方丈(読み)ほうじょう

精選版 日本国語大辞典 「方丈」の意味・読み・例文・類語

ほう‐じょう ハウヂャウ【方丈】

[1] 〘名〙
① 一丈(約三・〇三メートル)四方。畳四畳半の広さ。また、その広さの部屋。
万葉(8C後)五・七九四・右詩・序文「所以維摩大士在于方丈染疾之患
② (「孟子‐尽心下」の「食前方丈、侍妾数百人、我得志弗為也」から) 一丈四方の広さにならべられた食物。ぜいたくな食事。〔応璩‐与従弟君苗君胄書〕
③ 仏語。
(イ) 維摩経主人公である維摩居士の、一丈四方のへや。
※十善法語(1775)九「維摩居士が、方丈の室中に八万四千の師子座を容ると」
(ロ) 転じて、一丈四方の僧のへや。禅宗で寺の長老、住職のいるへや。住職の居間
※正法眼蔵(1231‐53)諸法実相「ある夜間に、方丈にして普説するにいはく」 〔法苑珠林‐二九〕
(ハ) さらに転じて、寺の住職。住持。また、仏教の師の敬称としてもいう。方丈和尚。
※平家(13C前)三「育王山の方丈仏照禅師徳光にあひ奉り」 〔白居易‐斎戒満夜戯招夢得詩〕
[2] 三神山の一つ。中国で、東方海上にある神仙が住んでいるとされた想像上の山。方壺(ほうこ)
懐風藻(751)遊吉野山〈中臣人足〉「此地即方丈、誰説桃源賓」 〔史記‐秦始皇本紀〕

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デジタル大辞泉 「方丈」の意味・読み・例文・類語

ほう‐じょう〔ハウヂヤウ〕【方丈】


1辺が1丈(約3メートル)の正方形。1丈四方。また、その広さの部屋。「方丈
維摩ゆいまの主人公である維摩の、1丈四方の居室。転じて、禅寺で、住職の居室。寺の住持。また、住職の称。
古代中国に起こった神仙思想による三神山の一。東方海上にあり、不死の薬を持った仙人が住むという。
[類語]僧侶坊主坊さん御坊お寺様僧家沙門法師出家比丘僧徒桑門和尚住職住持入道雲水旅僧

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改訂新版 世界大百科事典 「方丈」の意味・わかりやすい解説

方丈 (ほうじょう)

禅宗寺院建築本堂,客殿,住職居室を兼ねるもの。丈室ともいう。禅寺住職の尊称にも転用された。インドの在家仏徒である維摩詰(ビマラキールティVimalakīrti)の居庵が1丈(10尺,約3m)四方(四畳半よりわずかに広い)と中国で信じられていたことから,仏徒の小庵や仙境を方丈と呼んだ(鴨長明《方丈記》)。《大宋五山図》に前方丈(路寝)と内方丈(小寝)が記され,路寝では長老住持が接衆教化を行い,小寝は住持常住所とされた。これにより日本の禅寺では中心伽藍の最奥に客殿として本山方丈(前方丈と内方丈)を置き,塔頭(たつちゆう)の方丈と区別した。後に内方丈は住房として伽藍から分離し,前方丈は寝殿造風のものから中門廊が玄関に変わり,内部を6室に分割されるようになって,塔頭方丈と類似平面の大型のものになった。

 本山方丈の遺構は,建仁寺,大徳寺,妙心寺などにあるが,創建建物は失われ再建されたものである。塔頭の方丈は本堂を兼ねることが多く,境内中央近くに配置され,付属の実務所である庫裏(くり)を下手隣に置き,墓塔や昭堂(しようどう)は奥に配した。中門廊から変化した玄関が前面下手に設けられ,正面を吹放しの広縁とする。身舎(もや)を前半3室・後半3室の整形6室取りに間仕切する。正面中央は室中(しつちゆう)と呼ばれ,仏画や位牌などを祀る。室中のみ正面を桟唐戸(さんからど)として仏殿風につくる。庫裏に近い隣室が下間(げかん),遠い方が上間(じようかん)と呼ばれる接客室である。上間の奥は祖師の居間で住持の間といわれ,没後は衣鉢(いはつ)の間とする。下間の奥は祖師在生中は侍者の間で,没後は後継住持の居室となって侍真寮(じしんりよう)などと呼ばれる。室中の奥は眠蔵(みんぞう)で,塗籠(ぬりごめ)や納戸の役割であったが,祖師没後は肖像を祀る真室(しんしつ)とされる。後世には室中に向かって開かれ,位牌などを祀る仏壇を設けた内陣的な室に転じる。大型堂で中奥に仏壇を置き周囲を広い居室風につくる形は他宗派の大衆集会用本堂に応用され,近世の本堂形式の一つの原型になる。方丈(本堂)と庫裏の組合せは近世小寺院の配置に宗派を問わず転用されるようになるのである。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「方丈」の意味・わかりやすい解説

方丈
ほうじょう

禅宗寺院における住職の居室、あるいは住職その人をさす。正堂(しょうどう)、堂頭(どうちょう)、函丈(かんじょう)などともいう。『維摩経(ゆいまぎょう)』「不思議品」で、問疾に訪れた文殊菩薩(もんじゅぼさつ)をはじめとする8000人の菩薩や500人の声聞(しょうもん)たちを、維摩居士(こじ)が、神通力(じんずうりき)をもって一丈(約3メートル)四方の小室に招き入れたという故事による。このことは、中国唐の道世(どうせい)の著した『法苑珠林(ほうおんじゅりん)』でも記されるから、かなり古くから伝えられた説である。住職は方丈にあって、修行者を教えることもあるから、単なる私室以上の意味があり、禅宗寺院では重要な伽藍(がらん)の一つとなっている。大禅院では前(まえ)方丈と内(うち)方丈の区別があり、前方丈は師が修行者に接し導く公的な場、内方丈は私的な居室とされることもある。中国では土間式であるが、日本では早くから和風の様式を採用したらしい。

[永井政之]

『横山秀哉著『禅の建築』(1967・彰国社)』

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百科事典マイペディア 「方丈」の意味・わかりやすい解説

方丈【ほうじょう】

禅宗寺院で長老や住持の居室または客間をいう。堂頭(どうちょう)・堂上・正堂・函丈(かんじょう)とも。維摩居士(ゆいまこじ)の居室が1丈四方であったという伝説に由来。また住持や師に対する尊称にも用いる。最古の遺構は建仁寺。→寺院建築
→関連項目長谷川等伯

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普及版 字通 「方丈」の読み・字形・画数・意味

【方丈】ほうじよう(はうぢやう)

一丈四方。〔孟子、尽心下〕、侍妾數百人は、我(われ)志を得とも爲さざるなり。

字通「方」の項目を見る

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「方丈」の解説

方丈
ほうじょう

「維摩経(ゆいまきょう)」の主人公である維摩居士の1丈四方の部屋。転じて,禅宗で寺の長老・住職のいる部屋をさす。中央部の奥に仏間,左右に檀那之間・礼之間・書院之間などを配す。書院造に仏間をあわせた建築物で,建物の前面に玄関をもつのが特色。玄関とは幽玄な禅の悟りに入る関門の意味で,日本住宅の玄関の由来もここにある。京都東福寺竜吟庵は現存最古の遺構。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「方丈」の意味・わかりやすい解説

方丈
ほうじょう

1丈 (約 3m) 四方の部屋の意で,禅宗寺院の住持や長老の居室をさす。『維摩経』に,維摩居士の室が1丈四方の広さであったという故事に由来する。転じて住職をも意味する。さらに一般的に師の尊称として用いられた。

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世界大百科事典(旧版)内の方丈の言及

【住職】より

…住職という呼称は,今日では宗派を問わず多く用いられているが,歴史的にみると,寺院最高位の僧職の呼称は時代により宗派により,またそれぞれの寺院によって,さまざまの異称や尊称がある。南都系や平安仏教系寺院では寺主(じしゆ),維那(いな),院家(いんけ),隠元(いんげん),浄土真宗や日蓮宗(法華宗)や時宗では上人(しようにん),禅宗では方丈,和尚,住持,長老(ちようろう)などの,住職をさす尊称がそれである。また,由緒ある大寺院ではその寺固有の歴史的呼称もある。…

【禅宗寺院建築】より

…回廊の東には庫院(くいん),浴室,東司(とうす)など,西には僧堂,西浄(せいちん∥せいじよう)などが配される。法堂の北には方丈や客殿があり,伽藍周囲には塔頭(たつちゆう)と呼ばれる子院が置かれた。仏塔は中心部ではなく伽藍後方の高みに建てた。…

【塔頭】より

…明治以降は法的には一末寺としての取扱いをうけている。 塔頭の形態は,卵塔(らんとう),昭堂(しようどう),方丈(ほうじよう),僧堂,書院,庫裏(くり)などから構成される。禅僧の墓を卵塔あるいは無縫塔と呼び,四角,八角の台座に卵形の塔身をのせる。…

※「方丈」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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