小説家。熊本県天草に生まれ、まもなく水俣(みなまた)に移住した。父は石工。神経を病んだ祖母に守りされて不知火(しらぬい)海を見て育つ。商業実務学校卒業後、1947年(昭和22)結婚、平凡な主婦であったが、しだいに姿をあらわにしてくる水俣病への関心を深め、詩人、谷川雁(がん)のサークル村にも加わりつつ『苦海浄土(くがいじょうど)――わが水俣病』(1969)をまとめあげる。方言を駆使した語り体で、表現をもたない患者の代弁者として水俣病を描ききり、視線は日本近代の総体に対する批判にまで及んでいる。続く『天の魚』(1974)、『椿(つばき)の海の記』(1976)で、水俣病患者を描いた三部作を完成させる。その後も『草のことづて』(1977)、『石牟礼道子歳時記』(1978)、『西南役(せいなんのえき)伝説』(1980)、『おえん遊行』(1984)、エッセイ集『陽(ひ)のかなしみ』(1986)、『乳の潮』(1988)、自伝的エッセイ『不知火ひかり凪(なぎ)』(1989)、時代小説『十六夜(いざよい)橋』(1992。紫式部文学賞)、エッセイ『葛(くず)のしとね』(1994)、自伝エッセイ集『蝉和郎(せみわろう)』(1996)、『形見の声――母層としての風土』(1996)、神話的な世界を描いた小説『水はみどろの宮』、『天湖(てんこ)』(ともに1997)、天草・島原の乱に材をとった大河小説『アニマの鳥』(1999)、水俣病を語り続けた著者の評論集『潮の呼ぶ声』(2000)、『煤(すす)の中のマリア――島原・椎葉(しいば)・不知火紀行』(2001)など、エッセイ、文明批評、小説を発表してきた。テーマは一貫して、高速化する近代に失われた風土の魂を救出する道の模索である。2001年(平成13)朝日賞受賞。
[橋詰静子 2018年2月16日]
『『椿の海の記』(1976・朝日新聞社)』▽『『草のことづて』(1977・筑摩書房)』▽『『石牟礼道子歳時記』(1978・日本エディタースクール出版部)』▽『『おえん遊行』(1984・筑摩書房)』▽『『乳の潮』(1988・筑摩書房)』▽『『不知火ひかり凪』(1989・筑摩書房)』▽『『葛のしとね』(1994・朝日新聞社)』▽『『蝉和郎』(1996・葦書房)』▽『『形見の声――母層としての風土』(1996・筑摩書房)』▽『『水はみどろの宮』(1997・平凡社)』▽『『天湖』(1997・毎日新聞社)』▽『『アニマの鳥』(1999・筑摩書房)』▽『『人間の記録 石牟礼道子』(1999・日本図書センター)』▽『『潮の呼ぶ声』(2000・毎日新聞社)』▽『『石牟礼道子対談集――魂の言葉を紡ぐ』(2000・河出書房新社)』▽『『煤の中のマリア――島原・椎葉・不知火紀行』(2001・平凡社)』▽『『西南役伝説』(朝日選書)』▽『『陽のかなしみ』(朝日文庫)』▽『『十六夜橋』(ちくま文庫)』▽『『苦海浄土』『天の魚』(講談社文庫)』▽『羽生康二著『近代への呪術師・石牟礼道子』(1982・雄山閣)』▽『河野信子・田部光子著『夢劫の人 石牟礼道子の世界』(1992・藤原書店)』▽『下村英視著『もうひとつの知――石牟礼道子に導かれて』(1994・創言社)』▽『鶴見和子著『鶴見和子・対談まんだら 石牟礼道子の巻』(2002・藤原書店)』
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
米テスラと低価格EVでシェアを広げる中国大手、比亜迪(BYD)が激しいトップ争いを繰り広げている。英調査会社グローバルデータによると、2023年の世界販売台数は約978万7千台。ガソリン車などを含む...
11/21 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新
10/29 小学館の図鑑NEO[新版]動物を追加
10/22 デジタル大辞泉を更新
10/22 デジタル大辞泉プラスを更新
10/1 共同通信ニュース用語解説を追加