真政大意(読み)しんせいたいい

日本大百科全書(ニッポニカ) 「真政大意」の意味・わかりやすい解説

真政大意
しんせいたいい

明治時代の国法学者加藤弘之(ひろゆき)の初期思想を代表する主著。1870年(明治3)刊。『鄰草(となりぐさ)』発刊(1661)以来、西洋文明の中核を議会制度にみ、その紹介を続けてきた加藤の立憲思想は、この書において全面的に開花したといえる。「治国ノ本意」は「安民」であり、「憲法」とは「自ラ暴主ヲモ明君トナラシメ、姦臣(かんしん)ヲモ賢相トナラシム種」という、儒教の「安民」「仁政」という観念を基礎としながらも、その具体的内容においては、「権利ト義務」、法の前の平等、参政権などの新しい政治思想が摂取され、それを根拠として、専制政治が厳しく批判される。新しい体制を模索して新政府が西洋文明を貪欲(どんよく)に摂取していた時期とそれは照応するものであった。1881年加藤は、進化論へ傾斜するなかで、『国体新論』(1875)とともにこの書の絶版を宣言し、初期思想からの脱却を志向するに至る。

[渡辺和靖]

『『日本の名著34 西周・加藤弘之』(1971・中央公論社)』

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「真政大意」の解説

真政大意
しんせいたいい

明治前期の啓蒙的な政治理論書。上下2冊。加藤弘之(ひろゆき)著。1870年(明治3)7月刊。前著「立憲政体略」をうけ,政府は国民の権利を守るために作られたものであり,国民は政府に生命・権利・私有保護される権利をもつと説くなど,天賦人権説による立憲政体のあり方を論じた。共産主義・社会主義などの新思想も紹介している。その内容は自由民権運動に大きな影響を与えた。81年に「国体新論」とともにみずから絶版にした。「明治文学全集」所収

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旺文社日本史事典 三訂版 「真政大意」の解説

真政大意
しんせいたいい

明治前期,加藤弘之の啓蒙書
1870年刊。天賦人権説の立場から,西洋の立憲政体を紹介。政府の職務は国民の生命・権利・財産の保護と,国民の指導・教化にありと説く。のち進化論を奉じ天賦人権説を捨てみずからこの書を絶版にし,『人権新説』('82)を著した。

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世界大百科事典(旧版)内の真政大意の言及

【加藤弘之】より

…在職中ドイツ語を学び,西洋の政治社会を研究して翌年《隣草》を,68年(明治1)《立憲政体略》を著し,欧米の立憲政治を紹介した。《真政大意》(1870)を発表後,73年明六社同人となり,翌年民撰議院設立建白に際し,時期尚早論を展開したものの,《国体新論》(1875)を著すなど,このころまで天賦人権論に立脚した平等思想の啓蒙に努めた。だが,自由民権運動の進展に対応するかたちで,進化論の影響を受けて,その立場を回転させて人権思想の否認に傾斜し,82年《人権新説》を刊行して優勝劣敗の社会進化論へ〈転向〉し,《真政大意》《国体新論》をみずから絶版にした。…

※「真政大意」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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