石を盆に載せて鑑賞する趣味。名石を鑑賞する趣味は中国より渡来し,室町時代の室礼(しつらい)として書院飾の方式が展開するにともない違棚や床の飾りとして必須のものとなり,〈末の松山〉とか〈夢の浮橋〉といった銘をもつ名石が珍重された。江戸時代中期以降には盆石は文人趣味の一つとして流行し,清原流,竹屋流,相阿弥流,細川流など多数の流派を生んだ。また伝書も種々あらわれ,《蒹葭堂盆石志》《盆山秘言》などが読まれている。盆石は中国の仮山と同じく,本来石だけを盆に据えて鑑賞するものであったが,後には盆山,盆景,盆画,盆庭などと呼ばれる縮景の遊びも含むようになった。盆山,盆景などの語は一様の定義を下しにくいが,まず丸盆や楕円形の盆,扇盆などに石を置き(盆石では〈立てる〉という),これに小さい添え石を二,三あしらい,次に定規,羽などを用いて砂をまき(盆石では〈打つ〉という),波や雲,月などを描きだす芸である。石だけを鑑賞することから,その石を風景の中心に見立てて理想郷を現出せしめる芸道へと盆石は発展したといえる。《嬉遊笑覧》には,盆の上に自然のコケや草木をも植えこんだ盆石を盆景としており,なかには鉢植えに石を立てるものや,家や人物の模型を配置するものもあった。これらは盆石というより箱庭とか盆庭に近いものであろう。
盆石の興味が,名石の鑑賞から離れて背景画である砂絵の描き方に移るとき盆画が生まれる。盆画は色砂を用いて写実的にはなるが,しだいに高雅さを失い,大道芸の砂絵や色砂に蠟をつけて水の上に景色を描く水上画なども生んだ。盆石の風景観は,文人盆石の場合は奇岩奇石の連なる中国山水の画境を求める。流派の発達をみる盆景的な盆石では,和歌の名所をはじめ,富士山などの日本の名勝を下図とし,季節にあわせた趣向をとりあわせ,大和絵の土佐派風の意匠を理想としているが,下図の固定化や通俗化に対して,その改良が叫ばれてきている。
執筆者:熊倉 功夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
黒い漆塗りの盆上に、数個の自然石を置き、大小9種類の砂を配して、大自然の景観をつくりだす日本独特の伝統芸術。盆石の発生は、次のような歴史的背景がある。
[勝野友禧子]
古代から日本人には石を神格化する傾向があり、奈良時代には、石を自然の象徴、神の座として崇(あが)める磐座(いわくら)というものがあった。平安時代になると、庭園を縮図化した盆養(ぼんよう)が愛好されるようになった。これは現在の石付き盆栽のような形式のものである。鎌倉時代に、中国から禅宗が入ると、簡枯洒脱(かんこしゃだつ)の禅特有の自然観から、庭園は水・樹木・土が省略されて「枯山水」の庭ができあがっていったように、盆養においても水・樹木・土の省略が行われ、ここで盆石の祖景ができあがった。この時代の盆石は、1個または数個の石の周りに大小の砂をまいた程度の簡単なもので、現在の水石のような形と考えてよい。室町時代になると、盆石は造園の際の雛形(ひながた)として使われるようになった。室町初期の相阿弥(そうあみ)、善阿弥(ぜんあみ)などの造庭家は、同時に優れた盆石師であった。このような実用性をもって、繰り返しつくりだされるうちに、盆石は、石の不変性と砂の流動との調和によって、自然を再現する芸術にまで高められ、武家や貴族に愛好されるようになった。江戸初期には、茶道にも取り入れられ、茶室の床飾りとして使われるようになった。江戸中期寛政(かんせい)年間(1789~1801)には、盆石の図版が数多く刊行されるほど盛んになり、武家や富裕な町人の間に広がっていった。単なる石の演出的意味から脱皮して、絵画的な構図をもつようになった。当時おもなものだけで八流派あったが、それらの始祖は、いずれも大名諸侯、茶人、造園家であった。現在それらの流れをくんで活動している流派は、遠山(えんざん)、石州(せきしゅう)、細川(ほそかわ)の三流派である。そのうち遠山流、石州流は古典景図の伝承を主としているが、細川流は、古典盆石の伝承とともに、さまざまな創作盆石を行って盆画(ぼんが)もある。
[勝野友禧子]
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…石を盆に載せ,その周辺に砂で風景を描く芸道。広くは盆石と呼ばれ,盆山ともいわれる。江戸時代に流行し,座敷飾の一つとして一般化した。…
※「盆石」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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