日本近世の町(ちよう)における収支会計のこと。日本の近世社会では,国家や領主の権力諸機構,多様な共同体・共同組織,個々の経営体などの諸レベルにおいて,支配や給付,管理や運営,生産や消費,負担や配分などに伴う金銭や物品の出納が行われ,その算用の過程や結果が記録された。町入用はこのうち,町人の地縁的共同体である町における管理・運営,負担・配分に関する諸項の,町としての収支会計を意味しており,この点は村と村入用の関係にほぼ等しい。町入用の対象となるものは,以下の3相からなる。
(1)国家や領主権力への負担。近世の町人の大半は町域の土地にかかわる貢租を免ぜられ,その結果,伝馬役や町人足役,また,年頭・八朔や節句の音信礼が権力へのほぼ唯一の負担となった。そしてこれら諸負担の算用は,町入用の一部として一括して行われることが普通であった。(2)町共同体の管理・運営に伴うもの。町入用の中心は,当該の町の管理・運営にかかわる諸項目によって占められている。そのおもなものは,次のように区分できる。(a)当該の町の用人,書役(かきやく),番人などの町掛り人への給与や,町用に伴う事務諸経費。町掛り人とは町の吏員で町によって雇用され,町の年寄や月行事(がちぎようじ)の下で町内の事務や雑用に従事した。(b)町会所,番屋,門,道路,上下水などの,町内の諸施設の建設・修繕費。(c)町域で発生した諸事件や訴訟の処理に関する諸経費。(d)町内の家持や借家人の変動に伴う諸収入。とくに家持の場合,土地買得時の分一(ぶいち),通過儀礼の各段階における振舞いなどがあった。(3)当該の町が所属する町方全域(惣町)や,町方における地域ブロック(組合町)の共同の管理・運営に伴うもの。このレベルでの諸項目は(2)とほぼ同様で,(a)惣町や組合町の代表者や吏員への給与,ならびに諸経費,(b)惣町や組合レベルの諸施設の建設・維持費,などがおもなものである。
町入用は,全体として町の代表者や町の用人によって算用され,半年ないしは1年ごとに決算されて帳簿に記録されるのが通例であった。そして,収支の差額は,所持町屋敷の間口間数や軒役数を基準として町内の家持に賦課,ないしは配分された。
執筆者:吉田 伸之
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
…日本の近世社会では,国家や領主の権力諸機構,多様な共同体・共同組織,個々の経営体などの諸レベルにおいて,支配や給付,管理や運営,生産や消費,負担や配分などに伴う金銭や物品の出納が行われ,その算用の過程や結果が記録された。町入用はこのうち,町人の地縁的共同体である町における管理・運営,負担・配分に関する諸項の,町としての収支会計を意味しており,この点は村と村入用の関係にほぼ等しい。町入用の対象となるものは,以下の3相からなる。…
…これが,町法改正,七分積金令と呼ばれるもので,以後幕末・維新期まで江戸の都市政策の根幹をなした。 幕府はこれに先だって,江戸の各町に1785年(天明5)から5年間の地代店賃(たなちん)上り高,町入用(ちよういりよう),地主収入等を書上げさせた。この結果,1年分の町入用は江戸全体で金15万5000両余に及ぶことがわかり,このうち3万7000両が節減可能とされた。…
※「町入用」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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