改訂新版 世界大百科事典 「異常死体」の意味・わかりやすい解説
異常死体 (いじょうしたい)
死亡の原因や状況,あるいは死体発見時の状態などに,犯罪,自殺その他の不自然な因子の関与が考えられる死体。したがって,ここでいう異常とは,医学的な見地からのものではなく,法医学的あるいは法的な観点からの異常を意味し,法律上は異状死体と書く。病気による死亡以外のすべての死体がこれに含まれる。具体的には,他殺,自殺,中毒あるいは災害事故による死亡(いわゆる外因死)の場合と,病死であることが明確に判定できない場合,および,外因死ではあるがその原因が不明の場合に分けられる。医師法(21条)の定めるところにより,死体または妊娠4ヵ月以上の死産児に異常を認めた医師は,24時間以内に所轄の警察署に届け出なければならない。このような死体では,時として殺人,傷害致死,過失致死あるいは堕胎等の犯罪がかかわり合っていることがありうるため,犯罪の発見を速やかかつ容易にし,あるいは犯罪をかくすことを防ぐ目的で,定められた規定である。当初外因死を疑われ,その後の調査あるいは解剖などにより,最終的に病死であると判明した場合も,それまでの間は異常死体として扱われる。これとは別に,死体を解剖した者は,その死体について犯罪と関係のある異常を認めたときは,同じく24時間以内に警察署に届け出ることが,死体解剖保存法により義務づけられている。いわゆる法定伝染病などによる死亡は,異常死体には含まれないが,公衆衛生上の見地から,診断や検案の時点で,医師に保健所への届出の義務を課している。異常死体に対しては,届出にもとづき警察の調査(検視)が行われる。この際,原則として医師が立ち会い,死体外表の検査(検死)を行う。犯罪による死亡が疑われる場合や,死亡の原因や状況をさらに明確にする必要のある場合には,死体の解剖(司法解剖あるいは行政解剖)を行う。ときに混用される言葉に〈変死体〉があるが,異常死体は,病気によらない死亡をすべて含む点で,その範囲がはるかに広い。
→死亡診断書 →変死
執筆者:福井 有公
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報