百万(読み)ヒャクマン

デジタル大辞泉 「百万」の意味・読み・例文・類語

ひゃくまん【百万】[謡曲]

謡曲四番目物観阿弥原作の「嵯峨物狂さがものぐるい」を世阿弥改作嵯峨野清涼寺大念仏で、わが子恋しと舞う女曲舞くせまいの百万が、観客の中にいた子と再会する。

ひゃく‐まん【百万】

万の100倍の数。また、きわめて大きな数。「百万味方を得た思い」
百万べん」の略。

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精選版 日本国語大辞典 「百万」の意味・読み・例文・類語

ひゃく‐まん【百万】

  1. [ 1 ] 〘 名詞 〙
    1. 万の一〇〇倍。また、非常に数が多いこと。
      1. [初出の実例]「清生百万聖、岳出半千賢」(出典:懐風藻(751)賀五八年〈刀利宣令〉)
      2. [その他の文献]〔国語‐晉語二〕
    2. ひゃくまんべん(百万遍)」の略。
      1. [初出の実例]「左衛門尉季実猶留天王寺、終一旬、終百万帰云々」(出典:台記‐久安二年(1146)九月一六日)
  2. [ 2 ] 謡曲。四番目物。各流。古作「嵯峨物狂」を世阿彌が改作したもの。大和国吉野の男が、奈良西大寺付近で拾った子どもを連れて嵯峨大念仏に行くと、そこへ百万と名のる狂女が来て、念仏音頭をとりながらわが子に会いたいと狂い舞う。やがて男の連れた子どもをわが子と知って正気に戻り、親子は再会する。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「百万」の意味・わかりやすい解説

百万
ひゃくまん

能の曲目。四番目物。五流現行曲。狂女物。観阿弥(かんあみ)作と考えられる『嵯峨物狂(さがものぐるい)』を世阿弥(ぜあみ)が改作したもの。実在した百万という曲舞(くせまい)の名手の芸能尽くしに、母子再会のストーリーを重ね合わせた、春の物狂い能。大和(やまと)の男(ワキ)が、西大(さいだい)寺のあたりで拾った少年(子方)を連れて、嵯峨の清凉(せいりょう)寺釈迦(しゃか)堂の大念仏会(え)に出かける。所の者(間(あい)狂言)がおもしろいものを見せようと大念仏を唱えると、百万(シテ)は、リズムのとり方が悪いといいつつ現れ、笹(ささ)を手に音頭をとる。彼女は夫と死別し、ひとり子とは生き別れになったために狂女となっている。百万は、乱れ心ながら子供を恋いつつ身の上を語り、インド、中国、日本と三国伝来釈迦像の由来を舞い、わが子との再会を祈る。そしてめでたく親子の名のりで終わる。観阿弥は、百万の末流である女曲舞師の乙鶴(おとづる)に学び、その曲舞のリズムを能へ導入した。従来のメロディ本位であった能の音楽革命をもたらしたことと、謡い、語り、舞うことのできるクセが能の構成中心に据えられたことの原点として、『百万』は注目される曲目である。

増田正造

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改訂新版 世界大百科事典 「百万」の意味・わかりやすい解説

百万 (ひゃくまん)

能の曲名。四番目物。狂女物。世阿弥作。観阿弥の演じた《嵯峨物狂》が原拠。シテは百万(狂女)。ある男(僧の場合も,ワキ)が拾った少年(子方)を連れて京都の嵯峨に赴く。嵯峨は大念仏の最中で,寺の門前の男(アイ)が念仏を唱えていると,女(シテ)が現れて人々の念仏の拍子を下手だといい,自分で音頭を取る(〈車ノ段〉)。この女は,ひとり子を失ったことで心が乱れ,古烏帽子(ふるえぼし)をかぶり笹を手にして狂い歩いているのだった(〈笹ノ段〉)。今日も神々へ捧げる舞だといって曲舞(くせまい)を舞う。その内容は,子の行方を尋ねて諸国を巡った身の上話だった(〈クセ〉)。こうして群衆の中にわが子を探し求めるうち,男に連れられているのがわが子と知り,正気に戻る。実在したと思われる女曲舞の百万を主人公とした能だけに,車ノ段,笹ノ段,長いクセと舞いどころが多い。
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