(1)唐代の禅書。百丈懐海(えかい)が制定した禅宗叢林(そうりん)の修道生活を律した規範である。中国仏教において達磨(だるま)を初祖とする新しい主張(禅)がしだいに顕在化する過程において形成されてきた修道形態を、百丈が自らの創意をもって集大成し成文化した、もっとも権威とされ指標と仰がれる清規であるが、惜しむらくは早く散逸し、その全貌(ぜんぼう)を知ることはできない。ただし『景徳伝燈録(けいとくでんとうろく)』百丈懐海の項に付載される「禅門規式」によってその概要をうかがうことができる。すなわち、禅院は従来からの大小乗の戒律にのみ限定されない自由な立場で、博約折衷する独自の制範として、朝暮の法問の応酬と日常の普請作務(ふしんさむ)とを修道の基調とする自給自足体制を確立して、精神的にも経済的にも完全に独立を果たし、寺内の業務を分掌して、おのおの日常基本の生活を修道の場として互いに責務を果たし合うなかに真の自己を修証していくあり方を制定したものである。(2)元代の禅書。正式には『勅修(ちょくしゅう)百丈清規』という。1335年(元統3)順宗の勅命によって百丈山の東陽徳輝(とうようとっき)が編纂(へんさん)にあたり、金陵龍翔寺(りゅうしょうじ)の笑隠大訢(しょういんだいきん)が校正して本書八巻が1338年(至元4)完成し、1342年(至正2)に刊行された。本書は旧来の『禅苑(ぜんねん)清規』『叢林校定清規』『禅林備用清規』を対照考訂し、祝釐(しゅくり)、報恩、報本、尊祖、住持、両序、大衆、節臘(せつろう)、法器の9章と付著にまとめて禅院の結構組織、行事行法などを明らかにしたもっとも広範な内容の清規であり、後代の中国、日本において禅宗の基本的具体相を知る重要な規範として盛んに解説研究がなされた。注解訳書として『百丈清規証義記(しょうぎき)』『勅修百丈清規雲桃抄(うんとうしょう)』『勅修百丈清規左(さけい)』『国訳一切経諸宗部九』などがある。
[小坂機融]
『鏡島元隆・佐藤達玄・小坂機融校注『訳註禅苑清規』(1972・曹洞宗宗務庁)』
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…江西馬祖の禅をうけ,百丈山を創して禅院の独立をはかる。インド仏教の戒律で禁ぜられた生産労働を肯定し,これを普請とよんで,集団生活の基礎とするとともに,住持以下の職制を定め,百丈清規として成文化する。みずから率先して執労し,〈一日作(な)さずんば一日食わず〉と自戒したと伝え,門下に潙山霊祐,黄檗希運などが出て,百丈山は盛期の禅の中心となった。…
※「百丈清規」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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