佐藤春夫の中編小説。1917年(大正6)雑誌《黒潮》に《病める薔薇(そうび)》の題で冒頭の部分が発表され,のち改題して改稿加筆され,19年新潮社刊。都会生活に疲れた文学志望の青年が,妻と犬と猫を連れて武蔵野の田園に移り住み,日陰に見いだしたバラの株に〈薔薇(そうび)ならば花開かん〉というゲーテの詩句を託して手を入れ,自身の芸術的開花を占おうとするが,夏から秋にかけての田園の無聊(ぶりよう)に苦しみ,やがてふくらんだバラのつぼみはすべて虫食いだった。孤独と倦怠に彩られた心象風景がくりひろげられている作品。作者自身〈芸術家の蛹(さなぎ)が成虫になるための,いはば奇異な芸術修業の内面風景図〉と語っている。
執筆者:河村 政敏
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佐藤春夫の短編小説。前半部分を『病める薔薇(そうび)』の題で1917年(大正6)6月の『黒潮(こくちょう)』に発表。いちおう完成させ18年9月の『中外』に『田園の憂鬱』の題で掲載、同年11月天佑(てんゆう)社刊の処女創作集『病める薔薇』に収録。定本版『田園の憂鬱』を19年6月、新潮社刊。武蔵野(むさしの)の南端の田園での生活を背景に、妻と二匹の犬との電灯もない簡素な日常、自然との新鮮な交感、そこから生まれる憂鬱と倦怠(けんたい)の心情を、緻密(ちみつ)な散文世界に移し、近代人の内面をみごとに定着させた作品。小説的ドラマはないが、心境の陰翳(いんえい)を詳細にたどるその方法には、大正期の新しい感性の息吹が感じられ、作者のみならず大正文学の代表作の一つである。
[中島国彦]
『『田園の憂鬱』(岩波文庫)』
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