直接製鉄(読み)ちょくせつせいてつ(その他表記)direct iron making

改訂新版 世界大百科事典 「直接製鉄」の意味・わかりやすい解説

直接製鉄 (ちょくせつせいてつ)
direct iron making

鉄鉱石から直接鋼を取り出す製鉄法をいう。直接製鉄に対応する間接製鉄という言葉そのものはほとんど用いられないが,高炉-転炉法に代表される製銑製鋼法による製鉄が間接製鉄の実体である。日常生活のなかで普通にみられる鉄,たとえば,自動車用の鋼板,機械構造用の鋼,あるいは亜鉛鉄板(トタン)などの特徴の一つは,炭素をあまり含んでいないことである。一般に炭素が多く含まれる鉄はもろく,曲げたり,延ばしたり,引いたりする加工には向いていず,使いにくい。ところで,鉄の原料である鉄鉱石から効率よく大量に鉄を取り出す装置として世界で最も広く用いられているのは高炉である。しかし,高炉では鉄鉱石から酸素を取り除く還元剤としてコークスを用いるため,炭素を多量に含む加工の困難な銑鉄しか作れない(製銑)。このため,銑鉄を転炉内に移し,酸素を吹き込んで銑鉄中の炭素を一酸化炭素COとして取り除き,炭素含有量の少ない,より加工しやすい鋼に変える(製鋼)。つまり鉄鉱石から直接鋼を取り出さずに,銑鉄という回り道をして間接的に鋼を作るのが,現在の製鉄法の主流である。

 しかし,炭素を一度鉄に溶かし,それを酸素で取り除くこの工程は原理的にはむだともいえる。鉄鉱石から直接に鋼を取り出す直接製鉄が考えられたのはこの理由による。

コークスなどの固体炭素を還元剤として用いた場合でも生成する鉄に炭素を溶かさないように鉄鉱石を還元するには,1200℃以下の比較的低温の反応条件を選べばよい。また,鉄鉱石はコークスなどの固体還元剤を用いなくとも一酸化炭素COあるいは水素H2によっても鉄まで還元することができる。このガスによる鉄鉱石の還元は温度が高いほど効率がよいが,一定温度(約1100℃)以上では生成した鉄の粒子が付着し合って塊になる現象が生ずる。この現象が起こると反応に用いる容器の効率的な運転の妨げになる場合が多い。したがって,CO,H2による鉄鉱石の鉄への還元に用いられる温度としては,いくつかの反応炉形式を除き,通常700~1000℃が選ばれる。以上のように,還元剤として固体炭素を用いる場合も,ガスを用いる場合も反応条件が1200℃以下の低温であれば,生成する鉄は固相状態であり炭素の溶解もわずかである。この鉄は気孔率が高いことから海綿鉄とも呼ばれる。以上のような固相状態の鉄の製造法を一般に直接製鉄と呼んでいる。

鉄鉱石には一般にシリカSiO2,アルミナAl2O3などの不純物が脈石として含まれており,生成した鉄の中にはこれらが分離されずに残るため,この鉄を直接加工して製品にすることはできない。したがって,製鋼用の鉄源とするには,これを転炉,電気炉などでいったん溶解し,不純物をスラグとして除去する。その際,転炉,電気炉内のスラグ生成量が多くならないよう,直接製鉄に用いられる鉄鉱石の鉄分含有量は65%以上が目標とされている。なお,生成した固相状態の鉄を直接加工して製品とする場合には,その原料として製鉄所の熱間圧延工程で生ずる,不純物をほとんど含まない酸化鉄(ミルスケール)が用いられる。また,すでに述べたように,直接製鉄用の還元剤としてはCO,H2も用いられるが,これらのガスは,天然ガス,重油,ナフサなどを炭酸ガスCO2あるいは水蒸気H2Oにより改質して製造される。したがって,天然ガスの豊富な南アメリカや中東では直接製鉄法の導入が有利であり,事実メキシコ,ベネズエラでは設備数も多い。

 1980年代初頭の世界粗鋼生産量7億tのうち直接製鉄法による割合は3~4%にすぎないが,85-90年にはその生産量は約2倍になるものとみられている。現在,直接製鉄用の反応炉形式としてはシャフト炉,固定層炉,ロータリーキルンおよび流動層炉の4種があり,その代表的なものを反応条件も含めて図に示した。1980年時点におけるプロセスの分布をみると,Midrex法(39%),HyL法(38%)による生産が圧倒的に多い。また,還元剤の原料は天然ガスが87%,石炭が11%であり,天然ガス産出地が直接製鉄に有利であることを数字が示している。
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化学辞典 第2版 「直接製鉄」の解説

直接製鉄
チョクセツセイテツ
direct iron-making

高炉を使用する製鉄法では,高炉で鉄鉱石を還元し炭素含有量の高い銑鉄をつくり,この銑鉄を酸素上吹き転炉で脱炭して鋼をつくる.これに対し,鉄鉱石から鋼を直接つくる製鉄法を直接製鉄法とよんでいる.現在,鉄鉱石はほとんど高炉で還元されており,直接製鉄法は非常に特殊な場合にのみ利用されているので,特殊製鉄法とよばれることがある.直接製鉄法で得られる鉄はほとんどが海綿鉄である.還元剤として固体炭素(石炭またはコークス)を用いる場合と気体(一酸化炭素,水素,石油クラッキングガスなど)を用いる場合がある.反応炉は,トンネルキルン,ロータリーキルン,シャフト炉,流動層床,移動ロストルなどが使用される.これらの方法は,一長一短を有しており,どれが一番すぐれた方法であるかは現在のところ答えが出ていない.直接製鉄法に属するほとんどのものが開発途上のもので,今後さらに種々の方法が出現することが予想される.

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

百科事典マイペディア 「直接製鉄」の意味・わかりやすい解説

直接製鉄【ちょくせつせいてつ】

鉄鉱石から直接に鋼または鉄をつくる方法をいうが,通常は高炉によらない製鉄法をさす。固体還元剤を用いるロータリーキルン法,還元ガスを用いるシャフト炉法,レトルト炉法,流動層炉法の4方式が開発されている。

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