盗品等に関する罪(読み)とうひんとうにかんするつみ

改訂新版 世界大百科事典 「盗品等に関する罪」の意味・わかりやすい解説

盗品等に関する罪 (とうひんとうにかんするつみ)

盗品などの品物を無償で譲り受けた者,運搬・保管した者,有償で譲り受けた者,またはその有償の処分のあっせんをした者を罰するもの。刑は盗品その他財産に対する罪に当たる行為によって領得された物を無償で譲り受けた者は,3年以下の懲役(刑法256条1項),前項に規定する物を運搬し,保管し,もしくは有償で譲り受け,またはその有償の処分のあっせんをした者は,10年以下の懲役および50万円以下の罰金(同2項)を併科する。かつては贓物(ぞうぶつ)罪と称していた。

盗品譲受け罪は,財産罪の被害者の盗品等に対する追求権(返還請求権)を保護するものだというのが判例の見解であり,多くの学説が伝統的に採用してきたものでもある。最近の学説には追求権の有無をおよそ問題としないで本罪の成立を認めるべきだという主張もあるが,本罪の成立を認めるためには追求権の侵害ないし危殆化がなければならない。

 しかし,本罪の保護法益を単に追求権と解することは,現行法の規定からすると,不十分である。なぜなら第1に,そのような見解からは,財産犯を犯した者(これを本犯という)に対してさらに財産犯を犯したような場合をも処罰するべきだということになるはずであるが,現行法は本犯と合意のうえ行為することを要求している。第2に,そのような見解からは,現行法が1項を軽く,2項を重く処罰していることを説明しえない。第3に,本犯の被害者からみれば,本罪の行為はその前の財産犯よりはむしろ軽いはずである(本罪の行為によって本犯が発覚することすらある)にもかかわらず,現行法は,2項の場合について罰金を併科することにより,普通の財産罪よりも重く処罰している。したがって,本罪の不法内容には,単に財産罪の被害者の追求権を侵害ないし危殆化することだけでなく,本犯の財産処分を助けることにより,本犯を次の財産犯へと駆り立てる危険性を生ぜしめることが加わっていると考えられる。

本罪の主体となりうるのは,本犯以外の者に限られる。本犯についても,追求権の侵害・危殆化はありうるが,そのことによって彼自身の将来の財産犯を犯す危険を新たに生ぜしめるということはありえないからである。本犯に共同正犯として関与した者も本罪の主体とはならないが,教唆・幇助など狭義共犯として関与したにすぎない者については本罪の主体となりうるというのが判例・通説である。

 本罪の客体は,財産犯によって取得された物に限定される。墳墓を発掘して領得した死体の一部,漁業法違反の行為によって得られた海草は,本罪の客体とはならない。学説上は,本罪を本犯によって違法に生ぜしめられた財産状態を維持存続させることを内容とするものと解し,狩猟法違反・漁業法違反によって取得された物も本罪の客体とする見解も主張されているが,現行法のとる立場でないことは明らかである。賄賂,偽造文書なども本罪の客体とはならない。

 他方,財産犯の構成要件に該当する違法な行為によって取得された物であれば,責任がなく,財産罪が成立しなくても本罪の客体となりうる(1911年の大審院判決は14歳未満の者が窃取した財物を本罪の客体としている)。

 本条にいう盗品等は,判例によれば,被害者が法律上追求することのできるものをいう。したがって,善意取得された場合(民法192条)には,本罪の客体たる資格を失う。しかし民法193条によれば,盗品・遺失物のときは2年間回復を請求することができるから,その間は当然本罪が成立しうる。民法246条により加工者が所有権を取得する場合には,本罪は成立しえないが,窃取した貴金属を変形して金塊としたにすぎない場合は加工にはあたらない。盗品である自転車の一部(車輪,サドル)を取り外し,他の自転車に取り付けた場合でも,その行為が,民法上の付合や加工にあたらない以上,それらについて本罪が成立しうる。このように判例は基本的に,本罪の保護法益を本犯の被害者の追求権と理解し,かつその有無を民法によって定めているといえよう。

 盗品などを売った代金,あるいは盗んだ金銭で買った物については,被害者の追求権はもはや認めえず,本罪の成立を認めえないことは明らかである。また,情報を化体した物を財産罪によって取得した後,それをコピーしたような場合,そのコピーについても本罪の成立を認めることはできない。

 本罪の成立には故意が必要であるが,それは,未必の故意,すなわち,客体は盗品かもしれないと思ったことで足りる。また,財産罪によって取得された物であることの認識があれば足り,それがどのような犯行によって得られたという具体的事実まで知る必要はない。

 配偶者との間または直系血族,同居の親族もしくはこれらの者の配偶者との間で前条の罪を犯した者は,その刑を免除する(257条1項)。前項の規定は,親族でない共犯については適用しない(2項)。本規定は,これらの親族関係にある者が本罪を犯すことは期待可能性が低い,すなわち責任が減少するという考慮に基づくものである。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「盗品等に関する罪」の意味・わかりやすい解説

盗品等に関する罪
とうひんとうにかんするつみ

盗品等、すなわち窃盗、強盗など財産犯の被害にあった他人の財物(贓物(ぞうぶつ))を、無償で譲り受けたり、運搬、保管、有償で譲り受け、有償の処分のあっせんをする罪(刑法256条)。1995年(平成7)の刑法一部改正により、「贓物罪」が現行の罪名に変更された。本罪は、古くは、財産犯人(本犯という)を庇護(ひご)したり、本犯の事後従犯であるとされてきたが、今日では、財産犯の一種として、基本的には贓物に対する追求・回復を困難にする罪と解されている(追求権説)。したがって、まず、「贓物」は、盗品その他、財産に対する罪にあたる行為によって領得された物であり、かつ、本犯の被害者が、法律上これを追求・回復しうる物でなければならない。たとえば、民法上の「加工」などにより被害物との同一性が失われる場合には、もはや贓物ではなくなる。また、盗品や遺失物については、民法第192条の即時取得の規定にもかかわらず、盗難または遺失のときから2年間は、なお回復請求権を有するが、これ以上の期間が過ぎれば、もはや贓物性が失われる。なお、本罪はいずれも故意犯であるから、とくに目的物が贓物であることの認識を要する。罰則は収受が3年以下の懲役、その他は10年以下の懲役および50万円以下の罰金である。本罪には、直系血族や配偶者など一定の親族間の犯罪につき、刑の必要的免除が認められている(刑法257条1項)。

[名和鐵郎]

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百科事典マイペディア 「盗品等に関する罪」の意味・わかりやすい解説

盗品等に関する罪【とうひんとうにかんするつみ】

盗品などの品物を無償で譲り受けた者,運搬・保管した者,有償で譲り受けた者,またはその有償の処分の斡旋(あっせん)をした者を罰するもの(刑法256条)。刑は無償で譲り受けた者に対し3年以下の懲役,それ以外は10年以下の懲役および50万円以下の罰金を併科。これらの行為が一定の親族等の間で行われたときは,刑を免除(刑法257条)。かつては贓物罪と称していたもの。
→関連項目故買

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