芸道(読み)ゲイドウ

デジタル大辞泉 「芸道」の意味・読み・例文・類語

げい‐どう〔‐ダウ〕【芸道】

芸能の道。芸を修業する道。
[類語]芸能演技演芸一芸遊芸芸事話芸大道芸

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精選版 日本国語大辞典 「芸道」の意味・読み・例文・類語

げい‐どう‥ダウ【芸道】

  1. 〘 名詞 〙 芸能の道。技芸の道。
    1. [初出の実例]「一切芸道に、習々覚して、さて行道あるべし」(出典:花鏡(1424)奥段)

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「芸道」の意味・わかりやすい解説

芸道
げいどう

日本の伝統的な武芸、芸能、芸術の世界を含む文化のなかで精神性を重視する芸の道。一般的には芸能とほぼ同義だが、近代日本では芸能というと遊芸あるいは演芸といった遊興性が語感として強く響くので、精神修養や思想性に重きを置く意味合いを「道」の字にもたせて、格の高さを示すためにあえて芸道の語を用いる場合が多い。さらに芸道が芸能と区別される点は、芸能が、観客に見られるのを目的とするのに対し、芸道は、かならずしも観客あるいは鑑賞者を必要とせず、自己修行的な面をもつ点である。芸道ということばは、世阿弥(ぜあみ)の『花鏡(かきょう)』に「一切(いっさい)芸道に、習(ならい)々覚(かく)して、さて行(おこなう)道あるべし」とあるのがもっとも古い用例で、室町時代から使われていた。江戸時代になると、武芸・芸能の語にしばしば「道」の字をつけるようになる。たとえば茶の湯を茶道といい、剣術を剣道という。また弓馬の道と言い習わしていたのを武士道といいかえる。遊芸などに「道」の字をつけて、道徳倫理を強調しても本質が変わるわけではなく、逆説的に道楽という語も生まれる。

[熊倉功夫]

芸道の歴史

芸道はほとんど芸能の本義と変わらず、平安時代の大江匡房(まさふさ)が『江談抄(ごうだんしょう)』に「諸道芸能」といっているように、「芸能の諸(もろ)々の道」で、学問や書画音楽の世界をたしなむことであった。学問のなかでもとくに歌学の展開に伴い、芸道思想として歌道のなかに「あわれ」「幽玄」といった美意識が登場し、他の芸道に影響を与えた。中世に入ると、連歌(れんが)とともに発展した能楽では、先にみたとおり芸道の語を実際用いてその精神や修行論を述べている。ところで、中世までは職業的専門家の芸能者と、これを鑑賞する者とが分離されているのが一般的であったが、江戸時代になると芸能が武士や町人の間で教養化あるいは趣味化して、師匠について自ら芸をたしなみ、楽しむ人々が大量に現れた。こうした芸能を遊芸という。遊芸化の結果、だれにでもとりつきやすい「型」が整序されてくる。日本の芸道はその創始期より型の継承を重視してきた。型は長い年月と優れた芸道者の創意によってつくりあげられ、弟子はこれを習得し、熟練するために稽古(けいこ)に励む。したがって芸道の習練は、個性的な創造を目的とするのではなく、古典的な型を身につけることであった。したがって、型が、やさしい型からむずかしい型へと整理され学びやすくすることで、芸道は大衆化し、遊芸として普及した。

 明治維新後は、西欧から芸術の概念がもたらされ、絵画や書道、あるいは文学などの有形の作品を残す芸道は芸術として型の文化から離脱し、武芸はスポーツとして自立するものが多かった。文明開化の潮流のなかで遊芸視された芸道は衰退したが、芸道の家元をはじめ少数の人々に維持されて、明治時代後半から伝統文化として再生の道をたどった。太平洋戦争ののち、伝統文化として優れた技術を保持する者に対して、重要無形文化財保持者の認定をして国家が保護する制度が生まれ、伝統的な芸道のある者はその認定を受けている。

[熊倉功夫]

芸道の領域

芸道の領域としては大きく分けて芸能・武芸・技芸の三つのジャンルにわたる。芸能には貴族社会に生まれた雅楽(ががく)をはじめとする音楽、和歌・連歌の文芸、蹴鞠(けまり)・貝合(かいあわせ)・囲碁(いご)などの遊戯、とくに中世に発展した幸若舞(こうわかまい)・能・狂言などの舞踊・演劇の舞台芸能、茶・花などの室内芸能、さらに近世的な大衆芸能に歌舞音曲(かぶおんぎょく)があり、寄席(よせ)芸、大道芸などがある。同じく芸能でも民俗芸能は芸道とはよばない。武芸もまた芸道の一つで、弓馬をはじめ、剣、槍(やり)、棒などがあるが、武士のたしなみとしては武芸以外にも武家故実(こじつ)、包丁(ほうちょう)、鷹(たか)などの芸道もある。技芸というのは、主として技術の面の伝承を主とするもので、建築、工芸、書画などがあり、内容は多岐に分かれる。

[熊倉功夫]

伝授と方法

こうした芸道は型の文化として秘伝の厳格な伝承が行われ、たとえば古今(こきん)伝授のように、伝授が偉大な権威とされるようになる。伝承する家に対する権威が生じるところから、芸道の家として特定の血脈を尊ぶ習慣が生まれた。芸道の家は、その芸道を学ぶ弟子が多数存在する場合には家元となって、許状などを発行し、巨大な流派を形成する場合もある。

 芸道は先にも述べたように、師からの型の伝授を基本とし、その徹底した繰り返しのなかから自ら悟って上達するのが稽古である。さらに型の伝授には段階があり、高度の伝授は秘伝とか口伝(くでん)といってひそかに特定の者に伝えられ、しばしば筆紙に残さず口伝えとする。こうした伝授の思想の背景には、言語によって知識化できる段階は低い境地の芸で、高度の芸道は耳目によって覚えるものであり、もっとも高い境地は師の心から弟子の心へ以心伝心(いしんでんしん)によると考える。したがって芸道に関する書物の多くは秘伝書で、師匠は特定の高弟に対し、特別の許可をもって伝書を与える旨、奥書(おくがき)に記してある書物が多く、なかには師の許可を得て、弟子が師の言行を書き留めた聞書(ききがき)と称する伝書の形式もある。芸道伝書としては歌道が早く、続いて楽(がく)、鷹、鞠などの伝書も生まれ、能楽においては世阿弥の『風姿花伝(ふうしかでん)』以下の能楽論が生まれ、江戸時代の初めには多くの芸道の領域で理論が整理された。芸道の理論は、禅宗や儒教、さらに道教や神道思想の影響を受けながら発展し、日本の美意識を代表するものとして注目される。

[熊倉功夫]

『佐々木八郎著『芸道の構成』(1943・冨山房)』『林屋辰三郎編『日本思想大系23 古代中世芸術論集』(1973・岩波書店)』『西山松之助他編『日本思想大系61 近世芸道論』(1972・岩波書店)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「芸道」の意味・わかりやすい解説

芸道
げいどう

中世および近世に伝承され,定型化された多くの日本芸能に関して,その芸のあり方や芸修業,伝授の規範と対象をいうときに用いられる。さらにその沿革をさかのぼり,あるいは広義に解すると,歌学をも包含していわれることもある。芸道の語は,日本の芸が心身の精進,鍛練,修業によって,その修証を得るという芸の神秘観と実践得悟の方法を示すものといえる。世襲によって伝承された家芸としての奥義やの稽古学習をその内容とするが,それらは秘事とされた。

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