不動産登記法(読み)フドウサントウキホウ

デジタル大辞泉 「不動産登記法」の意味・読み・例文・類語

ふどうさんとうき‐ほう〔‐ハフ〕【不動産登記法】

不動産の表示(土地建物の所在や面積など)および不動産に関する権利所有権抵当権地上権など)を公示するための登記の手続きについて定めた法律。明治32年(1899)制定。平成16年(2004)に全部改正された。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「不動産登記法」の意味・わかりやすい解説

不動産登記法
ふどうさんとうきほう

不動産登記に関する制度を定めた法律(平成16年法律第123号)。すなわち、不動産登記法は、不動産の表示および不動産に関する権利を公示するための登記制度について定めるものである。この不動産登記制度があることによって、不動産(土地または建物)がどのような不動産なのか、だれが所有権を有しているか、また、その不動産についている権利(抵当権など)があるかなどが記録され、不動産についての権利が保全されるとともに、その登記記録を閲覧することによって、不動産取引が円滑かつ安全になされることとなる(不動産登記法1条参照)。たとえば、土地を買い、そこに家を建てて居住しようと考えたとしても、その土地に売り主が銀行のための抵当権を設定していると、銀行が抵当権を実行したときは、買い主は土地の所有権を失うこととなる。しかし、土地の登記簿に抵当権が記録されていれば、これから土地を買おうとする者は、その土地にどのような権利が設定されているかを知ることができ、不測損害を被ることがなくなる。そこで、不動産をめぐる権利関係を公示するために設けられたのが不動産登記制度であり、この制度を規律するのが不動産登記法である。

[野澤正充 2025年1月21日]

沿革

不動産登記法は、沿革的には、登記法(明治19年法律第1号。旧、登記法)にさかのぼり、同法は、登記簿の編成に関して、年代順編成主義や人的編成主義ではなく、不動産ごとに登記記録を行う物的編成主義を採用した。というのも、物的編成主義は、検索が容易であり、また、重複登記等の矛盾する登記がなされることを回避できるからである。その後、1899年(明治32)に、不動産登記法(明治32年法律第24号)が制定され、旧登記法は廃止された。この1899年の不動産登記法は、一不動産一登記記録の原則を採用し、また、一登記用紙の構成が、表示に関する登記が記録される表題部と権利に関する登記が記録される権利部(所有権に関する甲区と、所有権以外の権利に関する乙区に分かれる)とされるなど、今日の不動産登記制度の基礎を確立するものとなった。

 不動産登記法は、不動産登記制度の電子化の要請に伴い、2004年(平成16)6月に全部改正された。この改正では、従前の「登記用紙」にかえて、「登記記録」という語が用いられ(不動産登記法2条5号、11条以下参照)、また、電子申請が行われるようになった(同法18条1号参照)。また、翌2005年の改正では、筆界特定制度が新たに設けられた(同法123条以下)。筆界とは、ある土地が登記された際に、その土地の範囲を区画するものとして定められた線である。そして、後述のように、2021年(令和3)の所有者不明土地の解消に向けた改正によって、相続登記の申請義務などの規定が新たに設けられた(同法76条の2、76条の3)。

[野澤正充 2025年1月21日]

不動産登記法の内容

(1)表示に関する登記・権利に関する登記
冒頭に述べたように、不動産登記法は、不動産の表示を公示するための登記(表示に関する登記)と不動産に関する権利を公示するための登記(権利に関する登記)についての制度を定めるものである(不動産登記法1条)。ここにいう「表示に関する登記」(同法2条3号)とは、公示の対象となる不動産を特定し、その現況を明らかにするものであり、登記記録の表題部に記載される。また、「権利に関する登記」(同法2条4号)とは、不動産についての所有権、地上権等の用益権や、先取特権、質権、抵当権等の担保物権等の権利を保存等(同法3条参照)するための登記である。民法第177条は、「不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法(平成16年法律第123号)その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない」と定め、この場合における第三者に対して不動産についての権利を主張するための登記となるのが、権利に関する登記である。このほかにも、民法は、不動産についての権利を保存し(例、民法337~340条)、効力を発生させ(例、民法374条)、あるいは第三者に対する対抗要件として(例、民法605条)、権利に関する登記を要求する。

 なお、権利に関する登記は、登記記録のうちの「権利部」に記録される(不動産登記法2条8号)。そして、権利部は、甲区と乙区に区分され、所有権に関する登記の登記事項は甲区に、また、所有権以外の権利に関する登記事項は乙区に記録される(不動産登記規則4条4項)。

(2)登記の申請
不動産登記法は、申請主義を採用し、原則として、「当事者の申請又は官庁若(も)しくは公署の嘱託がなければ」、登記をすることができない(同法16条1項)ものとする。このように申請主義が採用されたのは、私的自治の原則に基づく。すなわち、登記は私権の保護を目的とするため、その手続も、当事者の自由な意思にゆだねれば足りるからである。それゆえ、私権の保護を目的とせず、不動産を特定するための表示に関する登記は、「登記官が、職権ですることができる」(同法28条)との職権主義を採用している。

 ところで、不動産登記法第60条は、「権利に関する登記の申請は、法令に別段の定めがある場合を除き、登記権利者及び登記義務者が共同してしなければならない」との共同申請の原則を採用している。この共同申請の原則は、①登記によって利益を受ける登記権利者の意思を確認するとともに、②登記権利者のみの申請によって登記をすると、不真正な登記が行われるおそれがあるため、その登記によって不利益を受ける登記義務者の申請を加えることにより、実体関係に合致する蓋然(がいぜん)性が高くなることに基づく。そして、共同申請における「登記義務者」は、つねに既存の登記記録の権利名義人であるため(同法25条7号参照)、共同申請主義は、登記の連続性を確保する手段として機能している。

 さらに、「権利に関する登記を申請する場合には、申請人は、法令に別段の定めがある場合を除き、その申請情報と併せて登記原因を証する情報を提供しなければならない」(同法61条)。そして、登記官は、申請にあたって提出された情報と既存の登記記録とを資料として、実体関係の存在がとくに疑わしいと思われる場合には、申請を却下しなければならない(同法25条参照)。このような権利に関する登記の審査の方式を、形式的審査主義という。これに対して、表示に関する登記については、実質的審査主義がとられ、登記官は、「必要があると認めるときは、当該不動産の表示に関する事項を調査することができる」(同法29条1項)。

(3)登記の効力
権利に関する登記のおもな効力は、対抗力である。すなわち、上記のように、民法第177条は、不動産についての権利を登記しなければ、その権利を「第三者に対抗することができない」とする。この「対抗する」とは、権利の存在を積極的に主張することを意味する。たとえば、Aの所有する甲土地にB銀行のために抵当権が設定されたとしても、抵当権の登記をしておかなければ、その後にAから甲土地を取得したCに対して、B銀行は抵当権の存在を主張することができない。半面、B銀行が抵当権を登記しておけば、Aが期限に貸金を返済しない場合には、B銀行はCが取得した甲土地の抵当権を実行することができる。

[野澤正充 2025年1月21日]

2021年(令和3)の改正

(1)所有者不明土地問題の背景
近年は、所有者不明土地が生じ、その利用が阻害される等の問題が起きている。もっとも、「所有者不明土地」についての統一的な定義はなく、法律によって異なる定義が用いられているが、一般的には、所有者不明土地とは、①不動産登記簿により所有者がただちに判明しない土地、または、②所有者が判明しても、その所在が不明で連絡がつかない土地であるとされている。そして、このような所有者不明土地が発生する最大の要因としては、相続登記の申請が義務ではなく、申請しなくても不利益を被ることは少なかったことがあげられた。また、土地所有権の登記名義人の住所が変更されても、住所変更登記が義務ではなく、かつ、自然人・法人を問わず、転居・本店移転等のたびに登記するのには負担を感じ、放置されがちであったことも所有者不明土地の発生原因となっていたとされる。そこで、所有者不明土地の発生を予防する方策として、2021年の不動産登記法の改正では、相続登記の申請を義務化し、その促進を図るとともに、住所変更未登記への対応のための仕組みが設けられた。

(2)相続登記の促進
不動産登記法は、相続登記を促進するための方策として、一方では、相続人の側に相続登記の申請を義務化するとともに、他方では、登記官の側にも、登記名義人の死亡情報を入手して、これを登記に反映させる方法を取り入れた。

 まず、不動産を取得した相続人に対し、その取得を知った日から3年以内に相続登記の申請をすることを義務づけた。すなわち、「所有権の登記名義人について相続の開始があったときは、当該相続により所有権を取得した者は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、当該所有権を取得したことを知った日から3年以内に、所有権の移転の登記を申請しなければならない」とし、「遺贈(相続人に対する遺贈に限る)により所有権を取得した者も、同様とする」とした(不動産登記法76条の2第1項)。そして、相続人が「正当な理由がないのにその申請を怠ったとき」は、10万円以下の過料に処せられる(同法164条1項)とした。

 もっとも、相続人が申請義務を簡易に履行することができるようにする観点から、相続人申告登記が新たに設けられた。すなわち、①所有権の登記名義人について相続が開始した旨と、②自らがその相続人である旨を申請義務の履行期間内(3年以内)に登記官に対して申し出ることによって、申請義務が履行されたものとみなされる(同法76条の3第1項・第2項)。この場合に、申出を受けた登記官は、申出をした相続人の氏名・住所等を職権で登記に付記することができる(同法76条の3第3項)。

 また、登記官の側における、登記名義人の死亡情報を入手して、これを登記に反映させるものとしては、登記官が他の公的機関(住民基本台帳ネットワーク〈住基ネット〉など)から死亡等の情報を取得し、職権で登記に表示する(符号で表示)制度が導入されることになった(同法76条の4。2026年4月施行)。この制度により、登記記録から所有権の登記名義人の死亡の有無を確認することができ、民間事業や公共事業の計画段階等において、所有者の特定やその後の交渉に手間やコストを要する土地や地域を避けることが可能になり、事業用地の選定がより円滑になることが期待される。

(3)住所変更未登記への対応
不動産登記法は、所有権の登記名義人に対し、住所等の変更日から2年以内にその変更登記の申請をすることを義務づけるものとし(同法76条の5。2026年4月施行)、「正当な理由」がないのに申請を怠った場合には、5万円以下の過料に処することとした(同法164条2項。2026年4月施行)。

[野澤正充 2025年1月21日]

『松尾弘著『所有者不明土地の発生予防・利用管理・解消促進からみる改正民法・不動産登記法』(2021・ぎょうせい)』『鎌田薫他編『新基本法コンメンタール 不動産登記法』第2版(2023・日本評論社)』『山野目章夫著『不動産登記法』第3版(2024・商事法務)』『〔WEB〕法務省民事局『令和3年民法・不動産登記法改正、相続土地国庫帰属法のポイント』 https://www.moj.go.jp/content/001401146.pdf(2025年1月閲覧)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「不動産登記法」の意味・わかりやすい解説

不動産登記法
ふどうさんとうきほう

平成16年法律123号。不動産登記に関する手続きを規定する法律。不動産に関する物権の得喪および変更は登記をしなければ第三者に対抗できないとする民法の規定(177条)に対応する手続法で,物的編成主義をとる。1899年制定の旧不動産登記法は制定以後たびたび改正を重ねたが,1960年の改正では土地台帳法(→土地台帳),家屋台帳法を廃止して本法に吸収した。その後 2004年には,不動産登記についての現代化,特にオンライン申請(電子申請。→登記申請)の導入をはかることを目的として大改正され,現行法になった。

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世界大百科事典(旧版)内の不動産登記法の言及

【不動産登記】より

… 不動産登記は,不動産そのものの客観的状況を公示する〈表示に関する登記〉と,その不動産に関する物権の得喪・変更を公示する〈権利に関する登記〉に分けられるが,この表示に関する登記と権利に関する登記とがあいまって,不動産の取引に入ろうとする第三者を保護し,不動産取引の安全と円滑が図られることになる。 日本で不動産登記といえば一般には,不動産登記法(1899公布)に定める土地または建物についての登記をいうが,より広い意味では〈立木ニ関スル法律〉(1909公布)による立木(りゆうぼく)の登記あるいは工場抵当法(1905公布)等の特別法による各種の財団登記等を含めて不動産登記と総称することもある。
[登記の効力]
 登記には,対抗力,権利推定力,形式的確定力などの効力が付与されているが,このうち中心的なものは対抗力である。…

※「不動産登記法」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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