう〔サウタイテキクワジヨウジンコウ〕【相対的過剰人口】

人口の絶対的増加によるのではなく、資本の有機的構成の高度化による相対的に過剰な労働者人口。流動的、潜在的、停滞的の三つ形態で存在する。産業予備軍

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精選版 日本国語大辞典 「相対的過剰人口」の意味・読み・例文・類語

そうたいてき‐かじょうじんこう サウタイクヮジョウジンコウ【相対的過剰人口】

〘名〙 資本の有機的構成の高度化により、資本にとって相対的に過剰となる労働者人口。流動的、潜在的、停滞的の三つの形態がある。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「相対的過剰人口」の意味・わかりやすい解説

相対的過剰人口
そうたいてきかじょうじんこう
relative Überbevölkerung ドイツ語

資本主義社会において失業者・半失業者として存在する過剰人口をいう。こうした過剰人口は、労働者人口の雇用手段である可変資本の増加よりも急激な労働者人口の絶対的増加のようにみえるが、そうではなく資本制的蓄積過程の必然的な産物である。資本の蓄積の進展、すなわち剰余価値の資本への再転化によって資本と生産の規模が拡大し、資本・賃労働関係が拡大再生産されていくが、この場合、基調として労働生産力が発展し、資本の有機的構成が高度化していくので、社会的総資本のうち可変資本部分の占める比率は累進的に減少する。蓄積による社会的総資本の増加につれて可変資本部分も絶対額としては増加し、雇用される労働者も増加しはするが、資本の有機的構成の高度化に伴って現在の雇用労働者を雇用し続け、さらに追加労働者数を吸収するためには、累進的に加速される総資本の蓄積が必要であり、またこの蓄積そのものが資本の有機的構成をいっそう高度化させる契機となるため、雇用労働者の増加もしだいに実現しにくくなる。こうして可変資本部分の増加率が累減することによって労働者人口の一部が過剰となる。このようにして資本制的蓄積がその中位の蓄積テンポに比して過剰な、相対的過剰人口を生み出すのである。相対的過剰人口は、資本の転変常なき増殖欲のために現実的人口増加の制限にかかわりなく自由に利用できる産業予備軍をなすと同時に、その絶えざる存在は、現役労働者の重石(おもし)となり、賃金を資本の増殖欲に照応する範囲内に押しとどめ、労働に対する資本の専制支配確立のてことなる。相対的過剰人口には、産業循環の周期的変動に規定された周期的形態を別とすれば、近代産業の中心地において産業構造の変化などに伴って資本から遊離される流動的過剰人口、農業の機械化に伴って生産から遊離され都市への流出を待ち構えている潜在的過剰人口、就業状態の不規則な停滞的過剰人口の三つの形態があり、そしてその底に受救貧民が存在する。

[二瓶 敏]

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百科事典マイペディア 「相対的過剰人口」の意味・わかりやすい解説

相対的過剰人口【そうたいてきかじょうじんこう】

資本主義的蓄積の発展に伴い,全投下資本のうち生産手段に投下される不変資本の割合は増大するが,労働力に投下される可変資本の割合は累進的に減少するため(資本の有機的構成の高度化),資本の平均的増殖欲にとって余分な労働者が絶えず産み出される。これを相対的過剰人口と呼び,流動的(近代産業の周辺で一時的に失業),潜在的(農村で就業の機会を待つ),停滞的(日雇等の不規則な就業状態)の3形態があり,その最下層には被救恤(ひきゅうじゅつ)貧民がある。これは資本制生産の発展に必要な産業予備軍を提供する。
→関連項目資本主義

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改訂新版 世界大百科事典 「相対的過剰人口」の意味・わかりやすい解説

相対的過剰人口 (そうたいてきかじょうじんこう)

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世界大百科事典(旧版)内の相対的過剰人口の言及

【過剰人口】より

…適度人口に比し多すぎる人口が過剰人口ということになるが,マルサスの絶対的過剰人口(人口を扶養するに足る食糧供給量以上に増加した人口)論に対し,マルクスは相対的過剰人口relative surplus‐population論を主張した。マルクスのこの概念は主として社会経済的なものであって,次のようなものである。…

【産業予備軍】より

…19世紀中葉のイギリスの現状から,K.マルクスF.エンゲルスによって資本蓄積の一面としてその存在を意義づけられた。とくに《資本論》では資本蓄積に伴って排出される相対的過剰人口relative surplus‐populationが産業予備軍を構成するとされて,この存在形態が詳しく論じられている。過剰人口の存在形態は主として三つに分けられている。…

【資本蓄積】より

…その結果,同一規模の再生産がより少数の労働力で賄われうることになるから,次の好況期には以前の限界をこえて生産規模が拡大できるようになる。それゆえ景気循環は,蓄積にとって不可欠な労働力を資本がみずから確保する機構ということになり,K.マルクスはこれを〈相対的過剰人口(〈産業予備軍〉の項参照)の形成〉と呼んだ。【小池田 冨男】。…

【資本論】より

…古典派の定義を踏襲したものである。 資本は,生産方法の発達や,生産力の増進という大きな趨勢(すうせい)のなかで,どのように労働の需給関係を調整し,賃金と剰余価値が動く場を設定していくのか,これが《資本論》での資本の有機的構成の高度化と,相対的過剰人口の議論になる。 資本主義の拡大・深化にともなって,労働需要は社会的な規模では絶対的に増大していく。…

【マルサス】より

…彼の人口論には多くの異論がある。その継承者のうちにも,19世紀後半以後,マルサスの承認しなかった産児制限論を加味した〈新マルサス主義〉(〈マルサス主義〉の項参照)が現れるなど,新旧の区別を生じたが,いずれも人口の原理を本来的に自然法則と解する点では絶対的過剰人口論であり,マルクスの相対的過剰人口論とは対照的である。 1805年,マルサスはハートフォード州のヘーリベリーに新設された東インド・カレッジの近代史と経済学の教授に就任,生涯その職にあった。…

【労働市場】より

… また労働力という商品は,通常の物品とは異なって,資本によって生産できる商品ではなく,人間の生活を通じて生み出される商品で,このための期間は長期にわたるため,景気変動など短期的な労働需要の変動をただちには充足しにくい性質をもっている。このことから,不断に変動する労働需要を充足するための相対的過剰人口の存在が不可欠の前提となっている。相対的過剰人口が存在しなければ,労働需要の増大→労働供給の不足→賃金の高騰→利潤率の低下という経路をたどって,経済発展は大きく阻害されることとなる。…

※「相対的過剰人口」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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