日本大百科全書(ニッポニカ) 「相続土地国庫帰属法」の意味・わかりやすい解説
相続土地国庫帰属法
そうぞくとちこっこきぞくほう
相続または遺贈(相続人に対する遺贈に限る)により土地の所有権または共有持分を取得した者が、法務大臣の承認を受けて、その土地の所有権を国庫に帰属させることができる制度を創設した法律。正式名称は「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」(令和3年法律第25号)。2021年(令和3)4月に成立。その具体的な要点は、以下の通りである。
①相続または遺贈(以下、「相続等」という)によって、土地の所有権または共有持分を取得した者等は、法務大臣に対して、その土地の所有権を国庫に帰属させることについて、承認を申請することができる(相続土地国庫帰属法2条1項)。
②法務大臣は、承認の審査をするために必要と判断したときは、その職員に事実の調査をさせることができる(同法6条1項)。
③法務大臣は、承認申請された土地が、通常の管理や処分をするよりも多くの費用や労力がかかる土地(後述)として法令に規定されたものにあたらないと判断したときは、土地の所有権の国庫への帰属について承認しなければならない(同法5条1項)。
④土地の所有権の国庫への帰属の承認を受けた者が、一定の負担金を国に納付した時点で、土地の所有権が国庫に帰属する(同法11条1項)。
[野澤正充 2025年1月21日]
制度の目的
相続土地国庫帰属法は、所有者不明土地の発生を予防することを目的としている。ここにいう所有者不明土地とは、「相当な努力を払ってもなおその所有者の全部又は一部を確知することができない土地をいう」(同法1条)と定義されている。このような所有者不明土地は、とりわけ土地の相続によって問題が生じることが多い。すなわち、①土地利用ニーズの低下等により、土地を相続したものの、土地を手放したいと考える者が増加している。また、②相続を契機として、土地を望まず取得した所有者の負担感が増しており、管理の不全化を招いている。そこで、将来的に土地の所有者が不明となり、管理不全となることを予防するため、相続等によって取得した土地を手放して、国庫に帰属させることを可能とする制度が創設された。
ところで、相続土地国庫帰属法の原案をまとめた法務省法制審議会民法・不動産登記法部会では、当初、民法において、土地の所有権の放棄を認める方向での検討が進められた。すなわち、土地所有権の放棄を認め、無主物(所有者のない不動産)としたうえで国庫に帰属させる(民法239条2項)ことを可能とする制度の要件が検討された。しかし、そもそも土地所有権の放棄が実体法上認められるのか、という法理上の問題に加え、土地以外の不動産(建物)や動産の所有権の放棄の可否も問題となった。そして、最終的には、土地所有権の放棄の可否については、民法に規律を設けることなく、土地所有権の国庫への帰属を、以下のような要件の下に認める法律として、相続土地国庫帰属法が制定されることとなった。
[野澤正充 2025年1月21日]
承認申請の要件
(1)承認申請権者
土地所有権の国庫帰属の申請をすることができるのは、相続等によって土地を取得した者である(相続土地国庫帰属法2条1項)。このように、申請権者を相続等による土地取得者に限定したのは、①相続等が所有者不明土地の生じる最大の原因であること、および、②自らが進んで取得したのではない土地については、管理負担を免れる道を開くことが相当であると考えられたためである。したがって、相続等以外の原因(売買など)により自ら土地を取得した者や、相続等により土地を取得することができない法人は、原則として、申請権者となることはできない。
また、相続等により、土地の共有持分を取得した共有者は、共有者の全員が共同して行うときに限り、承認の申請をすることができる(同法2条2項前段)。さらに、土地の共有持分を相続等以外の原因により取得した共有者(たとえば、売買により共有持分を取得した共有者)がいる場合であっても、相続等により共有持分を取得した共有者がいるときは、共有者の全員が共同して行うことによって、承認申請をすることができる(同法2条2項後段)。
(2)承認申請のできない土地(却下要件)
以下の土地は、国庫帰属の承認申請をしても、申請の段階で直ちに却下となるものである(同法2条3項)。いずれも、通常の管理または処分をするにあたって、過分の費用または労力を要する土地であるため、国庫帰属の制度の対象外とされる。すなわち、①建物がある土地、②担保権や使用収益権が設定されている土地、③他人の利用が予定されている土地、④土壌汚染されている土地、または、⑤境界が明らかでない土地、所有権の存否や範囲について争いがある土地である。
(3)承認を受けることができない土地(不承認要件)
以下の土地は、承認申請の対象とはなるものの、承認を受けることができない(同法5条1項)。国の財政負担等の観点から、通常の管理または処分をするにあたり、過分の費用または労力を要する土地は、承認されないものとされている。すなわち、①一定の勾配(こうばい)・高さの崖(がけ)があって、管理に過分な費用・労力がかかる土地、②土地の管理・処分を阻害する有体物が地上にある土地、③土地の管理・処分のために、除去しなければいけない有体物が地下にある土地、④隣接する土地の所有者等との争訟によらなければ管理・処分ができない土地、⑤その他、通常の管理・処分にあたって過分な費用・労力がかかる土地である。
(4)損害賠償責任
国庫帰属の承認を受けたときに、(2)また(3)のいずれかに該当する事由があったことによって国に損害が生じた場合において、当該承認を受けた者が当該事由を知りながら告げずに承認を受けた者であるときは、その者は、国に対してその損害を賠償する責任を負う(同法14条)。
[野澤正充 2025年1月21日]
承認の通知・負担金の納付等
法務大臣は、国庫帰属の申請の承認をし、またはしないこととしたときは、その旨を承認申請者に通知しなければならない(同法9条)。そして、土地所有権の国庫への帰属の承認を受けた者は、承認された土地につき、国有地の種目ごとにその管理に要する10年分の標準的な費用の額を考慮して算定した額の負担金を納付しなければならない(同法10条1項)。この負担金の額は、承認の通知の際に、あわせて通知され(同法10条2項)、承認申請者が、その通知を受けた日から30日以内に負担金を納付しないときは、当該承認は、その効力を失う(同法10条3項)。
承認された土地所有権の国庫帰属の時期は、法務大臣による承認のときではなく、承認申請者が負担金を納付したときである(同法11条1項)。
[野澤正充 2025年1月21日]
『松尾弘著『所有者不明土地の発生予防・利用管理・解消促進からみる改正民法・不動産登記法』(2021・ぎょうせい)』▽『〔WEB〕法務省民事局『相続土地国庫帰属制度の概要』 https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00457.html#mokuji1(2025年1月閲覧)』